そういえばダンジョンだった

 なんだか寝不足気味な顔を見せるイミュリアとブランフィオが用意してくれた朝食を姉上と取る。やはり従者が少ないから二人に負担が集中してしまうのはよろしくない。


「ヘンリエッタ、獣魔族を五人作れる余裕はあるか?」

『はい艦長。副長ほど高い能力を望まなければ、作成できます』

「では作ることにするか。イミュリア、希望はあるか?」

「希望ですか?」

「ああ、ラビットタイプとキャットタイプが作れるんだろう?」

『先日の魔石の解析により、ガゼルタイプとドッグタイプも追加されました』


 ああ、姉上がオーガの里から拾ってきた魔石か。


「獣魔族の集落か何か、近くにあるのかもしれないね」

「そうだな。見かけたら……どうする? 襲うのは不味いか?」

「そうだね、襲うのは不味いね」


 うちの姉上は血気盛んなお年頃である。


「どの程度のレベルの相手かわからないけど、できれば傘下に収めたいところだな」

「スクワーチウォーカーの護衛に持ってこいだね。言葉が通じるのが特にいい」

「でも、まだ不味くありませんの? ここはダンジョンとしては機能しておりませんもの」

「「 あ 」」


 そうだ。そうだった。ここはダンジョンだった。


「とは言っても、中に入ったら真っすぐ通路だからなぁ」

「機能性重視の設計ですから、ニャ。隔壁を落とせば区画分けはできますけど、ドローンやスクワーチウォーカー、地竜の出入りを考えると得策ではないです、ニャ」


 現状空いている後方の出入り口、搬入口らしいが、そこは広い空間があり左右に大小さまざまな倉庫が並んでいるだけの状態だ。


『ダンジョンとしましては、左右の部屋にそれぞれ個別の環境フロアの準備等をすれば形にはなります』

「でも直線だろ?」

『そうですね、そこは変えられません』

「階段の扉の開閉はあたし達しかできないなら問題ない、か? いや、破壊してしまえば」

『ダンジョンの扉はダンジョンのギミックの一つです。破壊することは神々のお力を用いなければなりません』

「ほう。壁とかも同じか。それで今まで開けることができなかったんだな?」

『艦長が就任される前は不明ですが、セキュリティの関係で施錠された扉を人の力のみで開閉できない作りになっておりますので、それが原因かと思われます』

「人の力で、開閉できない?」

『はい艦長。施錠されている扉の開閉を行うには電磁ロックを解除しなければならず、特定回路が通電されなければなりません。またその電気信号もそれぞれの扉が個別に必要としておりますので』

「分からんが、とにかく昔は簡単には開かず、壊せはしたと、今はこちらからの許可がなければ開閉できず、破壊も不可であると。そう考えればいいか?」

『はい艦長。ですが破壊は神々の力を用いれば可能であります』

「神々の力か……持っている者は滅多にいないからそこは安心、か?」

「リリーくらいか。それと各属性古龍どもだな」

「亜神系列の聖獣もいますわ」


 とはいえ、神の力なんて滅多なことでは使えない。


『現在は第三階層の後方搬入口とその周辺の倉庫や研究施設、スクワーチウォーカーと地竜の住居エリア以外は閉鎖してあります。第二階層も同様です。第一階層はメインオーダールームから奥の生活エリアのみ解放してあります』

「ダンジョンだからな。そのうち冒険者なんかが攻略をしにくるかもしれない」

「ああ、今はエネルギーを蓄えることしかしてないが、今後はそういった連中の相手も考えていかないといけないな」

『それとダンジョンはダンジョンの攻略を目的とした者達の力と命を取り込む性質がございます。現状はダンジョンに魔物の亡骸を回収しエネルギーに換算しておりますが、本来は地脈と侵入者の両方からエネルギーを回収するのが通例です。それに侵入者を相手するためにエネルギーを使用し、世界に拡散させるのがダンジョンですから』

「ダンジョンとしては健全じゃないってところか」

『はい艦長。本来ダンジョンは地脈から多くエネルギーを抽出し、そのエネルギーを魔力に変換し外に放出させるのが主たる目的になります。現状この地は地脈から離れており、満足に地脈からエネルギーを回収できておりません。エネルギーの抽出も多くは副長に頼っている状態で、これはあまり健全な状態ではないと言えるでしょう』


 地脈の問題は解決できるものではないからな。


「ダンジョンとしては、侵入者も招き入れた方がいいってわけか。とはいえそうなるとオレ達の敵を受け入れるっていうことだからな。簡単に受け入れますとは言いたくないなぁ」


 冒険者の中にはラファーガのような実力者がいるのは分かっている。簡単に出会えた相手だが、オレよりも強い。

 しかもそのラファーガをもってして、化け物と称するプラチナ級冒険者が存在するのだ。


「仮に侵入者が来ても、お姉ちゃんが全部ぶっ飛ばせば問題ないけどな!」

「いや、お姉ちゃんが動いたら侵入者が二度と来なくなるでしょ。強すぎて」

「強すぎか!」

「強すぎですわ」

「強すぎです、ニャ」


 ふうむ、クルーを出すだけでなくダンジョンとしての在り方も考えなければならないか。

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