射撃、ニャ
「静かに。こっちに向かってくる個体がいる、ニャ。三体、ニャ」
ブランフィオがこちらに向かってくる個体を確認。木々に隠れてて姿は見えないが。
「どうする?」
「見つかる前に撤退するか、倒して死体を持ち帰るかやな。どっちにしてもリーダーの判断が必要や」
「下に降りるか?」
「こんなときは、こうや」
ガリオンは細い枝を一つ折り、ラファーガの顔の近くに投げる。それに気づいたラファーガがこちらを見上げる。
「ハンドサインや」
「なるほど」
ガリオンが腕を動かして、指で三とした。
ラファーガは少し考えた後、やはり腕を動かす。
「んー、この距離やと微妙やなぁ」
「何がだ?」
「静かに魔法で倒すか眠らせてくれってさ。グレンは無理やろ?」
「静かにはできないな。結構派手に音が鳴る」
空間爆破の魔法がある。魔法自体は静かなものだが、崩した周辺の木々や大地がそれなりに音を出すので却下である。
「ん、ブランフィオがやる、ニャ」
「できるんか? 失敗したらあかんで?」
「問題ない、ニャ」
ブランフィオは背に担いでいた筒状の道具を手に持つ。
ライフル型光線銃を模したそれは、別の用途に使うとのことだが……。
「すでに射程圏内、ニャ」
「何するか説明しい。ウチが判断するさかい」
「……ニャァ」
ブランフィオは嫌そうだ。だけどここでは一番経験値の高いガリオンの指示に従うべきというのもわかる。
「ブランフィオ、教えてあげなさい」
「かしこまりました、ニャ。見る、ニャ」
ブランフィオは魔法で氷の礫を生み出す。とても小さく、先端のとがった物だ。
「この氷の弾丸をこいつで打ち出す、ニャ。これでゴブリンを三匹仕留める、ニャ」
「三匹同時にいけるんか? 音はどうや?」
「三匹同時は無理、ニャ。でももうすぐ木々の合間の開けた場所に連中は出るから素早くやればいける、ニャ。音はサイレンサー付きだからそんなにしない、ニャ」
ブランフィオが説明をする。正直オレにもブランフィオがやろうとしてることがよくわからない。
「三匹倒すのにどれだけかかる?」
「一匹4秒、ニャ。正確に狙撃できる距離は約五百メートル、ニャ。ここからなら絶対に外さない、ニャ」
「絶対かいな」
「絶対、ニャ」
ブランフィオがしっかりと説明する。
「しもたな、来る前に実際に見せてもらえば良かったわ」
ガリオンがまた下に向かって手を使って何かを伝えている。
「おっけーや、いっちょかましたれ」
「ブランフィオ、頼りにしているぞ」
「お任せください、ニャ」
太い木の幹を背に、ブランフィオは座るような姿勢で体を固定した。
そして手に持つ武器に氷の弾丸を入れこんで、静かに武器を構えて引き金を引いた。
「ってのが今回の報告やわ。外にでとるゴブリンもおるやろうから、数は多少前後すると思うで」
「なるほど。助かります」
ラファーガには気軽に話していた隊長だが、ガリオンには丁寧な口調だ。彼女が貴族なのを知っているのかもしれない。
「となると、殲滅は」
「森を燃やすとかそないな感じで包囲せんと、無理やで。ここにいる人間全員で包囲しても隙間がでるやろうしな」
「さすがに森は燃やせないですな、こちらの身が危険になりかねんし、村人達の生活にも関わります」
「やろーな。せやから、前面の五方向から徐々に押し出す方法をお勧めするで」
ブランフィオが無事に三匹のゴブリンを仕留めた。
頭を正確に打ち抜いたゴブリンの死体は、血液を地面に埋めてオレの空間庫にしまいこんだ。
ゴブリン達が不審がるかもしれないが、少なくとも死体は見つからないので問題ないだろうとのラファーガの判断だ。
「押し出す、か」
「せやで。東側と南側には近隣に村はあらへんからな」
「捕らえられている人間は?」
「おらへん。金属製の武器を持っとるやつも見当たらなかったし、人の荷物みたいなもんの形跡も見当たらん。村で行方不明者はおらんのやろ?」
「ああ、いない」
「ほんならいないやろな。ウチのとこの斥候も確認しとるから間違いあらへん」
ブランフィオに視線が少し集まるが、当人は素知らぬふりである。
「小物が逃げ出すんは防ぎようがあらへん。もともとこの広い森じゃゴブリンを全滅させることなんてできへんしな。逃がしちゃあかんのはリーダー格のホブゴブリンとメス達や。幸いメスも一か所に集められとるから一網打尽にできるで」
「ふむ、となると先行して群れに切り込む部隊が必要……か。ラファーガ、こっちに混ざってもらっていいか?」
「俺はダメだな。ジンなら貸してやろう」
『ホブゴブリンの相手か? ならば構わないぞ』
「そっちの鎧か。こちらの動きについてこれるか?」
『足には自信がある』
いや、そんなガチョガチョと動き回らなくてもいいと思うぞ。
「……ま、いいか。そんじゃ俺とこっちの兵士三人、それに冒険者のジンで切り込んで、ホブゴブリンを仕留めつつ背後に陣取る感じがいいか」
彼は頭をボリボリとかきながら作戦を口にする。
「左側はラファーガんとこでいいか。右はそっちのチームで、中央右はお前らんとこな。そんで中央左はそっち。お前らはオレ達の後ろから詰めてきてくれ」
てきぱきと兵士の隊長が指示を始めた。
「目的はゴブリンの殲滅からゴブリン集落の破壊に変更だ。だがゴブリンの討伐は可能な限り行うこと。ただし森の奥に逃げ込まれたゴブリンを追って迷子になんてなるなよ? 作戦開始は少々早いが三十分後だ。各リーダーは準備ができ次第教えてくれ」
「「「 了解 」」」
集まっていた各自が武器の点検や、荷物の確認に入る。
「まだずいぶん明るいが、今のうちから動くのか?」
気になったことをラファーガに聞く。
「あ? ああ、そういや言ってなかったな。ゴブリンの何匹かがこっちに流れてきてガキ共が攻撃しちまったらしいんだ。全滅させられりゃよかったが二匹に逃げられたらしくてな」
「連中に気取られたわけか」
「そういうこと。向こうが攻めてくるか逃げ出すかわからんが、とにかく素早い行動が必要になったわけだ」
「ブランフィオちゃんがせっかく静かに片づけたのにね」
「ブランフィオの頑張りが無駄になった、ニャ。無能な連中、ニャ」
「まあまあ」
ローネ先輩がブランフィオの頭を撫でて落ち着かせている。
『では私は向こうに』
「ああ、頼んだぞ」
「フ、お任せあれだ」
「ブランフィオ、もう一仕事頼みたい。連中がこっちの存在に気付いたが、どう動くかがわからん」
「見てこいってことか、ニャ?」
「そうだ。それで動きがあったら報告が欲しい」
「ん、いや。ニャ」
「……グレンと一緒に行ってこい」
「ならいい、ニャ」
ブランフィオはオレの手を取って、引っ張る。
「行ってくる、ニャ」
「おい」
「頼んだぞー」
ラファーガに批難しようとしたが、素知らぬ顔だ。
とはいえあのゴブリンたち、本当にあのゴブリンなのか?
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