襲撃
「そら愉快な目にあったなぁ」
「オレ自身の手を煩わせた訳ではないけどな」
翌日、特別な依頼を受けるわけでもなく、オレはチームのメンバーやラファーガに連れられて森へとやってきた。
オレが転移を行使するときに隠れるための森だ。
徒歩でそこまで移動中に家を入手したこと、それと襲撃を受けたことを話していた。
「ほんじゃ、ここから森に沿ってローネを三人で護衛すること。森をグルっと回ってここまで戻ってきたら完了だ」
「護衛の訓練ってことね」
『なるほど』
「あー、そういややったことあらへんかったもんなぁ」
前もって聞いていたのだろう。ローネ先輩は冒険者としての装備はつけておらず、街中で過ごすような服装だ。
「護衛依頼、受けたことなかったのか?」
「せやねん。ウチとジンだけやと受けれんかったり、ウチの立場が邪魔したりしてな」
『二人だけでは護衛依頼は受けれないのだ。他所と合同でなら受けたことはあるがその時はガリオンはいなかったな』
「貴族位におるウチが平民の商人を護衛するっちゅうんはって、ウチんところに話がこんのや」
「つーか雇い元の商人が嫌がってるんだよ」
「護衛の依頼を冒険者ギルドに出すんは商人が中心やからな。護衛が必要なほどの立場の貴族は私兵を持っとるし、それ以下の貴族はそういう私兵をもっとる貴族の腰ぎんちゃくになるからやっぱ護衛は基本的にいらんしなぁ」
「お前も誰かに随行することが多いのか?」
「ウチは一人行動やなぁ。あとは町から町に移動する集団に紛れこんだりな、ちと金がかかるけど」
そういうものなのか。
「ま、そんなわけで今まで護衛依頼なんつうのは満足にやったことないんねん」
「だからこその訓練だ。ついでに……お前さんの事情も都合がいい。ほれ、どう考えてもこんなとこに用事がない連中がこっちに向かってきてるしな」
「またか、ニャ。昨日だけで何十人もノしたっていうのに、ニャ」
ブランフィオがつまらなそうにそんなことを言う。
「連中もメンツがあるからな。それなりの集団に目をつけられたみたいだな。俺がいるのに向かってくるたぁ気合の入った連中だ」
「あら? でも見た事ない顔も随分多そうですけど」
面白そうにラファーガが口元を半月状にする。
「おっさんも恨まれてるんちゃいます?」
「まあないとは言えないな……というかローネじゃないか?」
「身に覚えがないわ、ホホホホホ」
「何をしたんだ……」
ローネ先輩はどういう存在なんだ。
「面倒だからこっから狙撃していいか、ニャ?」
「おいおい、せっかくの護衛依頼の訓練なんだぞ?」
「予め護衛対象の危険を排除するのも護衛の仕事、ニャ」
『ふむ、確かに。ブランフィオの言葉も間違ってはいないな』
ブランフィオの言葉にジンも同意する。
「まあそれも間違っちゃいないが、今の状況だとまずいぞ」
「ああ、ラファーガの言う通りだろうな」
オレもラファーガと同意見だ。
「お、言ってみろ」
「簡単な話だ。ここからの狙撃では何人か逃げられる。そうなれば連中は、次は街中で狙ってくる可能性がある。そうなると厄介だ。ならばもっとこちらに引き込んで全滅させるべきだろう。お前たちを巻き込んですまないがな」
「あら素敵な提案」
「その通りだ。ついでに言えば街に入ればいずれ俺たちもバラバラになる。個別で対応しなければならない状況になる。だが今なら全員で相手にできるわけだ。そっちのが有利だろう」
「せやな、街中と違って魔法も制限なしで撃てるしこっちのがやりやすいわ」
そうか。そういった事情もあるのだな。
「ま、そんなわけだ。二人とも、いいか?」
『納得できる内容だ。了解である』
「グレン様の指示に従います、ニャ」
少しずつ背後の人数が増えている。たんなる冒険者による金銭狙いのに思えたが、組織的な何かが絡んでいるようにも見えるな。
「ま、連携訓練にもならーわな。俺は危なくならない限り手は出さない。ローネもだな、敵は仮想盗賊、ないしオーガの集団。俺とローネをお前達四人で守るのが今回の任務ってわけだ」
「え? ラファーガはんやらへんの?」
「護衛の訓練っつっただろうが」
『だが今回の襲撃者のターゲットはグレンなんだろう? 少々意味合いが変わってしまうのではないか?』
「あのなジンよ、俺達が受ける護衛は大体が商隊なんかが街を出て移動する時の護衛だ。暗殺者に狙われた貴族の護衛とでも考えてるのか? そんなケース滅多にないし、そんなキナ臭い依頼は受けるもんじゃねーぞ、依頼人が殺されたら失敗だし暗殺者を撃退したら今度はこっちが暗殺者に狙われるようになるんだ。いくら金を積まれても割にあわねー」
「そうなのよねぇ。ギルドに周ってくるような貴族の護衛ってお金がいいから魅力的に感じるけど、裏を返すと貴族が保持してる戦力では対応できないかもしれない厄介な手合いなのがほとんどなのよ」
