掃討完了っ

 ゴブリン達に大きな動きはなかった。連中はオレ達の存在に気付いたうえで、特に対策を行った様子はなかった。

 先ほどきた大きな木の上から確認をしていたが、確かに少しだけあわただしい気配を感じたゴブリン達の集落は、ホブゴブリンが遠吠えを上げた段階で静まり返った。


「オレがいるから問題ないとか、そういった事を言ったんだろうな」

「せやね。群れの長になる魔物は自信持ちになりがちやから」

「ニャ。罠とかも見た感じなかった、ニャ」


 つまり、作戦通りというわけだ。

 チームごとに固まって移動しつつ、周りを囲むようにゴブリンの集落に駆け込める位置に陣取る。

 その間に近寄ってくるゴブリンは、ブランフィオが早々に発見して即座に排除だ。

 数は六。


「始まったな」


 しばらく待っていると、ジン達切り込み隊が集落の中に突撃していった。

 ゴブリン達はそこに気を取られ、集まっていく。

 ジン達に敵が集中している間に、オレ達もゴブリンの集落に侵入だ。


「ギャッ!?」

「グギャン!!」

「ギャブッ!」


 見かけたゴブリン達は、オレ達に近寄ることもできずにブランフィオの魔法によって排除される。


「楽ねぇ」

「お前もやれ、遠距離持ち」

「はあい」


 ローネ先輩はそう返事をすると、大きな岩を魔法で生み出し、ゴブリンの作ったほったて小屋を岩で押しつぶした。


「どんどんいくわよ~」

「はりきっとるな」


 ガリオンも同様に、大きな岩を生んで小屋をつぶす。

 小屋の中にゴブリンが潜んでいるかはブランフィオが察知できるので、ブランフィオが指をさして指示をしている。


「やることないな」

「だな……よし。この辺は片付いたっぽいし、細かいのはローネと俺で対処する。ガリオン、二人を連れて集落の奥まで足を進めてくれ」

「了解やで! 付いてきいっ!」


 ガリオンが小さい体で走り出すので、それに合わせてオレとブランフィオも動き出す。


「ストーンアロー!」

「はっ!」


 流れに任せてここまで来てしまったが、ブランフィオの言う通りここまで罠も何もなかった。ゴブリン達も散発的に襲ってくるだけで連携も何もない。さすがにブランフィオ任せにし続けられるほど少なくはないので、オレも剣で、ガリオンも魔法で何匹かのゴブリンを倒している。


「こんなものが、ゴブリンなのか?」

「こんなもんやで」

「信じられん……」

「あ? ああ、あー! なるほどな。グレンはロードに率いられたゴブリンでも想像しとったか?」

「ロード? ああ、ゴブリンというのは一番上に統率者がいるものだろう?」


 女王である母が君臨している魔大陸において、王を名乗る存在はいない。

 ゴブリンロードという種族がいるとは聞いたことあるが、オレ達は統率者と呼んでいた。


「そんなんいたらそら国を挙げて対処せなならん事態やで。そないなのが出る前に対処するんが冒険者や」

「ふむ?」


 つまり、どういうことだ?


「わかっとらんか、つまりやな、ロードみたいな最高位のゴブリンに率いられたゴブリンは別格ちゅうことや。それこそ国が軍隊やらを率いてプラチナランクの冒険者を何人も投入し対処に当たる自体やな。今回はそない自体やないから、この程度の相手なんや」

「ゴブリンというのは、その、率いる者で難易度が変わるということか?」

「ま、簡単に言うとそういうことやな。今回率いとるんは今ジンが戦こうてるあいつや。頭悪そうやろ」


 大きな棍棒を振り回している、緑色の筋肉質な巨漢。

 大きさでいえばジンと並ぶそいつが、ジンに棍棒を叩きつけんと振り下ろした。

 ジンはそれを丁寧に回避し、手に持った短槍を器用に回して相手を切り付けている。動きこそ以前見た時と変わらないが、随分丁寧に戦っている……というよりも、どうにも消極的な戦い方に見えるな。


「あの棍棒で、あの鎧が傷付く、ニャ?」

「効かんと思うで」

「ああ。それにしてもよく動く」


 ジンはずいぶんと余裕のある戦いをしている。


「ほんなら、こっちはウチがもらうかな」


 メス達が集められている小屋に視線を向けるガリオン。


「ちいと集中すんで」


 ガリオンは地面に杖をつき、魔力を集中させる。

 その様子にホブゴブリンは気づいた。何か叫び声をあげている。


『せいやっ!』


 その頭をジンの槍が貫いた。どうやら決着がついたようだが……ジンの実力ならもっと早く片付いたように思えたが?


