道中の村

「前が止まった、ニャ」

「ああ、ここで今日は終了だな」

「了解や」

「ええ」

『昼からの割には到着が早かったな』


 ゴブリンの討伐、というよりも殲滅の依頼を受けたオレ達は、目的地まで馬車で移動だ。人の往来がそれなりにあるうえ、こちらは馬車で四台、合計で十九人の大所帯。魔物の発見はあれど、すぐに逃げ出してくれたので特にトラブルのない道中であった。

 目的地のラッサー村には明日到着予定、今日は途中にある村で休む予定だそうだ。


「半日も馬車ん中はさすがに肩が凝るわね」

「そらウチらに対する嫌味でっか? ローネはん」

「え? あ!」


 ガリオンの視線はローネ先輩の胸をロックオンだ。


「いや、あはは、そうじゃなくて、ね?」

「ま、そういうことにしといたります」


 男性としては関わりたくない会話だ。


「グレン様、お疲れは残っておりませんか、ニャ?」

「問題ない。ブランフィオこそ御者お疲れ様」

「勿体ないお言葉です、ニャ」


 先ほどまで御者台で手綱を握っていたブランフィオがオレを労う。


「周りの馬車に歩調も併せられてたし、いいた手綱さばきだったな」

「そうです、ニャ?」

「そうなのか」

「ああ。馬ってのは自分のペースで歩きたがる生き物だからな。二頭繋ぎとなるとそれなりに気をつかうもんなんだが。ま、問題なさそうだから明日はローテーションに加えるな」

「わかった、ニャ」


 ブランフィオはオレの副官、側近としての能力も備わっている。御者もその一つだ。

 御者自体は初めてだったが、無難にその役目をこなしていたので安心である。


『すまんな、私の鎧が重いのでな』


 馬車を降りて腕を回していたジンも会話に加わる。


「竜車じゃねえからな。ま、しょうがねえさ」

「というか本当にその姿で森に入るのか、ニャ?」

『無論だ』

「あまり常識的ではない、ニャ」

「そうなのか」

「まあ普通はそう思うよなぁ」


 オレは知らないが、ラファーガが同調している。


『であるな。ただでさえ視界が悪く音が反響しやすい森で視界を狭めて、耳も鎧の中だ』

「それ以前にでかい鎧は暑苦しい、ニャ」

『はっはっはっはっ、そこまでストレートに言われたのは久しぶりだな! だが気にすることはない。防暑防寒仕様だから快適なものだよ』

「見た目の話、ニャ」

「確かにな。何か拘りでもあるのか?」

『む? 話しただろう?』

「あ? まさか……」

『うむ、鎧のない姿など恥ずかしいのだ』

「やっぱり恥ずかしいのか」


 オレには分からない感覚だ。


「恥ずかしい、ニャ?」

『うむ』

「……信じられない、ニャ」


 何故かがっくりするブランフィオ。


「お疲れ様です」

「ああ、そっちも先触れおつかれさん」

「ここは故郷に近いですから。親戚がいる奴もいるくらいですし」

「ああ、そういうこともあるか」


 ラッサー村出身の冒険者だろうか、まだ少年の域をでていない、オレより少し背の高い程度の男の子。ラファーガ相手に緊張しているらしく、ガチガチだ。


「親戚がいるやつらはそっちに泊めてもらえるんですけど、どうにも宿が足りてないらしいです。村長さんが空き家を貸してくれるって話だからそっちでいいですか?」

「やはり宿はもう埋まってるか」

「元々こんなに大人数が来る村じゃないですので。野営用の場所も借りれるらしいですけど」

「空き家の掃除は?」

「村の女性がやってくれたそうです」

「そうか、じゃあそこに泊まらせてもらおうかな」

「助かります。六人となると、どうしても難しいので。では案内します、馬車はこちらでやりますが荷物はなるべくなくしておいてください」

「ああ、分かっている。元々手荷物は少ないからな」


 ラファーガが頷くと、馬車からそれぞれ荷物を出す。

 といってもちゃんと荷物があるのはガリオンとローネ先輩だけだ。ラファーガはすでに背負い袋をつけているし、ジンも袋を一つ持っている。

 オレとブランフィオに至っては手荷物なしである。






「ここが、ニャ……こんなところが、ニャ!?」

「あ、はい。すいません、何せ農村ですので」

「ああ、お前は気にしないでいい。案内ご苦労様」

「は、はい! 失礼します」


 そそくさといなくなる少年。

 そして空き家を前にぷるぷるしているブランフィオ。


「こ、こんなところでグレン様に寝泊りしろと!?」


 あ、再起動した。


「雨風がしのげる分マシやで」

「見張りがいらないなんて最高じゃねえか」

『テントを組み立てる必要がないのも良い』

「あら、薪まで用意してくれてるのね。助かるわぁ」

「ふむ、それなりに恵まれているのか」


 全員がそれぞれ別視点で評価していることを考えると、恵まれていると判断していいだろう。


「か、帰りましょうっ! グレン様っ、ニャ!」

「なんやそれ……」

「ブランフィオ、冒険者として活動するのならばこれくらい我慢しないと」

「ですがですが、ニャ! いくらなんでもこんな掘っ立て小屋にグレン様がお泊りになるのはっ、ニャ! ダダダ、ダメです、ニャ」

「面白いぐらいに動揺してるわね」

『これは、あれか。ガリオンの言った通りであったか』

「うん?」

「な、なんでもあらへん!」


 そうか? ならいいが。


「帰りましょう、ニャ! グレン様であれば問題ないです、ニャ」

「ブランフィオ、彼らと活動を今後もしていくのであれば彼らと寝食を共にすることも」

「必要ないです、ニャ!」

「いやいやいや、必要やで」


 だよな。


「ウチらは今日はじめましてやねん。お互いに何ができるか何ができないか確認したいし、まとまった時間が必要やねん」

「馬車で十分に話した、ニャ」

「コミュニケーションを取ることも必要よ」

「明日の馬車で話す、ニャ! それよりグレン様をこんなところに」

「ブランフィオ、いいから」


 オレは冒険者として街に溶け込まないといけないのだ。他の冒険者達と違う行動を取っていては、冒険者としての評価に繋がらない可能性がある。

 オレの冒険者としての格が上がれば、変わった魔物や魔石、魔道具と出会える可能性が上がる。ダンジョンで吸収させるものの種類が多ければ多いほど、母上のための薬が作れるようになるのだから、ここで別行動というのは良くない。


「……中を清めてくる、ニャ! グレン様はまだ入っちゃダメ、ニャ!」


 ブランフィオはそう言って家の中に突撃していって、何やらどったんばったんしている。時より魔力も感じるのだが、一体何を……。


「これ、俺らも入っちゃまずいんか?」

「どうなんやろな? そこんとこどうなん・ グレン様的には」

「茶化さないでくれ。まあ好きなようにやらせてやってくれないか? 村から出たのも初めてなんだ」

『ふむ、ではそういうことにしといてやるか』

「せめて、座って待ちたかったわ」


 そんな数分後。


「お待たしました、ニャ。」

「「「 なんでメイド服!? (やねん) 」」」


 着替えて準備万端といったっ表情の猫耳娘が、オレ達の前に顔を出したのであった。

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