第6話

その頃レイルは自室に籠り1人泣いていた。

無理もない、いくら天才でもレイルはまだ6歳なのだ。

それが実の父親にあんな言葉を投げかけられたら心が壊れてしまう。


1人これから何をするか途方に暮れていると、突然扉がコンコン、コンコンと鳴る。

静かにそして深い声で


「レイル…入って良いかしら?」


と聴こえてきた。

綺麗な銀髪の不思議な雰囲気のする女性。

それは母ミザリーだった。

レイルは咄嗟に涙を拭い、母を招き入れる。


「母上…どうぞ。

どうしたのですか?母上がこちらに来られるなんて珍しいですね。」


するとミザリーが


「あら、最愛の息子の顔を見に来るのに理由がいりますか?中々会いに行く時間がなかったのです。ごめんなさいね。」


とレイルを抱きしめた。

するとレイルは堰を切ったように涙が止まらなくなっていた。

するとミザリーは驚いて


「あらあら、どうしたのですか?レイル?辛いことでもあったのですか?母に聞かせてごらんなさい。」


「うぅっ、ぐすっ!…はい、実は………」




「…そうでしたか。そんな事があったのですね。

ごめんなさいね…レイル。

貴方を守ってあげれなくて。

今は、今だけはこの母に甘えなさい。私の最愛の子。」


ミザリーはベットで泣き疲れ眠るレイルを撫でながら悲痛な面持ちで


「本当にごめんなさいレイル…貴方に苦しい思いをさせて。でも今はまだ時ではないの……その時が来るまでは…この母を恨んでも構いません。それで貴方が救われるのならば…」


と呟き、部屋を静かに出で行くのであった。






2週間後ミザリーが屋敷からこつぜんと姿を消した………



リッツオール家は喧騒にまみれていた。

グランの怒号が聞こえる。


「ミザリーは何処へ行った!まさか誘拐ではあるまいな!?」


執事のスチュワートも慌ててグランに


「旦那様!どの部屋にも奥様は居られませんでした!」


「くっ!探せぇー!賊がいるのならば引っ捕らえろ!私自ら打首にしてくれるっ!!」


そこにグランと同じ赤髪の女性が現れる。

リッツオール伯爵家第一夫人リーザ・フォンリッツオールだった。


「貴方、あまり怒りすぎると疲れますよ?それにミザリーは優秀な魔術使いでしたが元々どこの出かもわからない女でしたから、……案外自分から出ていったのかもしれませんわよ?」


リーザは心の奥でミザリーを妬んでいたのだ。

元は第一夫人であるリーザがグランの愛を一心に受けていたにも関わらず、グランがその容姿と魔術の実力に惚れ込んでミザリーを第二夫人に迎え入れたのだ。

そしてレイルが生まれ膨大な魔力があるとわかった途端、ますますリーザは構ってもらえなくなっていたのだ。

リーザの嫉妬の炎は増すばかりだった。


グランはリーザの言葉に落ち着き


「し、しかしだな、誘拐という事もある。」


「あら、あの女がそう簡単に誘拐されるとでも?それは貴方が1番分かってるのではなくて?」


「むぅっ。そうだが、…だがしかし万が一という事もある!私はこのままミザリーの捜索を続ける!」


リーザはミザリーが居なくなって内心喜び、飛び上がりたい気持ちを抑えながら


「はいはい、お好きになさって下さいな。それではまた晩餐でお会いしましょう。」


と去って行ったのだった。


結局この後グランは自領中を探したがミザリーは見つからず1ヶ月が経過した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る