本格的な戦闘!

 ブランフィオを残したのは、先ほど大きな魔法を使ったためだ。イミュリアは直接的な戦闘を好まないため下げたのだろう。

 剣を抜いたオレと、無手の姉上で対処する。


「はぁっ!」


 姉上が一足で敵との距離を詰めてその体に拳を叩きつけ、ウッドマンの魔物は爆散する。


「あそこまでの威力はオレには無理だからな」


 オレも敵との距離を測り、姿勢を低くして剣を振るう。思いのほか硬くないと感じながら、そいつの体を切り裂いた。


「グレン! 植物系の魔物は魔石を砕くか細かくしないと倒せないぞ!」

「はい!」


 姉上の言葉を証明するように、肩口から切り裂いたウッドマンは、腕をだらんとぶら下げながらも腕を振ってくる。

 それを躱しつつ、腕を斬り、今度は胴を切り裂いた。上半身が落下するのを見届ける間もなく、そいつの後ろから次の木人が向かってくる。


「はっ! せいっ!」


 オレは次の相手をする。まず両腕を切り落とし、首を切り裂き落とした。しかしまだ歩いて動く様子。先ほどと同じようにお腹の辺りを切り裂いて両断する。


「魔石は体か?」

「どうだろうっなっ!」


 返事しながらも轟音を立てる姉上の周りをみると、粉々に砕けた木々が大量に落ちている。オレが二体を相手にしている間に、姉上は十体近くのウッドマンを倒しているようだ。道理でバッコンドッカンうるさいわけである。


「これは、出番がないか? いや、そうでもないか」


 姉上に敵が集中しているが、オレのところに来ない訳でもない。何より最初の段階よりも数が……増えている?


「増えた!?」

「ジャールマグレン様! 連中新しく生えてきております!」


 イミュリアの言う通り、視界の端に地面からニョキニョキと伸びる木が見える。それが大きくなると、葉が落ちて、枝が手のようになり、頭が生まれる。

 形が出来上がると、足が地面から切り離されて再び動き出す。


「これは」

「面倒だなっ! 生える前に潰してしまえ!」


 姉上は自分に向かってくるウッドマンを文字通り爆散させながら素早く移動、拳で、足でウッドマンや生え途中の木を吹き飛ばしていく。

 姉上が吹き飛ばした個体がいくつも目に入ると、気づくこともある。爆散しているときに周りに飛び散るのは木々だけだ。

 つまりこいつらは。


「魔石がないな」

「そう思えます、ニャ」


 オレの呟きにブランフィオも頷いてくれる。そう、こいつらには魔石が見当たらないのだ。


「傀儡系の術でしょうか? 珍しいですね」


 木の裏に回り込むようにオレは動くが、特に何かがいるわけでもなく、何かが隠れられる場所もなかった。

 枝葉に隠れているのか?


「いや、木そのものが魔物か」

「うむ。こやつの魔石はなかなか大きいぞ」


 こうして会話している間にも、ウッドマンは次々と生まれようとしている。

 ただ姉上の殲滅力が高すぎて脅威には感じない。


『ぬばぁぁぁぁぁ』


 余裕がでてきた、そう思っていたらその大きな木から何かが分かれるように出てきた。

 こいつも、ウッドマンか? 大きいぞ!


「骨がありそうなのが出てきたな」

「姉上、相手は木ですよ」

「あ、そうだな。じゃあ骨はないか。それと、お姉ちゃんな」

「はいはい」


 今まで地面から生えてきたウッドマン達と違い、木の幹から抜け出すように生まれてきた大きなウッドマン。

 そのウッドマンは表情のない顔をこちらに向けて、第一歩を踏み出してきた。






 ズシンッ! と、洞窟自体が振動するようにその巨体が大地を踏みしめる。大木から生み出されたその体の大きさは相当だ。オレも姉上もその巨体を見上げる。


「デミジャイアントくらいあるな」

「ああ、ちょうどあれくらいの奴らがいたね」


 姉上のいうデミジャイアントは、魔王城の大きな門でも屈まずに潜れる程度の大きさのジャイアントだ。ジャイアントの中では小さいが、その分素早い動きができる上に通常サイズのジャイアントと同様に怪力持ち。

 手先も器用で魔王城での雑用係として重宝されていた奴がいた。


「んー、そうだな。グレン、お前が一人で相手をしてみなさい」

「オレ一人で?」

「ああ、あの程度の手合いならあたしなら一瞬だ。ワンパンだ。だから譲ってやる」

「お姉ちゃんがワンパンで倒せない相手って、魔大陸にもほとんどいないんじゃ」

「うむ! とはいえ気になっていることがある。だから一人で対処してみな」


 そう言うと姉上が周りのウッドマン達を暴風のように片付け始める。


「さて、本当に手を出してこない感じだな」


 姉上の興味がこいつにはない、というよりもオレに向いている気がする。オレの力を試そうというところかな?


「確かに兄弟達の中では非力なオレだけど」


 モルボラ兄上以外だが、剣の腕は兄上達の方が上。力は他の兄弟より弱い、なんなら妹よりも弱い。魔力量も魔法を扱えないガラグラッタ兄上を除けば底辺だ。

 素早さも肥大して移動に支障のあるモルボラ兄上くらいにしか勝てない。


「だからといって、こんな野良の魔物に負けるほど母上の血は優しくないよ」


 オレは剣を片手に左手に持ち、空いた右手の拳を固めて巨大なウッドマンに向かって駆け出す!


「おおおお!」


 まずは小手調べだ。懐に入らんと突っ込むオレに、腕を振り回すウッドマン。

 丸太のように太い腕を掻い潜り、思いっきりお腹に拳を突き出す。

 ズンッ! という音と共にウッドマンの体がズレた。


「効果は無さそうだな」


 どこかを守ろうとするか、どうにか回避しようと動くのか見たかったが、躱す様子もなくオレの拳を受けいれたウッドマン。

 お腹の中心にオレの拳の形がきっちり残ったが、それだけだ。


「おっと」


 そんなオレを引きはがそうと、大きな足でオレを蹴り上げようとしてくる。こんなものを食らったら、全身の骨がバラバラになりそうだ。余裕を持って回避を行う。


「ったく、雄たけびの一つも上げてこいよ」


 とはいえ相手は目も口も耳もない木の化け物だ。平らなその顔からは何を考えているのかもわからない。


「はっ!」


 振り下ろしのパンチを回避し、その腕を剣で切り落とす。そう思ったが剣の長さが足りず、切り裂いた程度になってしまった。


「もう一回っ!」


 二の太刀でもう一度同じ個所を別の角度から切り払う。

 ザッという音と共にその丸太のような腕を切り落とす事に成功。落ちた腕はまさしく丸太だ。しかし。


「再生か」


 巨大ウッドマンの腕の切れ目から、新しく枝が伸びたと思うと、それらが絡み合って新しい腕が生まれた。

 先ほどは一本の木の枝で構成されたと思われる腕だったが、今度は細い枝が幾重にも絡み合ってできている。先ほどより頑丈そうだな。


「艦長! ファイトです、ニャ!」

「ジャールマグレン様! やっちゃえですの!」


 後方にいる二人から声がかかる。姉上が横に立っていて頷いていた……二人に応援しろとでも言ったか?


「さて、削るだけ削ってみるか」


 相手は植物の魔物、首を落とそうが腕を落とそうが、恐らく死なないだろう。どこかにある魔石を破壊するか、姉上のように爆散させるしか……魔石、あるのか?


「そういえば、そうだったな」


 オレは剣を鞘に納めて、相手を見据える。魔物であればその体に魔石がある。魔石から体中に、血液のように魔力が循環しているはずだ。


「なるほど、そういうカラクリか」


 中腰に構えてオレは大地を蹴る。目的は巨体ウッドマンの股下っ!

 腕を振り回して攻撃をしてくるが、それを掻い潜り、目的の股下を通過。


「本体は、お前だ!」


 その先にある、ただ佇む巨木にオレは迫った。


「次元斬」


 剣を鞘から抜くのと同時に、魔法を発動させる。オレの放った剣撃は巨木に斜めに一文字を生み出した。

 ゆっくりと滑るように、巨木の上部が切れ落ちた。

 後ろで何かが倒れる音。巨木を切り落としたことにより、巨体ウッドマンも倒れたのだ。

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