未知のダンジョン!

「敵です、ニャ」

「そうか」


 ダンジョン? 洞窟? 内をしばらく歩くと、ブランフィオが敵だと断定。


「恐らく数は三体にゃ、何かを引きづっているような音もします、ニャ」

「ここからでは見えないな」

「どのような魔物でしょうかね」

「強いのが、まあこんな浅い層で強い魔物はでないか」


 とはいえ敵なのは間違いない。


「少し先行します、ニャ。敵の形だけでも確認します、ニャ」

「いや、いきなり別れるのは不味いだろう。ブランフィオ、慎重に先導を」

「先行するのはあたしの仕事だ」

「いけませんよ。外のような開けた場所ではないのですから。セリアーネ様が本気で戦ったらわたくし達が生き埋めになってしまいますもの」

「そ、それもそうか」


 いや、多分ダンジョンだから崩落はないと思う。ヘンリエッタが神の力がないと壊せないと言っていたし。姉上が神の力とやらを持っていても不思議ではないが。


「後方からは気配はないな。挟み撃ちの心配もなさそうだ」

「では安心ですね」


 ブランフィオも頷いている。後ろの心配は必要ないようだ。


「む、洞窟が」

「広くなってきてますね。ああ、あれですか」

「イミュリア先輩、知っているのか、ニャ」

「ええ、特に問題のない子達ですわね」


 見えてきたのは、植物の魔物だ。オレの腰くらいの高さしかない植物で、赤い小さな花がいくつも咲いている。大地に根付いておらず、代わりに足元にイノシシの死体の上に乗っかって根を下ろしていた。

 あれは確か……。


「スウィートポピロム、だっけか」

「ええ、魔王城の一部の部屋なんかでも飼われておりますわ」


 そう言ってイミュリアは危なげなく近寄って、ランタンを床に置く。

 両手を開けたかと思うと、躊躇なく茎をまとめて掴んで持ち上げた。そして手刀でザッとまとめて花を切り落として、死体から根を引っこ抜いた。


「慣れています、ニャ?」

「香りの強くなった個体は邪魔ですから、こうして良く処分しておりましたわ」


 言いながらイミュリアがスウィートポピロムをこちらに寄こした。


「もう死んでるのか?」

「魔石はこの複数ある花の一つに隠れておりますの。根と分断すれば生きていけませんのよ」

「さすがに詳しいな」

「ふむ、確かに甘い香りがするな」

「甘い香りを放ち、虫や魔物をおびき寄せそいつらを絞め殺して養分にする魔物ですの。魔王城では臭い消しと虫取りに使っておりましたから問題ありませんわ」


 イミュリアの説明を聞きながら受け取り、それを収納する。


「最初の魔物が、なんというか魔物っぽくなかったな」

「です、ニャ」

「だが外から魔物をおびき寄せる役割を持った魔物が配置されていたのだ。それなりに知恵を持った者が支配しているダンジョンなのかもしれないぞ」


 あ、なるほど。そう言われると、確かにそう感じる。


「さすが姉上、素晴らしい考察です」

「だろう? それとお姉ちゃんな」

「では今後はスウィートポピロムを排除できる者を相手取れる魔物が来るかもしれませんわね」

「警戒を続けます、ニャ」


 その後しばらく進んでいったが、この階層ではとうとうスウィートポピロムしか出会うことがなかった。


「とりあえずここまでは罠がありませんでした、ニャ」

「そうだな。次の階層か」

「なーなー、戦ってないんだが」

「階層ボス的な者はおりませんのね」


 基本的に一本道で、たまに広い空洞があったらスウィートポピロムがいる。それだけのダンジョンに見えたが、とうとう下の階に繋がる階段が現れた。


「ここまで来るのに約四十五分です、ニャ」


 ブランフィオが四角い何かを取り出して時間を確認している。時計なのだろうか?


「まだ進めそうだな」

「だな、もうちょい行こう」

「そうですわね。戦闘もありませんでしたし」


 階段にも罠はない、そうブランフィオが判断したので、オレ達は問題なく下の階へと進んだのであった。






「地底湖、か」

「これは、こういう環境を作ったものなのかそれとも初めからこうなのか」

「なかなか美しい風景ですわね」


 そこに現れたのは大きな湖。周りの壁がうっすら光っているからか、なかなか幻想的な空間となっている。


「湖に近づき過ぎないでください、ニャ。水に流れがあります、ニャ。多分魔物がおります、ニャ」

「どこかに流れている、というわけではありませんよね?」

「です、ニャ」


 ブランフィオがこちらに注意を促してくる。


「水の中か、無視して下に続く階段を探すか」

「ですわね。濡れたくありませんもの」

「賛成です、ニャ」

「さすがに水の中から攻撃してくるんじゃないか?」


 姉上達の案には賛成だが、そんな簡単に行くものでもないだろう。

 程なくして、水面から魚が顔を出してこちらに視線を向けている。魚というにはそれなりに大きいな、あれが魔物だろう。


「イミュリア、知ってるか?」

「川魚はそれなりに詳しいつもりでしたけれども、あれだけでは判断が付きませんわね」

「この距離ならば攻撃はしてこないようだな」


 こちらに顔を向けている以上、飛び掛かってくるなり遠距離攻撃をしてくるなり何かしらの攻撃方法があるのだろう。

 ブランフィオの言う通り、不用意に湖に近づかなくて正解だったな。


「とはいえどうするか。ここはまだ広いが、奥に進もうとすると通路と湖との距離が近くなっていくように感じるな」

「ですわね」

「お魚、美味しいのか、ニャ?」

「そもそも食えるか?」

「おやめなさいな、多少珍しいくらいではヘンリエッタで用意できる食事を超えるのは難しいでしょう」


 確かに。ヘンリエッタには魚も保存されているし、魚のための生け簀もあるらしい。料理人達の手によって作られたあれらを超えるのはなかなか難しいだろう。


「ちょっと試してみます、ニャ」


 ブランフィオは軽い口調で湖に近づく。相手がどのように動くのかを確認するつもりだろう。


『ぼうっ』


 魚の魔物の目が赤く光ると、湖の水が浮き上がって水の球をこちらに飛ばしてきた!


「やっぱりそういう系統か」

「特に珍しくもありませんわね」


 とはいえやはり魚だ。陸に飛び掛かってくるタイプではないようで、勢いよく水の球を飛ばしてくるだけなのかもしれない。


「ニャフ」


 ブランフィオは素早い動きで、その水の球をすべて躱した。ナイフでも投げれば仕留められそうだが、ブランフィオは武器を取り出さずに、バックステップでこちらに戻ってくる。


「どうやら水からは出てこないみたいです、ニャ。ならこうします、ニャ」


 ブランフィオが背負っていたライフルを取り出して、魔法の弾丸を装填。そして放った。

 チュインっと鋭利な音が湖に当たったかと思うと、そこから氷が湖全体に広がっていく。


「さすがにこの広さの湖を全部は凍らせられないです、ニャ。でも水面だけでも凍らせておけば、魔物は顔を出すのが難しくなります、ニャ」

「うむ、良い仕事だ」

「良い判断ですわ」

「まあ、いいか?」


 同じダンジョンマスターとしては、せっかく用意したダンジョンのギミックがこのように攻略されるのは悲しく感じるな。

 オレがダンジョンを整備するときは、こういった攻略がされないように気を付けて環境の調整をしよう。ヘンリエッタも知恵を貸してくれるはずだ。

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