醜くも美しい世界
猫じゃらし
第1話
おぎゃぁあぁぁー、おぎゃぁあああっー!」
屋敷中に赤ん坊の声が響く。
「おぉっ!産まれたか!」
「ハイ!旦那様!元気な男の子です!」
屋敷の一室に体躯のいい赤髪の男性、リッツオール家当主グラン・フォン・リッツオール。
ベットに寝ている銀髪の女性、ミザリー・フォン・リッツオール。そして助産師、鑑定士が居た。
リッツオール家は代々優秀な魔法師を輩出する伯爵家であった。
「良くやったぞミザリー!」
「……ありがとうアナタ」
「して、魔力保有量はどうなのだ?」
グランが鑑定士に問う。
鑑定士の額から一筋の大粒の汗が流れる…
「だ、旦那様、も、申し訳ありません!鑑定不可でございます。」
「ど、どう言う事だっ!!息子に魔力がないと申すのかっ!」
「ヒィっ!ち、違うのですっ!お子様の魔力量が膨大過ぎて鑑定の水晶が壊れて鑑定出来ないのです!」
「なに?今回使った鑑定の水晶はアーティファクト、壊れない代物だぞ?」
鑑定士は思案気味にグランの問いに応える。
「はい…、通常ならば壊れる事は御座いません。しかし…2度ほど壊れたと言う記録が御座います。それは……」
「それは?」
「約3,000年前の神魔戦争時のレイル勇者様と魔王ギラン。その両者のみで御座います…
これ以上の事を調べるには王宮の国宝、原初の鏡か
エルフの郷の世界樹の麓に住んでいるとされる4大魔女の1人に診てもらうしかありません。」
「ふ、ふふ、ふははははっ!それは本当か!?
しかし……エルフの郷は閉鎖的で入れない、原初の鏡も国王様に息子の為に使わせてくれなんて言えるはずもなし…どうするか…」
(…いや、この子に膨大な魔力が有るのは間違いない。無理に調べて国王様の心象を悪くする必要はない…か。他の王侯貴族共にやっかみを受けるのも面倒だしな。
ならばここはゆっくり確実に動くか。
無理なら他の息子達もいる事だ。よし!)
この時グランに1つの火が心に灯ってしまった。
それは長年グランが無理だろうと諦めてしまっていた思惑。
(よしっ!よしよしっ!これで我がリッツオール家も公爵家、そして王家にも繋がりができるかも知れん!)
「この子の名はレイルだ!折角だからな。勇者様の名前を貰おうではないか。良いな?ミザリー?」
ミザリーは目を開きそしてスッと細め
「……えぇ、そうしましょう、…それが良いわ。」
ミザリーは顔を伏せ我が子を覗き、目が怪しく光っていたのだった。
それから5年後…
「レイルーッ!魔法の練習しましょー!」
この日はリッツオール家の屋敷に1人の少女が遊びに来ていた。彼女はこの国ミリザリア皇国公爵家次女ナナリー・ツー・リンドブルムであった。
「ナナリー様…?!ここに来られたら困ります!父上に怒られてしまいます!」
「なぜ?私はアナタの婚約者なのよ?来て当然ではなくて?」
「それは…私が魔法を使えないからですよ。いえ、簡単なものなら使えますが効果が最低、それ以上の魔力が出せないのですから。それはナナリー様もご存じでしょう?」
ナナリーが腰に手を当て片手をこちらに指差し。
「ふーんっ、そんなもの知らないわっ!私はレイルが気に入ってるの!魔法が使える使えないは問題じゃないわ!」
そんなナナリーにレイルは嬉しいような困った顔で
「ありがとう御座います、ナナリー様」
「さぁ!魔法の練習を始めましょう?それに練習しないと出来るものも出来ないわよ?
という訳で今日は水魔法よ!頑張りましょうレイル!」
「…はい!」
と微笑むのだった。
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