実はボス戦だった

「まさかあそこが最下層だったとは」

「たいして深くないダンジョンでしたわね」

「あのでっかい木がダンジョンマスターだったのでしょうか、ニャ?」


 名前も分からない木の魔物を無事収納し、切り株も回収したらその切り株のあった地点に見覚えのある黒いオーブがあった。

 ダンジョンコアだ。


「宝箱的なものもありませんでしたわね」

「ほんとなー」


 見つけたダンジョンコアを収納し、一応最後の部屋も軽く見回った。

 木の影の先に通路があると思っていたけど、何もなかった。ブランフィオが念のため隠し扉の有無も確認したが何も見つからず。

 これ以上調べても仕方ないので帰ろうという結論になった。まさかこんな小さなダンジョンだとは思わなかった。ダンジョンコアがなければダンジョンじゃなかったのではと思うほどだ。


「ニャフ、艦長には大変申し訳なく」

「いいから。今のうちにおぶさってくれ」


 階段を一つ上がり、ブランフィオが眠らされてしまった階層にきた。ダンジョンコアがなくなっても魔物がいなくなるわけではないらしく、スリープコスモスの群生地はまだ残っていたのだ。


「ほら、進むぞ。しっかり捕まっててくれ」

「ニャフ。重いです、ニャ」

「軽かったから大丈夫大丈夫」


 ゴネるブランフィオを背負って群生地を進む。どうしてもスリープコスモスを刺激してしまうため、ブランフィオはしばらく息を止めていたけどそれも長続きせず。

 耳元で「うにゃ」とか「ふにゃ」とか聞こえてきたと思ったら、寝息に代わっていた。


「静かにしていると可愛いものですわね」

「ほんとだな。ほっぺがプニプニだ」

「起こさないであげてくれよ」


 起きちゃってもまた寝るだけなんだし。

 あまり重さを感じないブランフィオにちょっかいを掛けられると、落としそうで怖い。

 そのまま群生地を抜けて、階段を上に。地底湖はまだ凍ったままだったのでそのまま何事もなく通過だ。


「起こしませんの?」

「別に今のままでよかろうて。たまには休ませてやれ」

「そうだね」


 姉上がそう言うので、ブランフィオは起こさずに通過。更に上の階層、スィートポピロムの生えていたエリア。

 何匹か見かけたが、イミュリアが手早く処理。問題なく外に出れた。


「姉上、イミュリア。オレに掴まって」

「お?」

「あら」

「うん。多分行けそう」


 強化されたと自覚して一番に感じたのが、魔力の総量だ。

 次元斬を使ったのにも関わらず、オレの魔力はまだまだ余裕がある。姉上が右から、イミュリアが左から抱き着いてきたので、そのまま魔力を籠める。


「転移」


 しっかりとメインオーダールームをイメージし、四人で転移。


「っと」


 初めての四人同時転移。成功はしたものの、驚くほどの魔力を持っていかれた。できる確信はあったが、もう魔力がからっぽだ。

 ふらつきそうになったが、両脇を固めていた姉上とイミュリアが支えてくれる。


「ふふ、これは便利だ。頼りになるな、グレン」

「ええ、本当に素晴らしいものですわ」

「イミュリア、抵抗できないからと言って尻尾を足に絡めるんじゃない」

「あら失礼、つい」


 きわどいところまで登ってきているんだよその尻尾。


『おかえりなさいませ、皆様』


 そんなやり取りをしている中、ヘンリエッタの声が室内に響いたのだった。





『副官はいかがいたしました?』

「敵の攻撃で寝ているだけだ」

『念のためメディカルルームにお連れいたします』

「必要か?」

『はい』


 間髪入れず、筒状のバケツ頭ゴーレムが二体メインオーダールームが入ってきた。

 担架を構えたので、そこにブランフィオを寝かせる。


『お連れいたします』

「ああ、頼んだ」

「ヘンリエッタ、念のためブレンダも向かわせておきなさい」

『かしこまりました』

「ブレンダ?」

「新しいメイドの一人ですわ」

「ああ、そういえば名前がなかったな」

「あたしが付けてやったんだ」

「さすがお姉ちゃん」


