家探し
「どの程度の規模を希望している?」
「最低でも四人は個室で休める部屋が必要、ニャ。それとこちらの方がお休みになられるため、広い部屋も必要、ニャ」
「ふむ、だと平屋じゃなくて二階建てになるな。少し割高になるぞ?」
「屋敷でも構わない、ニャ」
「……そりゃ無理だ。実績のある冒険者でも素行審査なんかを行わないと貸し出せん」
「素行審査、ニャ?」
「ああ。冒険者とは名ばかりの犯罪者の集団、それこそ密売人や暗殺者の活動拠点になんぞされたらたまったもんじゃないからな。こっちとしてもしっかり調べないといけなくなるんだ。そうなると即日では貸し出しができない。貴族街の外縁部、とはいっても貴族街は貴族街だからな」
家を借りるから下見にいくとガリオン達に伝え、都市管理所と呼ばれる役所に顔をだして家を借りたいというと、すぐさま担当者がついてくれた。
ただあまり大きな施設は貸し出せないという。
「そうだな、大きな部屋が……二階にあるのとなると、だいたい二階に一部屋でかいのがあって、小さな部屋が二つ。一階はリビングとキッチン、客間だ。庭も小さいがついている。いわゆるファミリータイプの家だ」
「日辺りはどう、ニャ?」
「さすがに覚えてねえな。場所なら覚えているから見に行くか?」
ブランフィオがこちらに視線を向けるので、オレは了承する。
「ああ。案内を頼む」
「おーけーだ。いくつかの家の鍵を持ってくるから少し待ってろ」
男はそう言うと席を立ち、すぐに戻ってくる。
「ついでに昼もどっかで食っていかねーか? こういった外での仕事が入った時しかチャンスないんだわ」
「……構わないぞ。お勧めの店があれば教えてくれ」
「よっしゃ!」
それなら急げだ、と鍵の束を腰に付けた男。彼に案内されていくつかの物件を見て回る。
「隣の家と近すぎ、ニャ」
「家の周りが柵とかありえない、ニャ」
「壁ボロボロ、ニャ」
「い、色街の中心地はありえない! ニャ!」
などとブランフィオが意見をだし、悉く却下。
そして案内された最後の場所。
「まあ、妥協すれば……なんとか、ニャ?」
「そ、そうか」
若干疲れ気味の担当の男。食事も外でしたが、その時からあまり元気は無くなっていた。
「ここは冒険者ギルドが近いから、まあ冒険者向けではあるな」
「こういうところを最初に紹介しろ、ニャ」
「役所から近い順に行っただけじゃねえか」
領の管理をする役所は、街の中心に近い位置にあるからな。それに対し冒険者ギルドは外縁部に近い。順番に行けば最後になるのはしょうがないだろう。
「部屋は二階に四部屋、一階にリビング、キッチン、それと部屋が二つだ」
男が鍵を開けて中を案内する。
「家具が残ってる、ニャ」
「元々冒険者がチームで借りてた場所だ。そいつらが残してったんだよ」
「どこかに引っ越したのか?」
「あー、まあ天国か地獄か、どっちかじゃねえ? 街に帰ってこないまま、一年以上が経ったからこっちに返却された形だな」
なるほど。
「元々そう言った連中のために作られた家だから、部屋もそれなりだし床もしっかりしてる。多少重めの鎧を着て歩いても床が割れないようになってるし、全体的に強度の高い素材が使われてるんだ。結果として防音精度も高い」
「ほほう」
「それはいい、ニャ」
かなり条件は良くないか?
「お勧めの点として、玄関入ってすぐ横に湯浴み場があるところだな。冒険から帰ってきて汚れが落とせるようにってのと、外から持ってきた素材を転がして置けるようになってる」
「なるほど。確かに冒険者向きだな」
中を案内、といってもそこまで見るものはないが、案内される。ブランフィオがカメラを使って外観や中をパシャパシャと撮っている。その光景を男が首を傾げながら見ていた。
「いままで空いてたのが不思議、ニャ」
確かに。
「先々週くらいまで貸し出し中だったからな。それにこの大きさだとチームである程度稼げる連中じゃないと借りないし、チームで組んでる連中も個別に宿や家を借りたいってやつが多いんだ。実際冒険者用の長屋の方が人気だしな」
「そんなのがあるんだな」
「宿みたいなモンで個別で貸し出しをしてるやつだ。あっちの四角くて横長のがそうだな。冒険者連中は朝も夜も関係ないからな。住民同士で喧嘩になることが多いから分けてるんだ」
なるほど。冒険者が多いという街だからか、考えられているんだな。
「まあそんな感じでここがお勧めだ。正直お前さんみたいな子供が借りる場所じゃないが」
「問題がないのであれば、ここでいいんじゃないか?」
「はい、ニャ」
ブランフィオも同意してくれる。
「そか、そんじゃ、戻って説明をするかな。手続きも向こうじゃないとできねーしな」
そう言って役所まで戻ることに。
「さて、手続きをするに辺りお伝えしないといけないことがあります。こちらが契約書です」
さっきまでざっくりとした話し方をしていた男だが、急に畏まった言い方になった。
「……ああ」
「ニャ」
ブランフィオも戸惑う。
「話し方は気にしないでくれ。何といってもお客様だからな」
なるほど。
「丁寧にできるなら最初からする、ニャ」
「いや、もうしわけない。癖なんです」
また変な癖が。
「では説明を」
