【ぼくのおとうさん】
ぼくのおとうさんは、小がっこうのこうちょう先生だった。
まじめできっちりとしたせいかくで、ぼくと正はんたい。
おとうさんはがくせいのとき、どりょくかであたまがよかったけど、ぼくはあたまがわるかったので、おとうさんによくばかにされた。
だから、とくにぼくが中がく、高こうのときは、ぜんぜんはなしをしなかったな。
ぼくが小がっこうや中がっこうのときの、ぼくのたんにんの先生たちは、ぼくが小がっこうの先生のむすこっていうのを、いしきしてたんじゃないかとおもう。
だってきかれるんだ。ぼくはなんにも思わないのに、かってにきいてくる。
「○○くんって、○○先生のむすこさん?」って。
これ、すごくイヤだった。
中がっこうをそつぎょうして、高こうせいになると、こんどはどうきゅうせいにおとうさんのおしえごがいる。「○○くんって、もしかして○○先生のこども?」って。
またかよっておもった。
先生のむすこだから、あたまがよくてあたりまえ。きちっとしててあたりまえって、まわりのひとたちはぼくのこと、おもうかもしれない。
でもね、ぼくのおとうさんはがっこうのことであたまがいっぱい。ぼくのことはおかあさんまかせ。
だから、おとうさんにべんきょうをならったことなんか、いっかいもない。おこられたことも、あまりない。
あまりはなしたことがないから、ぼくが大きくなったとき、たまにはなすとよくケンカになる。
高こうせいにもなって、ぼくはおとうさんにひどいことをいった。
「なんでべんきょうばかりさせるんだよ。オレだってすきでうまれてきたんじゃない!」
おとうさん、ごめん。ぼくは、やっぱりおとうさんのいったとおりバカむすこだった。
あと、おとうさん、家のそうじもよくやっていた。
ぼくがはたらきだしたとき、にちようびのあさになると、2かいのぼくのへやの前までそうじをしにくる。
ぼくがしごとでつかれてねてても、かんけいなし。
そうじきのおと、ほんとにうるさい。「早くおきろ」って、いやがらせかとおもった。
だから、ぼくはへやにあるステレオのおとをわざと大きくかけて、おとうさんをおいはらう。
でも、いま、ぼくがやっていること、おとうさんとおなじだ。
にちようびのあさ、かいだんをのぼりながら、まだねているむすめたちのへやの前までガーガーそうじする。
そう、おとうさんもじぶんの家だから「やらなきゃ」とおもってただけなんだ。おとうさんのきもち、いまごろわかったんだ。
そのおとうさん、もう92さい。
7ねんまえに、家のかいだんからおちちゃって、あたまをうって、のうしゅっけつで、半としにゅういんした。
ぶじたいいんしたけど、だんだんぼけちゃって、足がおもうようにうごかない。
そのおとうさん、じっかにあいにいくとぼくに「ごめんね」っていう。「ごめんね」じゃないよ。おとうさん。
「ごめんなさい」はぼくのせりふだ。おとうさんみたいにえらくなれなかったし、おやこうこうもしていないよ。ぼくは。
いまは、いまは、いきていてくれるだけでいいよ。
そしていわなくちゃ、まだいきてくれているうちに「ありがとう」って。たくさん。
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