ギルドで事後処理
「グレンさん、ようこそ。それと最初に謝らなければならないことがございます」
「ああ、なんだ?」
ギルドに到着し個室にブランフィオと共に案内されたオレに、ギルドで受付を担当していたイセリアが頭を下げてきた。
「はい、ギルド内でグレンさんのことが噂になってしまいまして」
「どういうこと、ニャ?」
剣呑な表情になるブランフィオ。
「はい、ことの発端はウチの落ち度になるのですが……」
イセリアの話によると、ギルド員は冒険者達がその実力に見合わない依頼を受けさせないように調整をしているそうだ。その実力に見合った依頼を受けさせ、依頼自体を受理しないことも珍しくないという。
そんな中で、新人の域から脱却できない若い冒険者と口論になったギルド員が、オレを引き合いにして依頼の受領拒否を行ったものがいるという。
ラファーガに認められた冒険者であるオレならまだしも、お前達はまだまだだと。
その若い冒険者も、世話をしている冒険者がいるらしいが、そいつがラファーガのことを良く思っていないとか。
そんな上の冒険者まで出てきて口論になった時に『グレンはすでにお前達よりも稼いでいるからいいんだ』といった内容をポロっと言ってしまったらしい。
「大金を稼がれていると、一部の人間に伝わってしまいました。何とお詫びをすれば……」
「つまり今朝の襲撃はそれか」
「もう襲われたんですか!?」
「ああ、朝一でな。襲われる原因に心当たりがなくて首を傾げていたのだが」
「た、大変申し訳ない。恐らく、新人が大金を手に入れたと知られて……それを狙った犯行かと思われます」
あの意味不明な連中はそれが狙いだったのか。
「グレン様の財産を狙った、ニャ? やはり殺しておくべきだった、ニャ」
「……まあそれもやむなしだったか」
「いえいえいえ! 街中で人を殺めるのは! ここは治安の悪い街ではありませんが、冒険者同士の喧嘩は少なくありませんので! ですが殺人ともなりますと誤魔化しが効かなくなりますっ!」
「それは治安が悪いと言わないか?」
うちの城下町で喧嘩などが起きたら秒で兵達が飛んでいくぞ? それこそ空から。
「落とし前は付けるべきです、ニャ」
「その、できれば穏便に、ですね」
「一方的に攻撃をしてきたものを穏便に対処などバカげているな」
「同じことをしようとするバカが二度と出ないよう見せしめが必要、ニャ」
そのような手合い、野盗と何が違うというのか。
「こ、こちらから厳重に注意を! それに厳罰も行いますので!」
「相手が誰か分かるのか? オレはもう覚えていないぞ」
「あう……」
ブランフィオにボコられた人間、三人組。これくらいしか情報は持っていない。
「グレン様がお尋ねです、ニャ。答える、ニャ」
「あ、相手を特定いたしましたら、必ず! 街中とはいえ盗賊まがいの行為を行ったのでしたら、衛兵に捉えさせ法に乗っ取った罰を与えますので! 冒険者でしたらこちらとしても罰則がありますから!」
「どのような内容だ? 襲われた側が納得する内容なんだろう?」
「え、ええと、それは……その……お待ちください!」
最初は殊勝に謝っていたイセリアだったが、会話を続けるにつれて顔色を青くしていった。そしてその言葉を発すると慌てて部屋から出ていった。
「金の受け渡しだけではなかったのか」
「卑しくて程度の低い連中です、ニャ」
「まったく。ブランフィオ、お茶でも貰えるか?」
「かしこまりました、ニャ」
ブランフィオに紅茶を入れてもらい待っていると、ドタドタと音が聞こえてイセリアが初老の髭面の男を連れてきた。
「お、お待たせしました……」
「これ、きちんと説明をしてから……」
どこかくたびれた感じの髪になったイセリアが連れてきたおじいさん。片眼鏡とはよいセンスをしている。
「法務官のバルボッサ様です!」
「じゃの、見ない顔じゃ。お前さん方は?」
「新人のジャールマグレンだ、こっちはブランフィオ」
身なりを整えながらこちらに視線を送るお爺さん。オレはイスから立ち上がり礼をすると、ブランフィオもそれにならった。
「実はかくかくしかじかのこれこれうまうまで」
「ふうむ、なるほどの。お嬢さんや、このジジイにもお茶を貰えるかね? この娘っ子は用意をしていないようだからのぅ」
「ぁぅぅ……」