「まあせやな。貴族なら信用できへん冒険者からやなくて、信用できる派閥の仲間やら騎士団から戦力を集めるわ。逆に騎士団とかが使えん連中は後ろ暗いなんかをもっとるって吹聴しとるようなもんやし」
『なるほど』
「一理あるな」
「だから商人や商隊を盗賊や魔物などの襲撃から守つーのが、俺達冒険者が受ける護衛依頼だ。そしてそういう相手は商人の命が目当てじゃなくて荷物や人間が目的、邪魔な護衛から片付けて最終的に全滅させるなり生け捕りにするのが目的ってわけだ。そうなりゃ今回グレンが狙われるのは別に不自然なことじゃない……こいつは小せーからな、弱そうなのから狙ってくるのはむしろ当たり前だ」
「小さいは余計だ」
「グレン様を愚弄した、ニャ?」
「まあまあ、襲う側の心理を考えたら、ね? 魔物なんかも小さい相手から狙ってくるじゃない? それに盗賊と仮定したら、あたしやフィオちゃん、ガリオンは女の子だから」
「普通の神経を持っていたら全身鎧で動き回るジンがおる時点で手を引くけどなー」
「確かに、不気味すぎ、ニャ」
魔王城にはリビングアーマーが普通に歩いていたので違和感はないが、街中でこいつが歩いているのは違和感だらけだ。
「「「 うおおおおお! 」」」
「三十といったところか。こんなに人が集まるものなのだな」
『迎え撃つぞ!』
ラファーガとローネ先輩を護衛対象とし、森を背に相手を迎え撃つ。
オレとジンが迎撃、ガリオンとブランフィオがラファーガとローネ先輩の護衛に残してある。
ブランフィオが少々どころでなく不満を言ってきたが何とか説得。おかげで作戦的なものも考える時間が作れず、突撃してきた相手に正面からぶつかるしかなくなった。
『矢など効かぬわぁ!』
「便利だな」
オレ達目掛けて飛んできた矢はジンの影に隠れることでやり過ごす。
「しっかり殺しに来ている」
『ふ、我が槍を馳走してやろうっ!』
ブン、と矢を槍で振り払いながら、その槍を構える。
『伸びろ! ハチ公槍っ!』
それなりに距離の離れていた状況なのだが、手に持っていた槍がその距離を埋める。
「ぎゃあっ!」
『戻れっ!』
一人の男の肩を貫いた槍は、また元の長さに戻ってジンの手に収まっている。
左手を前に向け、槍の切っ先を次の獲物に向けるジンの眼孔が鋭く光る。
「魔法だ! 撃てっ!」
「「「 ファイヤーボール! 」」」
火球の魔法か。
「収納」
オレはジンの前に出て、その火の魔法を収納にしまう。収納魔法は生物以外ならしまえるため、魔法もしまうことができるのだ。
「収納」
そして再び相手の方に向けて取り出した。
「か、返ってきたぁ!?」
『お見事っ! 距離を詰めるぞ!』
「了解!」
相手は数が多い、下手にこの距離で戦っていたら散らばって逃げられてしまう。もちろん逃げ出す人間相手にはブランフィオが狙撃をして止める予定だが。
「ふっ!」
『せいっ!』
オレは剣を抜き、ジンは槍を振るう! お互いに一振りで、正面にいた相手を戦闘不能にする。
『あまり殺すなよ』
「ダメなのか?」
『話を聞く相手くらいは残しておくべきだ』
「なるほ、どっ!?」
「ごちゃごちゃと!」
何人かを相手どっていたオレ達だが、一人が鋭い剣捌きで踏み込んできた。オレは慌てて剣を合わせて攻撃を受ける。
「……なるほど」
「はっはぁ! お前さんは守られてばっかだったが! それなりに腕はあるらしいな!」
ここまで来るのにジンの影にいたのが、守られていたと見られていたらしい。まあ実際にジンが矢を意図的に防いでいたから守られていたのは間違いじゃない。
しかしシミターか。珍しい武器だな。
「これは時間がかかりそうだな」
踏み込んできての強力な一撃、それもオレと切り結んでいた男の裏から武器を見せないように割り込んできた男に舌を巻く。
『む、グレンよ。変わるか?』
「向こうからのご指名だ。お前の出番はない」
ジンの相手をするつもりならこちらに来ないだろう。
「そういうことだっ! そらそらそら!」
「っ!」
シミターの二刀流っ! まるで手の延長のように扱い、右に左に、時には同時にこちらを襲い来る刃は凶悪だ。
「くっ!」
「ひゃはっ! お前さんはあれだな、真っ当な剣としか戦ったことねーな? 動きを見りゃ分かるぜ」
「……なるほど、手強い」
素早い動きに鋭い刃、縦横無尽に襲い掛かる刃は型になぞられた正当な剣とは違う。オレよりも大きい体から放たれる武器、まるでカマキリ型の魔物のように自在に動く二つのシミターを、一本の剣で捌くのはなかなか億劫だ。
「それならそれで、やりようがある」
「言っとけ! チビガキ!」
「こうすれば、いいっ!」
オレは力を込めて剣をまっすぐに振り下ろす!
