従者の追加

「随分と狭いですわね」

「まあ確かに狭いが、良いのではないか?」

「オレとブランフィオが住むだけなら十分でしょう?」


 ブランフィオが撮った写真を艦長室の壁のモニターで表示しながら、姉上も頷いてくれる。各部屋の映像を見て顔をしかめているのはイミュリア、ブランフィオも同意しているらしい。


「母上のためにお金を使う、というお前の考えをあたしは嬉しく思うぞ?」

「そ、そう?」


 オレの長い髪を撫でながら、姉上が言ってくれる。


「これらが空っぽになると。こちらから色々持っていくんだな?」

「はいです、ニャ」

「そうか、不足なく準備をしなさい。足りないものは作成してもいい」

「ニャ」


 姉上がブランフィオに言う。


「艦長、作成をお願いしたいです、ニャ」

「作成? 消耗品関係とは別のものってことか?」


 日々使うものに対して、わざわざオレが許可を出さなければ作れないという状況を避けるため、自由に作成の許可は出している。あまりにも膨大な量になる場合や、大量のエネルギーを消費する場合のみ、オレの許可が必要となっている。


「はいです、ニャ。新しい従僕を、家の警護と周辺調査の行える者を作って欲しいです、ニャ」

「周辺の調査はともかく、家の警護……いるか?」

「必須です、ニャ」

「ブランフィオはジャールマグレン様の警護ですものね、不在時に家を守るものが必須ですわ」

「です、ニャ。艦長に冒険者として随行する以上、家のことまで手が回らない可能性が非常に高いです、ニャ」

「ああ、それもそうか」


 ブランフィオの言う通りだ。オレについて行動をする以上、家にいられない時間が増えるだろう。

 無人にしていても問題ないかと考えていたが、ヘンリエッタから色々と持ち込むことを考えると、盗人に入られたりする危険性を考えるべきだったな。


「屋根の上に平型の集光パネルも設置して蓄電池に繋げます、ニャ。効率はあまり良くないですが、日照時間によっては夜間の電力も賄えます、ニャ」

「電力?」

「ヘンリエッタで用いられているエネルギーの一部の名称です、ニャ」


 そう言って備え付けのランタンをこちらに運ぶブランフィオ。


「こちらも電気で動いてます、ニャ。この上についているのが集光パネルです、ニャ。光を受けて電気を生み、それを用いて光る道具がこちらです、ニャ」

「へえ」

「そうなのか」

「つまり、そのランタンは自ら光っているから永久に光っていられるということかしら?」

「故障もあるし、光を生み出すエネルギーの方が電気を発生させる力に勝ってる、ニャ。だから永久という訳ではない、ニャ」


 イミュリアの質問にブランフィオが答える。


「調理家電や冷暖房、掃除機に照明、洗濯機なんかも電気で動きます、ニャ。配線も行うので、それらの技能を、調査員としての基本技能を持ったうえで、家を守れる程度の戦闘能力を持った従僕が必要です、ニャ」

「食事はどうする?」

「調査員の基本技能に含まれます、ニャ」

「なるほど、ヘンリエッタ、試算を」

『かしこまりました、戦闘能力はどの程度のレベルが必要でしょうか?」

「自分の半分もあれば十分、ニャ」

「副官の指定した能力を持った個体であれば、現状のエネルギー残量を加味しますと、十名程度は作成できます』

「一人で十分です、ニャ。性別は男でそれなりの威圧感が必要、ニャ。でもでかすぎても邪魔、ニャ」


 ブランフィオが必要な事項を口にする。


「いえ、戦闘能力もきちんとつけませんといけませんわ」

「ニャ?」

「考えてもみなさいな。今後ジャールマグレン様とブランフィオの実力は冒険者として活動していくにつれて、周囲に知られてしまいますわ。わたくしがジャールマグレン様に害をなそうとするなら、実力を調査しそれに見合った刺客を送ります。そうなったらブランフィオ以下の力しか持たない従者では頼りになりません」

「そうだな。最低でもブランフィオと同程度は必要になるな……」

「セリアーネ様のような方がいらしたら誰を配置しても同じですが、護衛と言う点においては妥協は許されないでしょう。少なくともジャールマグレン様の壁になり、逃走の時間くらいは稼げる存在でないと」

