門番は関わりたくない
ここはクレーソン、辺境の街だ。
周辺には多種な魔物が存在する辺境と呼ばれる地域である。
当初は農耕地として開拓されたこの街だが、当時の領主が早々に農耕地として領内の整備をすることを断念。
代わりに目を付けたのが、周辺の土地やダンジョンから手に入る希少な魔物の素材や、魔道具などであった。
領内で秘匿せず、大々的に稼げると布告して回った結果、国内だけでなく国外からも冒険者達を集めることに成功した。
中には走破されてなくなったダンジョンもあるが、領主は積極的な開拓を行わず、魔物達の住まう環境に手をださなかったためダンジョンが多少なくなろうとも魔物の数が減る事はなかった。
今では王国内の魔石供給の約三割を受け持つ巨大な冒険者の都市となったのである。
俺はそんな都市の顔、門番だ。
新たな夢を追い求めにきた冒険者達や、彼らから変わった物品を買おうと様々な街からくる商人などを相手にする、門番である。
「失礼、初めて街に来たのですがこちらの入り口でいいのでしょうか?」
「え。ええ、大丈夫です。こちらにどうぞ」
街中にいるごく普通の男、彼らと相違ない服装をした、明らかに普通ではない獣人の男が、街にやってきた。
「……何か?」
「いえ、手続きを取りますので……お待ちください」
獣人は多くはない、だがいない訳ではない。しかも比較的ポピュラーな部類に入る犬型の獣人だ。それはいい。
だけど纏っている空気が違う。なんとうか、重い。戦場にきたかのような重厚な雰囲気をその男は纏っている。
俺は賞罰や国内にいる人間の魔力照合を行える魔道具を用意する。普段は領内の賞罰確認や、街の滞在状況を確認する簡易的なものを使うのだが、今回は王国内全域に対応した特別なものを用意した。
準備をしている中、この男の連れているものに目を向ける。
「「 チチ! 」」
男と同じ列に並んでいた周りの人間に愛想を振りまいている、短い二本足で立ったリスの魔物。
スクワーチウォーカー、群れで生活をする大人しい魔物だ。男の雰囲気とのギャップのせいで、男の物とは思えなかったが、彼に従順な態度を示すスクワーチウォーカーは間違いなく彼のものだろう。
「お待たせしました、そちらの二匹は獣魔ですか?」
「ええ、彼らは私の同行者です。彼らの入場手続きも可能であればしていただきたいのですが」
「はい、ご準備してあります。どこかのギルドで登録は既にされていらっしゃいますか?」
「いえ、何分田舎から初めて街に顔を出したものでした。私の住んでいた村にはそういったお役所がなかったものですから」
嘘をつけ! と言いたくなるのを必死にこらえた。
この男、身なりに見合わない雰囲気に丁寧な言葉遣い。そして連れている魔物の調教具合に、整えられ美しく仕上げられた毛並み。
絶対にどこかの貴族のお抱えだ。
「賞罰確認を……おや、あなたは……」
「はい、私は獣魔族です」
「な、なるほど」
獣魔族といえば、獣人種の中でも最上級の種族だ。
獣人以上の膂力を持っており、さらに獣人は苦手とされる魔法も自在に操れる種族。
端的に言うと、とてつもなく強い存在である。
とある国のコロシアムには、三十年以上頂点に君臨する熊の獣魔族がいると聞く。
そんな能力的に優れた種が、このような服装で街に……お忍びのように来るなど、普通ではない。
「賞罰確認も完了です……問題ありませんね、こちらが入場カードです。この辺の仕組みはご存じですか?」
「伝聞ですので、改めて概要は聞きたいと思います」
「わ、分かりました」
背中に汗を掻きながら、男の放つプレッシャーに耐えながら説明をする。賞罰確認では問題がなかったし、国のデータにも魔力は登録されていなかった、明らかに貴族に仕える人間と同じタイプの、それでいて並みの貴族では御しきれないはずの種族の男。
「「 チチ? 」」
そして首を傾げるスクワーチウォーカー。可愛い。
「……以上がご説明になります。獣魔登録はこちらでしますが、できればギルドでも登録をしてください」
「ギルドというと、冒険者ギルドですかな?」
「いえ、錬金術師ギルドや商人ギルドでも構いません。書類に種族名と個体名が必要なのですが……スクワーチウォーカーで合っていますか?」
「はい。個体名、ですか……名前、名前」
ああ、この反応はよく知っている。貴族の道楽で飼われている魔物は、名前がなかったり、逆に名前がいっぱいあったりとよくある話だ。
「分かりました。このおでこから白い毛の模様になっているのがワンダ。頭の後ろに横縞があるのがツーラです」
「ワンダ、にツーラ……ですね。こちらに名前の記載をお願いします」
「ありがとうございます」
達筆だが美しい文字で書類に名前が書かれる。
「以上で手続きは終了です、お支払いをお願いします。えっと、こちらの街には長期滞在されるのでしょうか」
「どうでしょうかね。私の一存では決められることではありませんので」
うん、絶対貴族関係の人間だ。そうに決まっている。
お金を持ち歩くのに、普通の人間は革袋だ。ガマ口の財布なんか庶民に使うやつはいない。
「はい、金額も確認いたしました。クレーソンにようこそ」
手続き終えると、二匹のスクワーチウォーカーがこちらに礼をしてくる。うん、可愛い。
俺はクレーソンにいる門番だ。
どれだけ怪しくとも、手続きに問題がなければ素直に通すしかないのだ。
未だに手を振ってくれるリスの魔物二匹に、俺は手を振り返すのであった。
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