できる感じの女性だったイセリアが小さくなっていく。ブランフィオは軽くため息をつくと、バルボッサにも紅茶を用意した。
「ブランフィオ、彼女の分も用意してあげなさい」
「かしこまりました、ニャ」
「うう、申し訳ありません。うわ、おいしいっ!」
「イセリア、黙っとれ」
「はいい……」
そう言ってバルボッサは分厚い本を二冊と、普通の本を一冊机に置く。
「今回の件じゃがの、お主の立場と相手の立場によって法の執行内容が変わるんじゃ。聞いてよいかの?」
「立場によって?」
「簡単に言えば貴族やそれに連なった者かそうじゃないか、じゃな」
バルボッサが分厚い本を一冊取り出す。
「お主が貴族であれば相手を死罪にまで持っていけるし、財産すべてを取り上げて国外追放処分にすることもできる、所領があればそちらに連れて行き強制労働を化すことも可能じゃ。ま、お主のしたいようにできるということじゃの」
「分かりやすいな」
なるほど、当然と言えば当然か。
「平民であれば、相手から金貨五枚取って終わりじゃな。ま、向こうが金をもっておらんかったら領主が代わりに払って、そいつらは借金持ち、強制労働じゃの」
「なるほど。オレは平民だからそっちだな」
「ほ? そうなのかの?」
「ああ」
「意外そうな顔をされるな、おじいさん。オレは一介の冒険者にすぎない平民だ。ブランフィオもな」
オレの言葉にブランフィオも頷く。
「そうかのう? まあそういうことにしておこうかの。それと相手が冒険者だった場合のギルド内の罰則じゃが、相手は武器を使ったかの?」
「使っていないな」
「使わせる前にノした、ニャ」
「であったか、それならば罰金と三年間のギルド報酬が三割カット。それと強制依頼をいくつか受けさせる、じゃな」
「その程度か」
「街中で武器を振り回してたらギルド証のはく奪とダンジョン送りじゃな」
「ダンジョン送り? 犯罪者をダンジョンで強制労働させるのか?」
「ま、死なないようなサポートはついてるがの。ギルドで管理しとるダンジョンで働かせるんじゃ。むろんそれに見合った実力がある者だけじゃがの」
髭を撫でながらことも何気にそんなことを言うバルボッサ。
「とはいえ相手を特定せねばならんな」
「覚えてないな」
「ご安心くださいです、ニャ。こちらです、ニャ」
ブランフィオが三枚のカードを机の上に並べた。ギルドの会員証だ。
「いつの間に」
思わずつぶやいてしまうほど驚いた。
「落ちてました、ニャ。後々の報復の時のためにお預かりしておきました、ニャ。きちんと罰が与えられると約束できるなら、お渡しします、ニャ」
いや、絶対に落ちてはいなかったぞ。
「なかなか手の早いお嬢ちゃんじゃのぅ。ま、助かるがな。ボコられた後なら街の中にいるんじゃなかろうか」
そう言ってバルボッサがイスから立ち上がる。
「さて、相手も分かってるんじゃったらあとは儂の仕事じゃの。任せて貰ってよいかの?」
「二度と同じことが起きないよう、徹底的にやる、ニャ。でなければ任せられない、ニャ」
「ブランフィオ、ここはプロに任せよう」
法に関して詳しいなら任せていいはずだ。何よりオレはこの国の法なんて知らないのだから。
「ほっほっほっ、怖いのぅ。では襲い掛かった相手にボロ負けした上に身分証まで『落とした』間抜けの相手は任せてもらおうかの。ちなみにどのへんで襲われたんじゃ?」
ブランフィオに視線を向ける。
「大通りから外れてギルドへと向かう通りの東の三番目の通り、ニャ。白と赤が交互になってる看板を使っている肉屋のある通り、ニャ」
「あそこかの。なら見たものもおるかもしれんな。何か分かったらイセリアから伝言を頼むことにするかの」
「はい、元々ラファーガさんやガリオン様の担当ですから大丈夫です」
「ああ。それでいい」
オレも頷くとバルボッサは背を向けながら手を振って出ていった。
「……まことに申し訳ございませんでした。遅くなりましたが地竜の報酬の残りの額をお渡しさせていただきます」
「ああ」
イセリアから前回の報酬に続き、同額の金貨をもらう。元々用意していたようで、魔石と交換するかも聞いてきたのでオレも頷く。
目利きはブランフィオができるらしく、四角いプレートを掲げて一つ一つ調べていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます