天然? のトラップ
「こちらまではニ十分、ニャ」
「戦闘がなかった分早く降りられたな」
「残念といえば残念なんだが」
「セリアーネ様、川魚は食べる物であって戦う物ではありませんわ」
「ま、それもそうか」
そうだろうか?
そんなたわいもない話をしながら階段を降りると、次に現れたのは再び洞窟。
どうやら環境自体を作り変えているわけではないようで、自然のままに生み出されたダンジョンのようだ。
「ふむ」
「こんなところに花畑ですか」
「気配が複数感じられます、ニャ」
そこまで広くもない通路だ。そこには通路や壁だけでなく天井まで葉が生い茂り、赤や黄色、紫といった様々な花が生えている。
そして何か光る虫のようなものが宙を行き来していた。
「ブランフィオ、罠は分かるか?」
「ニャフ、申し訳ありません、ニャ。この距離では判断つきません、ニャ」
地面が見えないほどに葉が生い茂っている。目で見える範囲全てだ。こうなると罠の判別は不可能だろう。
「ですが、花々の中に気配を感じます、ニャ。あれらの中に小さな魔物がいるか、あれら自体が魔物の可能性もあります、ニャ」
「そうか。警戒して進むしかなさそうだな」
「ま、問題ないだろ」
「ですわね」
ブランフィオが慎重に草の生えた地面に足をおろす。何度か足踏みして、そして感触を確かめている。
「……大丈夫みたいです、ニャ。にゃふん……ふにゃ」
「ブランフィオ?」
突然ブランフィオが体を揺らし、何かにこらえるようにする。しかし、すぐにブランフィオは、倒れそうになった。
「ブランフィオ、どうした?」
慌てて抱えるが、ブランフィオから返事はない。意識がない……というよりも。
「寝ていますわ」
「そういうことか」
姉上が少しだけ先に進むと、納得したように頷いた。
「何か分かったの?」
「眠り香のもとになる魔物だろうな、名前はなんだっけか……」
「スリープコスモスですわね。紫色の花びらのがそうみたいですわ」
「なるほどな。ブランフィオはこいつの花粉を吸ったのか」
「みたいですわね。わたくし達には効きませんでしたけど」
よく見ると地面の葉に隠れて生き物の骨が転がっていた。上の階を抜けて来れた魔物や動物達の死体だろう。
「眠らせて、眠らせたまま魔物を養分にする魔物ですわね。わたくしが知っている物と比べると、随分花が小さいですけれども。これだけの群生地初めてみましたわ」
「良く考えられてるな。宙を飛んでいる虫は大丈夫なんだな?」
「どうだろうね?」
「ともかく、ブランフィオは駄目ですわね。今起こしても、先に進めばまた眠ってしまいますわ。スリープコスモスは少しの刺激で花粉を飛ばしますもの」
オレと姉上は母の血を受け継いでいるからか、毒などの状態異常にはめっぽう強い体質らしい。少なくとも今までそういったものが効いたという話は聞いたことがない。聞かなかったという話ならいっぱい聞いたけど。
そして眠りに関しては、イミュリアにも効かない。眠りを司る悪魔でもある彼女が、他の魔物に眠らされるようなことはありえないだろう。オレ達は多分大丈夫、どこまでのレベルになったら効く、といったものの可能性があるが、イミュリアの場合は絶対に効かない。
「はあ、罠があるかもしれませんのに。ダメな猫ですわ」
「オレがおぶるよ」
オレの腕の中でスヤスヤ眠るブランフィオ、このままにはしておけない。でも先に進みたい。
「じゃあ先頭はあたしが代わるぞ」
「お願い」
イミュリアに手伝ってもらい、ブランフィオをおぶる。
「念のためあたしが歩いたところを通るんだぞ?」
「わかった」
「わたくしが最後尾ですわね」
この状態では姉上に任せるしかない。最古龍に踏みつぶされてもケロリとしている姉上なら多少の罠でも問題無いだろう。
ヒールの高い靴で草花を踏みつぶしながら、姉上がしっかりした足取りで先行してくれる。
「にゃふ」
「おっと」
オレもブランフィオを落とさないように、しっかりと歩かないとな。
「大変申し訳なく……」
「いや、対策をしていなかったオレ達の全員のミスだ。オレ達にあの手の状態異常が効かないから思いもしなかったな」
「つ、次からはガスマスクを付けます、ニャ! 持ってきます、ニャ!」
「対策ができる物があるなら、次からは問題ないだろ。だから頭を上げなさい」
眠ってしまったブランフィオは、肩をゆする程度では起きなかったので、イミュリアが能力で起こした。魔法や魔物の特性による睡眠の中には、簡単には覚醒させられないものもあるらしく、スリープコスモスによる睡眠もその一つだったらしい。
イミュリアがどのように起こしたかは……目を背けておけと言われたから分からない。
オレ達に土下座をするブランフィオの肩を叩いて気にするなという姉上。
オレも同じ気持ちだから、問題ない。
「あなた、倒れられた時にジャールマグレン様に抱きかかえられましたわ」
「ニャ!」
「その後はあの方のお背中で……羨ましい」
「ニャ、ニャァ」
何やら二人が話しているが、なんだろうか? ブランフィオの尻尾がグネグネしている。
「ブランフィオ、そのガスマスクとやらを付けたら匂いの感知はどうなる?」
「……できなくはないですが、精度はかなり下がります、ニャ」
「そうか、悩ましいところだな」
姉上の疑問に答えるブランフィオ。完全な対策は難しいな。
「現役の冒険者達に今度聞いておくよ。彼らならこういった事態の対策も詳しそうだ」
「ニャフ」
「それがよろしいかと思いますわ」
そう話しつつ、ブランフィオが立ち上がって姿勢を正した。
「あの花の魔物は覚えました、ニャ。次は引っかかりません、ニャ」
「頼りにしてるよ。もう少し休んでもいいぞ?」
「問題ありませんです、ニャ」
「なら進むか」
「無理は禁物ですわよ?」
「大丈夫です、ニャ。時間もあまりありませんし、ニャ」
ブランフィオが例の四角い時計を見ながら問題ないと言うので、オレ達は先に進むことに。
ブランフィオを起こしたのはスリープコスモスの群生地を抜けた先、下の階層に続く階段の前。
階段は真っすぐ進んでいて、奥が見えない。それなりに深い位置に潜ることになりそうだ。
コツコツと四人で階段を降りて先に進む。
「ニャ、また敵の気配です、ニャ」
しばらく階段を進んでいると、視界の先に光が見えてくる。
「また植物系みたいです、ニャ」
「甘い匂いか?」
「違います、ニャ」
警戒しつつも階段を降りて、光が覗き込む入り口から顔を出す。
広間だ。
そこは岩盤がむき出しの大きなエリアで天井も相当高い。煌々と天井が灯りを照らしており、昼間の外と変わらない明るさだ。
「あれ、です、ニャ」
「ウッドマンか何でしょうか?」
「どうだろうな」
その空洞には中心に大きな木が一本だけ生えており、その周りには人型の木がいくつもいた。
イミュリアのいうようにウッドマンと呼ばれる魔物だろうか。
そいつらが一斉にこちらに顔となる部分を向けて向かってきた。
「ブランフィオは後ろに」
「はい、ニャ」
「さて、どの程度だろうか。イミュリア、お前も後ろにいろ」
「かしこまりました」
このダンジョンに入って、初めてまともな戦闘になりそうだな。
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