「があっ! こいつっ!」
オレの体から放った一撃、身長差もあり男の顔面を狙うような縦の一文字切り。回避をせず両手のシミターで受けたのはいい判断力だ。
「このっ!」
「ちっ」
オレの攻撃を抑えた男は、俺に蹴りをお見舞いしてくる。オレはそれを回避。お互いに距離が開く。
「ふう」
「はあっ! はあっ!」
まるで手の延長上のようにシミターを扱うこの男、腕がいい。
それに曲剣でオレの剣を正面から受けるといい、武器もなかなかの業物だ。ただの鋼鉄の曲剣であれば、今の一撃で折れてもおかしくないのだから。
「うおっ」
こいつシミター投げてきやがった!
『グレンッ!』
「大丈夫だ!」
オレの後方に飛んでいったシミターは『回転しながら戻って』きている。ブーメランのようにも扱えるらしい。
「なら追加だ!」
男が更に手に持っていたシミターを投げてくる。オレは二つを同時に回避しなければならなくなる。とにかく移動をするっ!
「おっと、それだけじゃダメだな」
「ちっ」
それを見越して、男はオレの移動先に先回り。しかもその手にはさらにシミターが追加されている。
「ふっ!」
後方から迫るシミターの軌道を、自分の持つ剣に写して確認。
それぞれを回避は無理だ一本は剣で迎撃。地面に落とした。
「でえいっ!」
「ふっ」
「ちっ!」
そこに迫る男のシミター。オレは剣を持つ腕を抑えて、体を切りつけられるのを防ぐ。
「いい身のこなしだ! ガキだと思ったがやるじゃあねえか!」
「唾が飛ぶ、口を開くな」
「てめぇ!」
背後にから迫っていたシミターは無事回避、シミターを持つ右手を掴み、もう一本は地面に転がっている。ここが攻め時!
「ちっ!」
オレの攻め気を感じた男は、オレから距離を取ろうとする。右手に持っていたシミターを離し、その柄を蹴ってオレのところに飛ばそうとしてくる。
これはたまらない。男の手を離して、再び距離が開く。
「さすがにあんな乱暴に飛ばしたら戻ってこないか」
「ふん」
蹴り飛ばしてきたシミターに注意を向けると、それは勢いのまま地面に突き刺さって動きを止めた。
一つはオレの足元に、もう一つは遥か後方。
「武器の数は同じになったな」
「舐めやがってぇぇ!」
こちらに向かって大ぶりをしてくる男。
「助かるよ」
相手が攻勢に出て来てくれてよかった。ここで守りに入られるなり、退避されるなりを選ばれたら余計に時間がかかった。敵はこいつだけではないのだ。
「ふっ!」
「があああああ!」
力と魔力を籠めて、真っすぐの切り下し。
シミターごと男を両断した。
「ぐふっ」
オレは真っ赤に染まった剣を振るい、男の血を落とす。それでもなお、この剣は血のように赤く染まっている。
『魔剣の類か?』
「ああ。オレの魔力を喰らい力にする剣だ。銘は伝わっていないが」
魔力を注ぐと剣全体が赤く染まり、切れ味を増強させたり斬撃を飛ばすことができたり、と少々機能面は地味だが、それでも魔剣なのは変わりない。
『相当な業物に見えるが?』
「管理していた者に言ってくれ」
母に送られてくる献上品の一つだ。何百年も魔王として君臨している母への贈り物はそれはそれはとてつもない量だ。その中の一つ。
母自身も母の取り巻き達もいつから倉庫にあった物か分からない武器だ。
そもそも魔物の大半は武器を使わず自分の身一つで戦いたがるものがほとんど。武器を送られても使う者がほとんどいないのだ。どんどん溜まっていくのである。
もっと禍々しくも凶悪な力を持っている魔剣も城にはあるが、小柄なオレには大きすぎたり重すぎたりで使えない物が多い中、数少ないオレの体と手のひらに合った武器。
魔力を注ぐと剣全体が赤く染まり、切れ味を増強させたり斬撃を飛ばすことができたり、と少々機能面は地味だが、それでも魔剣なのは変わりない。
「とはいえ、中々強い相手だった」
『うむ。幸いこちらも片付いた』
「……ああ、のんびり話に来たと思ったら」
オレとシミター使いは戦いながら移動を繰り返していたので、襲撃者たちの輪から外れていた。ジンの後方に視線を向けると、多くの人間が地面に伏している。ジンもなかなかの手練れだな。
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