「確かにそう、ニャ。考えが浅くて申し訳ない、ニャ」

「そんな護衛いるか?」

「いります」

「必要だな」

「必須です、ニャ」


 いるらしい。


「ヘンリエッタ、現状生み出せる人型の魔物で人間の街に溶け込めるタイプの魔物はどれだ?」

『はい艦長、獣魔族は以前と変わらずキャッド、ラビット、ドッグタイプになります。最近増えた人型の魔物ですと、ヴァンパイアでしょうか』

「あー、ダメだな」

「あれかぁ」

「ですわね」

「ニャ?」


 ブランフィオだけ首を傾げる。だけどヴァンパイアは、なんというか。


「あいつら、なんだかんだ言ってアンデッドだからな。見れば一発で分かるんだ」

「匂いも違うよね」

「人の生き血にしか興味ないみたいな顔をしますけど、妙な口ぶりのせいで悪目立ちしますわ」


 吸血鬼、ヴァンパイヤ、そう呼ばれる種は魔王城にも何人かいた。だが彼らなんというか、その。


「あれに自己紹介をされたときは何を言っているのかわからなかったぞ」

「歪曲しすぎて何を差しているのかわからんのだよな」

「会話になりませんわ」

「そ、そこまでですか、ニャ」


 ブランフィオの疑問にオレ達が首を縦に振る。


「「 ぶっちゃけ近くに置きたくない 」」


 コレがオレ達兄弟の総意……と言いたいのだが、リリーベル姉上だけは一人連れてたな。『深淵の中より輝き出でた~』とか『漆黒より暗き髪色を持った~』とか、楽しそうに話していた記憶がある。


「とにかく、今は新しい護衛の話だな。戦闘能力はブランフィオと同等とするとなると、結構なエネルギーを使いそうだが」


 しかし家を持つなら必須だと押されて、作り上げることに。さて、どんな奴にしようかな。






「お初にお目にかかります。ご主人様、セリアーネ様」

「ああ、お前の名前は【クロム】だ。今後の働きに期待する」

「はっ!」


 青い毛色に白が混じった、初老一歩手前のドッグタイプの獣魔族。筋骨隆々にしたかったが、ドッグタイプという種族からかそこまでムキムキにはできなかった長身の男。

 ブランフィオは魔法と肉体のバランスを考えてデザインされているが、こちらは完全に物理特化で、魔法は生活魔法と呼ばれるレベルの簡単な魔法しか使えない。

 男性用の艦内隊服を着たクロムは頭を下げた後、背筋を伸ばして姿勢よくこちらへ返事をした。


「お前の役割は、オレが家にいる間の護衛やオレの住む家の防衛、家の維持だ」

「かしこまりました。お役目ありがたく頂戴いたします」


 直立不動のままだが、嬉しそうな表情で了承をしてくれる。


「では早速、防衛予定の家の間取りや周辺の状況を確認したく思います」

「データはヘンリエッタに入れてある、ニャ」

「はい、目を通します」

「ヘンリエッタ、色々教えてやれ」

「かしこまりました、ニャ」

「副官、よろしくお願いします」


 少し離れた場所で、ブランフィオが持っていた四角いのと同じものを操作し眉をひそめる。


「このようなあばら家にご主人様を押し込むと? 副官、何を考えているのです」

「艦長の判断です、ニャ」

「ご主人様の判断であっても、間違いがあれば正すのが副官の仕事ではありませんか? 代案は考えたのですか? 出されたのですか?」

「ニャ、ニャフ」

「ニャフではありません。既に契約をしお金も払われたとのことですが、その前に私を生み出して相談すべきでしたな」

「ご、ごもっとも、ニャ」


 ブ、ブランフィオが押されている……。


「今後は気を付けてください。住居とは人を表します。このような小さな家にご主人様がお住まいになられたらご主人様まで小さく見られてしまいます。しかも改築に許可が必要? 内装も大して変えられないじゃないですか。契約書の確認はしたようですが、注意事項の読み解きが甘い」

「あー、クロム、その辺で」


 ブランフィオが小さくなっていってる。


「ご主人様、副官を甘やかさないでください。副官がこのような体たらくではご主人様に危険が迫ります」

「は、はい……」

「何にせよ契約し三年分のお金は支払ってしまったのですね……まあ担当に金を握らせてなかったことにでも」

「いや、そこまでしなくても」

「で、ありますか……ですが何とかしないといけませんね……少々席を外します、しばらくお待ちください」

「あ、ああ」


 扉から出ていったクロム。そしてなんとなく気まずい空気が流れる中、そこまで時間を掛けずにクロムが茶色い毛玉を抱えて連れてきた。


「チチ、お呼びと聞いて馳せ参じました、チチ」

「呼んだのは私です。そしてあなたというより、あなたのデータに用があります」

「チチ?」


 クロムがこちらに視線を送り、スクワーチウォーカーの首根っこを掴んでぶら下げた。


「こやつのデータを基に調査員を二名作成する許可をいただけますでしょうか? 建物が狭い以上、小さくて邪魔にならない調査員が必要です」

「お、おう……」


 確かにスクワーチウォーカーは体が小さい。でも魔物なんだが、いいのか? というかこいつらで調査員って、出来るのか?






