携帯式ケトルといいます
「ピカピカやん」
「磨き上げたわねぇ」
「逆に落ち着かねぇな」
『見事な腕前』
「ふむ、苦労をかけたな。ブランフィオ」
「も、勿体ないお言葉です、ニャ!」
玄関を開いたら土間、そしてすぐに部屋だ。一応机と椅子がある。
「そこな鎧、お前が乗ったら床が抜ける、ニャ」
『む、それはまずいな』
土間でおもむろに鎧を外し出すジン。普通に外すのか、ちょっと驚いた。
「残念ながらお部屋はこことあと一つしかなかったです、ニャ」
「ああ、そうか」
「そうなのね」
そう言いながらおもむろにローネ先輩がそちらのドアを開ける。
「何する、ニャ!?」
「え? え?」
「い、いきなりグレン様のお部屋に入ろうだなんてどういうつもり、ニャ!?」
「え? あれ?」
「あんなぁ、こういうんときは普通女子が部屋をつかうに、なんやこれ」
扉を開けた先には大きなベッドが一つ。そのせいで他の物がおけそうにない。
「グレン様のベッドです、ニャ」
「いや、こんなでかいもんどこに……それ魔法の袋かいな。ちゅーかこないときはこっちは女子部屋や、とっとと仕舞い」
「グレン様にこんなところで」
「ブランフィオ、いい加減にしろ……」
オレはオレで頭を抱えてしまう。
「こりゃ、思いのほか大変な拾い物をしちまったかぁ?」
「……はぁ、わたしはいいけどね」
「こりゃ、ぶっとい筋金が入っとるなぁ」
『ふう、ようやく取れたな。何を騒いでいる』
「変態ニャ!?」
「ジン、お前これ以上ややこしくしないでくれよ」
「やはり頭はそのままだったか」
タンクトップ姿の、思いのほか引き締まった体を見せつける短パンのジン。その頭にはしっかりと白いフルフェイスの兜がくっついていた。
「とりあえず、お茶でもいれようかしら」
「ニャ、やる、ニャ、やってもいいか、ニャ?」
「ええ、一緒にやりましょうか」
何をするにもローネ先輩かガリオンに伺いを立ててからやるように。そうオレからの指示を受けたブランフィオが自信なさげにローネ先輩に合わせて土間に移動する。
「ローネ先輩、お手数をお掛けします」
「いいのよ、ブランフィオちゃん可愛いもの。グレン君も気にしないで。井戸の場所を聞いてくるわ」
「お、お水なら用意してあります、ニャ」
そういって床に置いたウィエストポーチを持ち出す。
「いいのかしら。旅っていうほどのものでもないけど、一応水って大事に使わないといけないものなのよね」
「た、たくさんあるから大丈夫です、ニャ」
「そう? じゃあ借りちゃいます。道具もお皿もある程度用意してくれてるみたいだけど」
「その辺もあります、ニャ」
土間の一角、キッチンの台にそれぞれを取り出して並べるブランフィオ。
「あらあら、準備万端ね。お酒もあるのかしら?」
「あ、あります、ニャ」
「ローネはん、そのへんで」
「あらあら、おほほほほ」
ローネ先輩はお酒を飲むとずっと笑ってた印象しかないが、お酒が好きなようだ。
「じゃあお湯を沸かそうかしらね」
「ケトルがあるから大丈夫です、ニャ」
ブランフィオがそう言って、ケトルというという中の見えない水差しのようなものを取り出した。
蓋を開けてそこにペットボトルを二本あけて水を注ぐ。
「紅茶でいいです、ニャ?」
「え? ええ、なんというか……見た事ないものが色々出てくるわね」
「グ、グレン様のために、用意したもの、ニャ」
「そう、カップは人数分あるかしら?」
「一応、準備はしてある、ニャ」
「何これ、すごい綺麗な……それに紙に書いた絵を巻き付けているのね」
「なんやなんや? ほお、こりゃ見事やねぇ。え? 茶葉が入っとる? これ文字かいな、どこの……いや、なんでもあらへん」
興味を持ったガリオンも土間に移動。
「手慣れたもんやな、え? なんやこれ?」
「お湯、沸かしてる、ニャ」
「は? お湯を沸かす? え? こないもんで? うわ、湯気でてきとる」
「外で調理するには、必須、ニャ」
言いながら手慣れた様子で紅茶を用意するブランフィオ。
「できた、ニャ」
「ああ、ありがとう」
「ニャァ」
昨日と比べると少し緩やかだが、尻尾がグネグネしている。
「なんやこれ、マジでお湯を沸かすための魔道具かいな……こないなモンを持っとるなんて」
「しかも見て、これどこにも魔導回路が走ってないのよ? 見えないように内部に刻印されてるんじゃないかしら」
「しかも動作しとる最中に魔力を感じへんかったで。魔力が漏れんようにも設計されとる」
多分それ、ヘンリエッタから持ってきたやつだぞ。
「皆さんもどうぞ、ニャ」
「ああ、助かるよ」
『ありがたい、いただこう』
ラファーガとジンの分も用意してくれたらしい。
「……花柄の美しいカップだな」
『あ、ああ』
「ニャ?」
「なんでも、ない」
『ああ、なんでもないとも』
どうした?
「割りそうで怖がってるわ」
「せやなぁ、こない場所で出てくるモンやないもんなぁ」
ニヤニヤと二人に視線を向けるローネ先輩と、紅茶を注ぐ前のカップを持ち上げてしげしげと見るガリオン。
「ええ品や、円形に歪みがあらへんし色彩も豊か、そんでこの軽さ。触ってみても歪みなんぞ感じられんし、ソーサーもすごい。ソーサーに飾りを入れんのは本当の職人しかやらへん、せやのにこっちにも見事な絵や」
「そうなのね。やっぱりガリオンちゃんから見てもいいものなのね」
ローネ先輩が、そっとカップを台に戻した。
「ウチの寄り親んとこでもこんな見事な品にはお目にかかれんで」
「そ、そうね……あはは、ブランフィオちゃん、わたしは自前のカップでいただこうかしらね」
「ニャ? 構いませんですが、ニャ」
「ブランフィオ、人の世話もいいが、お前も少し休んでおけよ」
そんな中、ラファーガがブランフィオに声をかける。
「馬車での一日の移動も御者も初めてらしいじゃねーか。明日は今日以上に移動する、休める時に休んでおけ」
「ニャ」
こちらをちらりと見るブランフィオ。
「ラファーガの言う通りに」
「ニャフ、でもご飯の用意はさせてもらう、ニャ」
「……ちゃんと全員分用意するのよ? それと、マナーに気を遣わないといけないようなご飯はダメよ? スープとパンでいいくらいだもの」
「分かった、です、ニャ」
「器はこっちで用意したモンのがええかもしれんなぁ」
「それがいいな」
『ああ、是非そうしよう。やはり食器は使い慣れたものが一番だからな!』
そういえばもう夕刻だ。窓から入る光が赤みを帯びてきている。
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