ダンジョンから帰還

「おはようございます、ニャ」

「ああ、ブランフィオか。おはよう」


 ダンジョンコアの回収を行い、無事にヘンリエッタに戻ってきた。その夜、打ち上げと称し姉上とイミュリアと簡単なパーティを開いた。

 新しく生み出した料理人達の作った料理は絶品。更にその料理に合わせた酒も彼らは準備をしてくれたため、大いに食べて大いに飲んでしまった。

 そんなオレを、今日はメイド服なブランフィオが起こしてくれた。


「……起こして欲しかったです、ニャ」

「はは、ぐっすりだったからな」


 メディカルルームで体のチェックを行ったブランフィオは、チェックの後もスヤスヤと眠り続けていた。

 別段急ぎでやってもらわなければならないこともなかったので、ゆっくり休ませることにしたのだが、どうやら拗ねてしまっているようだ。


「すまないな。お前にはゆっくり休んでもらいたかったんだ」

「そ、そう言われると文句も言えなくなってしまいます、ニャ」


 オレはベッドから降りると、寝間着にと用意されたバスローブを直そうとして、ブランフィオに直された。


「浴室のご準備はできております、ニャ」

「そうか、では入るか」

「かしこまりました、ニャ。お、お供します、ニャ」

「いや、問題ない」

「艦長、ブランフィオは昨日お仕事ができませんでした、ニャ」

「ん? ダンジョンで活躍してくれたではないか」


 魔物の探知に、結局なかったが罠の感知、隠し部屋の調査から地底湖を凍らせる機転もみせた。十分な活躍だ。


「ダ、ダンジョンでの話ではないです、ニャ。ブランフィオは艦長の副官です、ニャ。副官は艦長と一心同体です、ニャ。運命共同体です、ニャ。艦長が何かされるときには常に共にいなければならないです、ニャ。一緒にいないとダメなんです、ニャ。しかもブランフィオはメイドとしても控えなければなりませんです、ニャ。ですのに昨日は艦長より先に眠ってしまいました、ニャ。こんな失態をずっと続けていてはブランフィオは副官失格です、ニャ。ですからブランフィオは、ブランフィオは」

「分かった分かった、好きにしなさい」

「はいです、ニャ。浴室までご一緒します、ニャ」


 オレの後ろに控えるように歩くブランフィオ。浴室に入ると、脱衣所でオレのバスローブを受け取る。下着はいいぞ?

 ブランフィオを置いて中に入る。打ち湯をしてから体を洗うのがマナーと教わったため、その通りに行う。


「お、お背中をお流しします、ニャ」

「ああ……すごい格好をしているな」


 浴室に入ってきたブランフィオは、下着姿だった。

 先ほどまで着ていたメイド服を模しているのか、黒の下着に白のフリルのついた。布面積の少ないブラとパンツ。


「し、下着ではないです、ニャ。これは水着です、ニャ」

「みずぎ……」

「み、水に入る時のために作られたものです、ニャ」

「ヘンリエッタに作らせたの、か」

「で、です、ニャ」


 こんな煽情的なものまで生産をするヘンリエッタというものは、一体どういったものなのだろうか、そんなことを考える。


「あ、洗わせていただきます、ニャ」

「ああ、頼む」


 ブランフィオがタオルを持ってオレの背中を。


「ブランフィオ、体で洗おうとするんじゃない」

「ニャ!?」


 タオルを使えタオルを。






『おはようございます。艦長、副長。昨日のダンジョンコアの解析が完了しております。ご報告をしてもよろしいでしょうか?』


 朝食を終え、姉上とたわいもない話をしていると、ヘンリエッタから声がかかる。


「そうだな。街に向かう前に聞いておこうか」

「うむ」


 姉上の同意も得られたので、ヘンリエッタが艦長室の窓こと巨大スクリーンに色々と表示を出した。


『獲得したダンジョンコアは、生成されてから五年三ヶ月のものでした。やはり若いダンジョンだったようです』

「五年で若いダンジョン、なのか」

「ここと比べると先輩だろう? それを若いというのもどうだろうな」


 ダンジョンコアに先輩後輩といった上下関係はあるのだろうか?