「アースクラッシュ」


 ガリオンの魔法が完成。小屋ごとその周りの地面を崩して、建物を崩壊させた。


「こんだけ埋まったら問題ないやろ。ファイヤーボールっと」


 そして見下ろすほどに陥没した穴の淵まで歩いていき、炎の魔法を放った。


「なるほど。こうすれば火を使っても問題ないのか」

「ま、素材やら討伐部位の回収ができへんからな毎回できるわけやないけどな」

「むう、ガリオンのわりに考えてる、ニャ」

「どない意味やねん」


 ともあれこれでメス達も対処が完了だ。

 あとは他のチームの腕次第だが、まあどこも問題なさそうだな。






 ゴブリン達の掃討も無事に完了。

 連中の作っていた小屋やゴブリン達の死体、それと道具なんかはまとめてガリオンの生み出した穴の中に放り投げられて、油を敷かれて炎の中だ。

 逃げ出したゴブリンはブランフィオ曰く五体ほど。森の中に逃げ込まれるとさすがに狙撃では倒しきれないと言っていたが、戦果としては十分だったそうだ。


「「「 ありがとうございました 」」」


 後片付けを終えて村に戻ると、村人総出で迎えられた。

 彼らも家族が混ざっていたから心配だったのだろう。それぞれの親や兄弟達に囲まれて、何やら話していた。

 照れくさそうな者、誇らしげな者、疲れた表情の者など様々だ。


「今回は助かったよ。おかげで大したけが人もでなかった」

「回復魔法はええんか?」

「無料だったら頼んだんだけどなぁ」

「残念やな。別料金や」


 回復魔法が扱えるガリオンは、事後処理の後に冒険者達の中でも怪我をした者に回復魔法をかけていた。

 それは腕や足を折った者達限定だった。それ以外の軽傷者は有料だと宣言していた。同じく回復魔法が使えるローネ先輩も同様に金をとっていた。

 ローネ先輩の方が人気だったのは、容姿のおかげだろうな。


「追加報酬は断って良かったのか?」

「十分実入りになるものだったからな」

「グレン様が受け取らないのに、ブランフィオが受け取れるわけない、ニャ」


 冒険者ギルドからの報酬以外に、兵士達から現地での活躍に応じた報酬が出るらしい。

 兵士や騎士達と合同で仕事をしたときに出るものらしく、珍しいはなしではないらしい。

 それを断り、代わりにゴブリン達がゴミ山にしていた場所から出た魔石をもらった。他の魔物が狙うからそれらも穴の中に投げ込んだのだが、そこから魔石も大量にでたのだ。

 どんな魔物のものかわからないが、オレの保持していない魔物の魔石は大歓迎だし、同じ魔物のものでも、ヘンリエッタに吸収させれば、生命の秘薬の生成が可能になるかもしれないのだ。とにかく数が必要である。

 ちなみに村出身の冒険者達は兵士の隊長から現金を受け取っていたし、ラファーガ達も同様、兵士達も手当としてお金をもらっていた。


「換金するのが面倒だからこっちからしたら助かるけどな」

「問題ない。オレとしても数を必要としているからな」


 量が多かったから持ち帰るのも大変だし、換金するにも手間がかかる。そのうえでそれらの金は兵士たちの装備なんかの費用に回されるから、働いた兵士達の手当てにはならないそうだ。


「さて、そんじゃ一泊して帰るかね」

「せやな。森ん中歩いたから虫にも刺されるし……なあ、お前なんでそない肌キレイやねん」

「そういえばそうね。わたしたちは長袖だったけど、ブランフィオちゃんは肌剥き出しだったわよね?」

「虫よけ、ニャ」


 ブランフィオが何やら詰問され始めたが、気にしないでおこう。

 しかし、これが冒険者の仕事か。城では味わえない感覚だな。

 村人達に感謝されるのも、悪くはない、な。

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