そう言って男が姿勢を正す。
「まず賃貸の料金の話です。初回は三年分、あちらの建物ですと、金貨で四十五枚の貸し出しになります。それ以降に関しては一年契約、こちらの集金担当が顔を出しますので、その時にお支払いをお願いします。ご不在の際には不在通知を入れますので、そちらを持ってここ、不動産管理課に足を運んで入金をお願いします」
そう言って紙をめくる。
「最初の清掃はこちらで請け負います。また以前の住人が戻られた場合はこちらに誘導を。大型の家具類はそちらで利用していただいて構いませんが、必要ないのであればこちらで引き上げます」
「引き上げを希望する、ニャ」
「かしこまりました。内部のお部屋の改装自体は自由ですが、間取りを変えるような工事を行いたい場合にはこちらに一報をお願いいたします。建築元を紹介しますので、そちらの業者を使っていただきます。料金はそちらの支払いですのでお気をつけください」
そう笑う男。
「中の清掃や維持を行う家臣等がご希望の場合は、こちらで紹介も可能です」
「いらない、ニャ」
「かしこまりました。それと一番の問題なのですが、近隣の家とのトラブルがあった場合は最悪退去をお願いする場合もございます。この場合は居住期間内の料金はいただきますが、金銭の一部のご返却を行います。逆にご自身達で転居を希望される場合はご返金いたしません」
「周りの都合で家を出るときは返金するが、自分の都合で家を出る時は返金できないということか」
「その通りです」
にこやかに頷く男。
「それと、本日ご契約をしていただくと三日後の入居が可能ですが、内部に酷い痛みや壁、床の破損があったときはもっと時間がかかる場合があります。先ほど確認した限りでは見受けられませんでしたけど、水回りの板が腐ってる場合なんかもありますのでご了承を。中の清掃をし、前の住人の荷物を引き上げますのでさすがにすぐには入居できません。清掃の際にも立ち合いが可能ですので、お気になられるのであれば作業を見ていただいても構いません。なんなら手伝っていただいても構いませんよ?」
説明を続けながら次々に紙をめくる。他にも住居の修繕の話や、清掃して受け渡しをしたらそれ以降のクレームは聞かないぞ、とかだ。
「今まで住まわれていた方々と同じように、入金時期にお金を支払えず二ヵ月過ぎると建物は中身ごと接収となります。保管期間は半年で、それを過ぎるとこちらで処分いたします。半年以内で返却希望を受けた場合は、保管期間内にそった料金の支払いを。それを過ぎた場合は処分を行った後だと判断しますので返却は行えません」
中の荷物を保管するのも、倉庫の使用料を取るらしい。
「いま住んでいた冒険者達は、天国か地獄、と言ってたな。死亡を確認したのか?」
「……いえ、冒険者活動をしていない、というところだけは確認できています。護衛依頼も受けていないし、それ以外の依頼も受領されていないとギルドで確認いたしました。サブの装備と思われるものが残っていたので拠点を変えたいったという線も薄いと考えています。何か一獲千金を狙って外に出てそのまま帰ってこれなくなったのではないのかと考えております。まあ冒険者あるあるですな」
本当に帰ってきていないのか、といった調査は行っているらしい。
「その他の契約事項はこちらに載っておりますので、目を通していただければと思います」
口頭で説明が必要な部分は話し終えたようで、こちらに紙の束を出した。
「お茶のおかわりはいかがですか?」
「ん? ああ、そうだな」
「こっちで用意します、ニャ」
味の薄いお茶だったからか、ブランフィオは不満があったようだ。
「獣魔?」
なんとなく紙に目を通していると、魔物の項目が目に入った。
「獣魔の項目ですな。冒険者の方は魔物を使役して連れ立っている方がいます。そういった方に関する項目ですな」
街の中で魔物を見かけたことはなかったが、魔物をパートナーにしている人間がいるらしい。
「見た事なかったな」
「そうなんです? それなりにいますよ。専用の宿があるくらいですから」
「そうなんだな」
「ええ。なのでこの住居に関しては申請を出していただければ、魔物や錬成生物を住まわせても良いようになっております。もちろんギルドで獣魔登録をしてあるものに限りますし、獣魔が原因で周辺住民との軋轢があった場合は自己責任になります。それと獣魔登録もせずに連れ込んだら違約金が発生しますので、その際にもこちらにお願いします」
「ああ」
とはいえ魔物を連れ込む予定はないから問題ないか。
オレが目を軽く通したものを、ブランフィオも真剣な表情で読み込む。
時には質問をし、納得すると次に、納得できないものがでて食ってかかるときもあるが、男が冷静に応対してくれているのでオレが口を出すこともなかった。ブランフィオの用意してくれた紅茶は美味しい。
「問題ございません、ニャ」
「そうか、なら契約にするか」
ブランフィオの太鼓判も押されたので、契約の話に。男はありがとうございますと頭を下げて、契約の書類を用意してくれた。
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