『特にそういった関係性はございません』


 だよな。


『ダンジョンコアは生成されてすぐにダンジョンを生み出すわけではありません、地脈やその他の要因で生み出されたダンジョンコアは、まず自身を守るべくダンジョンマスターの選定と強化を行います。ダンジョンマスターの強化が終わり、自身の防衛の準備が終わりますと、外部へとダンジョンを広げたり、外部の生物を誘引するシステムを作成いたします。外部につなげる準備が終わるまで、大体生成されてから三年程度かけることが多いようです』

「いきなり外に繋がっているここは特殊なのか」

『特殊というわけではございません。ダンジョンコアの中にはかつてダンジョンだった場所に再度発生する場合もございますし、発生地点が地表だったりすると野ざらしの状態の場合もあります。地脈との位置関係の都合で地中に発生するダンジョンコアが多いというだけであって、外と繋がった状態で発生するダンジョンコアも多く存在します』

「なるほど」


 確かに。ダンジョンコアは地脈の流れのあるところで生まれやすいというからな。ヘンリエッタや兄妹達に渡されたダンジョンコアは偶発的に発生したダンジョンコアなわけだし、例外もあるが。


『艦長達の攻略されたダンジョンコアはダンジョンマスターに【ドーマプラント】を選定、強化したようです。艦長の倒されたのは【ドーマプラントの亜種】とでもいえばいいでしょうか。昨夜のうちに魔石もいただけましたので、生成も可能になっております。また、回収したダンジョンコアの中に蓄積されていた植物系の魔物や魚系の魔物が私も生成できるようになりました。獣系や人魔系の魔物は既にデータがあったため、新規は増えておりません』


 新しく生成できるようになった魔物達が大きなモニターに映し出される。うん、草木にしか見えなくて魔物に見えないようなのが多い。


「植物系なぁ」

「自分ではあまり動かない魔物だろ?」


 姉上の言う通り植物系の魔物は待ち伏せタイプが多い。獲物が近くを通らない限り、攻撃を行わない魔物はトラップとしては有効かもしれないが、現状のヘンリエッタで使う予定はなさそうだ。


『それとアイテム関連ですが、薬品類のアイテムがいくつかと、光石、洞窟適応のトラップが作成可能になりました。艦長が望まれている生命の秘薬と呼ばれるアイテムや、お話に聞く特性に似たアイテムのデータは含まれておりませんでした』


 表示されていた魔物のデータからアイテムのデータに切り替わる。薬品系っていうけど、ほとんどに『毒』の文字が見える。何に使えと?


「むう」

「ま、そう簡単にはいかないだろうな」


 オレは眉をひそめるが、姉上は納得顔だ。確かに、ダンジョンを一つ二つ制圧した程度で手に入るものであれば、魔王城の連中が未だに入手できていないのはおかしいものな。


「それについては仕方ない、か」

『申し訳ございません』

「お前が謝ることじゃないぞ、ヘンリエッタ。あたし達がもっと頑張らないといけないだけのことだからな」

『副長、ありがとうございます』

「うむ!」


 満足そうに返事をする姉上。


『それと、内包していたエネルギーですが、当艦の総エネルギーの10%相当を入手いたしました。現状維持を考えますと、六年三ヶ月分のエネルギーに相当します』

「へえ」

「結構な量が手に入ったんだな」


 六年分とはなかなかの量だ。


『はい艦長。ですがあくまでも現状維持で、というお話です。副長クラスの魔物を生成したりすると、維持時間の減少に繋がります。それに加えて特別な階層の作成や、魔物の増産といったことを行いますと、いずれは無くなってしまうでしょう』

「ブランフィオは随分特別だったんだな」


 というかそれだけの量をほんの一月もしない期間で集めた姉上も姉上だ。


『簡易的な報告になりますが、以上になります。その他の細かい内容は閲覧できるようにデータベースに上げておきます。それらは副長とイミュリア様も閲覧できるようになっております』

「なるほど」

「みたいだな」


 少し離れた位置で、小さなモニターを開いてブランフィオがイミュリアに操作を教えている。


「聞いた限りでは特に疑問はないな。オレが目を通さないと不味い内容のものはあるか?」

『はい艦長、私からの報告でご質問や疑問点はありますでしょうか?』

「……質問ができたら改めて聞こう」

『かしこまりました。副長の携帯端末にもデータが入っておりますので、外で疑問点に気付きましたら副長にご質問ください』


 携帯端末?


「艦長、そろそろお時間です、ニャ」

「あ? ああ、分かった。行こうか」


 今日はこれから冒険者ギルドでお金の受け取りと魔石の受け取りがあるんだ。新人のオレが遅れるのはよろしくないだろう。

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