「「 チチ! よろしくお願いします! チチ! 」」


 クロムの要望により用意されたスクワーチウォーカー。

 元々このダンジョンに住まわせていた言葉を話すスクワーチウォーカーを、オレ達も入ったガラスの筒に押し込めてデータをとって作った新しい個体だ。

 過去に回収した魔石の中にもスクワーチウォーカーの物はあったが、言葉を話せる個体ではなかったらしいので、データをとったのである。

 もしかしたらあいつは進化個体なのかもしれない。

 そんなこと出来るのかとも思ったのだが、ちゃんと調査員としての能力は付与されているらしい。

 ちなみに人間の街で生活をさせる予定のため、通常のスクワーチウォーカーとは比べ物にならないくらい強化はしてある。ただ、種族的にあまり無理が効かないらしいので、強化度合いはそこまで高くなく、自衛能力がある程度らしい。

 デニムという生地のオーバーオールというものを着ており、準備したブランフィオがどことなく満足をしている。


「こやつらも連れてそちらの街にいきます。獣魔でしたかな? それの手続きも行います」

「ああ、そんな項目あったな」


 魔物を連れ込んでいいと驚いたのは記憶に新しい。


「ご主人様の物にすると何かと問題が発生しかねないので、あくまでも私のペットとして管理をいたします。お前達も街中で言葉を話さないように注意するんですよ?」

「「 チチ! 」」


 元気に手を挙げる二匹のスクワーチウォーカー。


「こいつらが、調査員……なのか?」

「チチ、タブレットもあるチチ!」

「ちゃんと持てるチチ! 使えるチチ!」


 そう言って四角いのを掲げる。服の胸についている大きなポケットに入れてあるようだ。


「そ、そうか」

「こやつらの管理はお任せを、建物の壁や天井に配線を行いますし、アンテナも設置できますので」

「アンテナ? 例のあれか」


 ヘンリエッタが重要視しているあれだよな。


「はい。ここと違い屋根が外にでておりますので、管理用コンピュータと直結させデータベースの一部も持っていきます。それなりに大きいので手間はかかりますが、魔法の袋があれば問題ないでしょう」

「ニャ、蓄電器は大きい、ニャ。どうする? ニャ」

「はい、地下室を作りましょう。契約書を確認しましたが、改装でなければ問題ないようですので」

「チチ、工作、チチ!」

「腕が鳴るチチ!」


 こいつらが作るらしい。


「設備があるこっちである程度作成しておく、チチ!」

「組み立て式チチ! 行ってくるチチ!」


 大きな尻尾を立てて、四本足で走っていくスクワーチウォーカー。


「あいつら、大丈夫か?」

「セリアーネ様、ご心配にはおよびません。私と同程度の知識は与えられておりますので」

「なら大丈夫か?」


 クロムがしっかりしているから、それと同じレベルならば問題はないのか、な?


「彼らの食事の収穫を指示してもよろしいでしょうか?」

「ああ、そういえば必要だな」


 オレ達と同じものを食べる訳じゃないだろうしな。


「身の回りの物の準備も必要、ニャ」

「そうだな。クロム、適当に必要な物を準備しておけ、作成が必要なものも作成の許可をだす。ヘンリエッタ、クロムに協力を」

『かしこまりました』

「ありがとうございます」


 クロムは頭を下げると、準備をしてまいりますと言って艦長室を出ていく。ブランフィオにも色々と確認したいことがあるとのことで、連れていってしまった。


「お話も終わりのようですし、お食事の準備をいたしますね」

「ああ、もうそんな時間か」

「だな! 今日は呑もう!」


 家をどうするのか、その辺は良く分からないが連中に任せてしまっていいだろう。


「ヘンリエッタ、支払いと同時に受け取った魔石が今回もあるんだが」

『かしこまりました、こちらで回収をいたします。ドローンを艦長室の前まで向かわせますので、廊下に出していただいてよろしいですか?』

「わかった」


 さて、今回はどんな魔物が作れるようになるかな?

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