ギルドからの提案
「報酬のついでという訳ではないのですが……お金の使い方にご提案をさせていただいてもよろしいでしょうか?」
「提案?」
ブランフィオが魔石を調べているのを眺めていると、ふいにイセリアが提案があると言ってきた。
「はい。こちらの不手際ではございますが、グレンさんの手元に大金があることが知られてしまっております」
「そうだな」
「とはいえどれだけの金額があるのかなど、具体的な数字まではさすがに表立ってでておりません。新人の冒険者では稼げても一日で銀貨三枚程度で、有望株と言われるタイプの新人でも銀貨で十枚くらいですが……多分金貨で二、三十枚は持っていると思われていると考えられます」
たかだか数十枚程度で襲われるのか……人間の世界は物騒だな。
「報酬はそんなものなのか? 地竜だけで金貨が三千枚だぞ?」
オレの言葉に苦笑いをするイセリア。
「そもそも地竜なんて、それこそ軍で対応するレベルの相手です。個人で対応できる力を持つ者ならミスリルクラス以上になれば珍しくありませんが、群れを作る生き物ですから」
「そう言われると……いや、だがそれでも地竜が滅茶苦茶高くないか?」
「そうですね。ですが無傷で倒せる手合いでもございませんし、竜の中でも特に硬い鱗を持っていますから武具の消費も考えられます。そんな存在が、五匹以上で群れて生活しているんです。普通は簡単に倒せませんよ?」
「まあ、オレも簡単に倒したわけではないからな」
空間魔法の次元斬。これで首を一刀両断しただけだが、魔力の半分以上を消費してようやく倒したのだ。通じなければ即座に逃げに入るつもりだった。
「昔は地竜を討伐する専門のチームがいたんですよ。それがいなくなってしまい、地竜の値段が上がっているのも要因の一つです。まあ一番の要因は、倒された状態が綺麗だったので無駄なくすべての素材が買い取れたからですけど」
「ああ、ガリオンもそんなこと言ってたな」
「はい、戦闘傷もほとんどなく、体に欠損もない、血液もほとんど残っていて鱗もほぼほぼ新品同様。これで値段が付かなければ、何に値段をつけろと? といったレベルです」
「そ、そうか」
だんだん熱く語り始めるようになったぞ? オレが若干引くと、向こうも気づいたのか姿勢を正した。
「すいません。とにかくそういう訳でして、レアリティの関係で金額は高い個体なのです。一度出回るとしばらく値段は落ちますから次は同じ金額で買い取れないですけど」
「そうそう何度も群れからはぐれた個体には会えないだろうし次はないさ」
ヘンリエッタの周辺の地竜はすでに姉上の支配下、そしてヘンリエッタの魔物だ。あいつらが真面目に仕事をしているうちは、討伐するなんてことにはならないだろう。
「まあとにかく、お金があると思われているのであれば、お金を使ってしまえばいいんです!」
「こうして使っているじゃないか」
今もブランフィオが懸命に調べているぞ?
「目に見える形でです。なのでご提案としてですが、拠点を……家をもちませんか?」
「……なるほど、家か」
「はい。宿よりも割高ですが長期的に見ればいいかと思います。聞くところによると、ラファーガさん達の拠点には住まわれてないようですし」
その辺は調べているんだな。
「住居があれば確かに便利か」
今は森で転移をしてヘンリエッタに帰っているが、森に行かずに済むのはいいかもしれない。
「ニャ、となるともうニ、三人連れてくる必要があります、ニャ」
「ブランフィオ?」
話を聞きながらも手を動かしていたブランフィオだが、樽から手を離して顔を上げた。
「拠点を持つのは賛成です、ニャ。宿や連中の家ではなくこちらの領域になります、ニャ。色々と便利なものも持ち込めるようになりますし、守りも自由に固められるようになります、ニャ」
「なるほど……だが使えるのか?」
便利なもの、というのはヘンリエッタに置いてある道具だろう。でもあれだろ? 『あんてな』というものが無いと使えないのではないか?
「問題ありませんです、ニャ。ですが維持することも考えますと、ブランフィオ一人では管理しきれませんです、ニャ」
「まあそれはそうだろうな」
屋敷の管理となると何人かの使用人が必要になる。
「あの、そんな何人もお住まいになるところですと、維持費もそれなりにかかりますよ? 普通の一軒屋がよろしいかと……」
「グレン様に平民の家で暮らせと? 何を言っている、ニャ?」
「あ、あははは」
「いや、ブランフィオ。確かにそこまで大きい物は必要ないぞ」
オレとブランフィオが住むだけであれば、大きさはそこまでいらない。
「ですが……」
「そこに金をかけるなら、魔石や魔物素材が欲しい」
オレの住まいよりも、母上のためにダンジョンでのデータ集めの方が大事だ。
「いくつかお住まいをご覧になってみればいかがでしょうか。都市管理所にいけば何軒かの土地、建物を紹介してもらえると思います。冒険者ですと一括支払いの賃貸しかできません。ですので、大金を使ったと思われるのにちょうどいいと思います。年費で大体金貨十枚くらいですね」
「なるほど。オレが持っていると思われている金額とほぼ同額か」
「そうです。目に見える形でお金を放出した、そう考えると丁度いいと思いませんか?」
「いい提案、ニャ」
ブランフィオも頷いている。なるほど、それならば実際に見てみるとしようか。
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