 思いのほか普通の名前で安心だ。


「垂れ耳の巨乳がブレンダで青髪のスレンダーなのがミネアですわ」

「そうなんだな、料理人は?」

「キャットタイプがドミニク、ドッグタイプがパイロン、ラビットタイプがフィルですわね。こちらはわたくしがお付けいたしましたわ」

「そうか、ご苦労様」

「いえいえ、楽しいものでしたわ。思わず自分の子供の名前も考えてしまいましたもの」

「うむ。きっと強い子になるぞ」

「お、おう……」


 関わりたくない話にまたなりそうだ。


『艦長、ダンジョンはいかがでしたでしょうか?』

「あ、ああ。無事攻略できたぞ」

「浅かったな」

「大して苦戦もしませんでしたわ」

『下見のまま攻略されましたか。若いダンジョンだったのかもしれないですね』

「若いダンジョン?」

『ええ、まあ私ほど若くはないでしょうけれども』


 お前はまだ生後一か月も経ってないものな。

 そう考えていると、艦長席の手元にある半球体のガラスが開いた。


『ダンジョンコアの取り込みを開始いたします』

「ああ、いや。前みたいに出入りできなくなるのか?」

『前回は艦長の認識がなかったので強制的に閉鎖を行いましたが、艦長からの指示を優先いたします。ですが特一級指定の最上位命令になりますので、閉鎖を行いましたら解析が完了するまで閉鎖を解くことはできません。ですが閉鎖したとしても、前回と違いダンジョンコアは既に解析済みのものです。以前のように時間は掛かりません。二時間から三時間程度で完了すると思われます』

「そうなのか」


 それなら安心だ。


『希少エネルギーには違いないため艦内の閉鎖をお勧めいたしますが、いかがいたしますか?』

「出入りしている地竜やスクワーチウォーカーは?」

『おりません。本日は副長の倒した魔物の回収も完了しておりますので、すべての個体が戻って来ております』

「じゃあ閉鎖で構わない」

『ありがとうございます。ではダンジョンコアを』

「ああ」


 前回と同じように、艦長席の横の机にある窪みにコアを置く。

 すぐに窪みをガラスが包み込んで、ダンジョンコアを回収した。


『特殊高エネルギー体の回収を確認。特一級指定の最上位命令により、当艦を完全遮蔽モードに移行いたします』

「そういえば、最初に聞いたヘンリエッタの声はこれだったか」

「そんなに経ってないはずなんだが、なんだか懐かしいな」

「ですわね、あの時は閉じ込められたと驚きましたが……今思い返すと、ジャールマグレン様に転移して貰えればでられましたわね」

「いや、無理だっただろうな」


 イミュリアの言葉にオレは首を横に振る。あの時はオレ自身を飛ばすだけで精一杯、全員を連れて飛ぶのは無理だったはずだ。


『艦内クルーは全員、所定のエリアに移動してください。繰り返します、艦内クルーは全員、所定のエリアに移動してください』


「そうですの?」

「ああ。転移を行うには目的地を明確にイメージしなければならない。あの段階でオレがイメージできたのは魔王城やその周辺だけだ。ここから大陸単位で離れている魔大陸までは転移で飛ぶことができないし、ヘンリエッタの周辺も調べていなかったからな、転移で飛べる範囲にオレが知っている場所がなかった」


 だから閉じ込められた時に、オレも慌てたのだ。


『完全遮蔽モードへの移行を開始いたします。外部ハッチ並びに第一層、第二層、第三層への扉を施錠、生活エリアおよび各設備の扉の施錠も行います』


 多少ヘンリエッタの文言が変わっているのは、オレ達に合わせてのことか?


「回収した魔物の死体やダンジョンマスターの核を収めてくる」

「おう、行ってこい。あたしらは風呂だな」

「ええ、ジャールマグレン様も先にお風呂に入られたらいかがですか?」

『解析室までの扉も閉鎖しております。そちらのフロアに移動することはできませんよ?』

「あ、そうか。転移で……魔力なかったわ」


 仕方ない、オレもお風呂に入ってこよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る