大絶賛されるヘンリエッタの設備

「しかし服がないな」

「わたくしやイミュリア様の服では、胸とお尻がかなり余ってしまいましたね。考えてませんでした」

「むう、あたしのナイスバディにこんな弊害があったとは」

「もうしわけないです、ニャ」


 明日、オレがクレーソンの街に向かう際に、ブランフィオを同行させることになった。彼女はオレの護衛でもあるから、当然のようについてくる気だったらしい。

 だが問題になるのは、彼女の服装だ。

 今着ているのはヘンリエッタに搭載されていた隊服である。白いブラウスに紺色の短いスカートはブランフィオにとても似合っているが、少なくとも彼女のような服装をしていた人間を、クレーソンで見たことがない。


「仕方ない、オレが買ってくるか」

「か、艦長の手を煩わせるわけにはいかないです、ニャ!」

「そ、そうだぞ! お姉ちゃんにだって服をプレゼントしてくれたことなんかないじゃないか!」

「母上の服以上のものなんか用意できないから仕方ないんじゃないか?」

「陛下の糸は別格ですから……」


 ブランフィオが作ってくれた昼食を楽しみ、食後の時間。

 オレの部屋で姉上とくつろいでいると、自然とブランフィオの服装についての話になった。


『ご提案をしてもよろしいでしょうか?』

「ヘンリエッタ、何かいい案があるのか?」

『はい艦長。当調査船が現地調査を行う際に、現地の人間や同種の生命の中に溶け込むべく、専用の布を使い服装や着ぐるみなどの作成を行えるよう設備が整っております』

「そのような設備があるのか」

「待て、つまり服が作り放題ということか!?」

「素晴らしい設備ですわ!」

「ブ、ブランフィオにこれ以上ダンジョンの貴重なエネルギーを使っていただくわけには、その、もったいないです、ニャ」


 ブランフィオはその施設のことを把握していたようだ。


「いや、これは必要なことだ。こういうことにエネルギーを注ぐのは当然だろう」

「それよりも服だ! ドレスも作れるのか!?」

『はい副長。それぞれのお体に合わせたオーダー品を、様々な色合い、様々な生地で作成することが可能となっております』


 大きな窓が切り替わり、ドレス姿の姉上が投影される。


『例えば副長が隊服を着られた場合、このような形に』


 姉上のドレス姿が切り替わり、イミュリアやブランフィオと同じようにブラウス姿に。姉上の美しさは服装が簡素なものになっても変わらないと再認識させられるな。


「ほう、ああそうだ。例えばこの本に載っていたこの服なんかはどうだ?」

「副長、本をお借りいたします」


 ブランフィオは姉上から本を借りて別のテーブルに移動した。モニタリングドローンとヘンリエッタの言う、例の丸い魔道具を掴んでそこから光を放った後に、指でなぞるような動作をしている。


『副官、ご苦労様です』

「ブランフィオのためですので。副長のラインに合わせて修正を、ニャ」

『はい、このような形でいかがですか?』

「髪の修正を、帽子のサイズはもう少し小さく、副長のお顔が分かるようにツバをもう少し小さく、ニャ。ポーズも別に、副長のお写真のフォルダから、コレです、ニャ」


 何かしらブランフィオとヘンリエッタが言葉を交わすと、ブランフィオが手を振った。

 そうすると先ほどの隊服を着ていた姉上の姿が、今度は長いスカートの広がった白いワンピース姿になった。

 短いスカートの姉上より、こちらの方が見慣れているな。


「はぁ、セリアーネ様は何を着られてもお美しい」

「ふむ、白は普段着ていないがこう見てみるといいものではあるな」

「魔王城で白は忌避されるもんね」


 白という色事態を嫌う魔物がいるから、誰も白い服を着たがらないのだ。母上もそれを御存じなので、我々の服を作る時にも、糸の色を濃い目の色にする。


「ヘンリエッタ、サンプル布の用意を、ニャ。そうですね、とりあえずコットン、リネン、カシミヤとキャメル、ウールと化学繊維を用意してください、ニャ」

『ご準備します』


 するとすぐにバケツ頭が四角い箱をいくつも持って入室してくる。今更だが、あの箱も木じゃないな。なんなんだろうか。


「副長、いくつか肌触りを確認してお好みのものをお選びください、ニャ」

「ふむ、母上の糸以外の素材か。こうして布から選ぶのは新鮮だな」


 姉上は、というかオレもそうだが、母上の作ってくれた服しか基本持っていない。母上はオレ達の服を作るのが好きだ。

 母上のセンスは信頼できるし、肌触りも良く、シンプルに防御力が高い。対打対刃性も高く各種属性への耐性も最高峰だ。


「さすがにお外で着させるわけには参りませんが、安全が確保されているこちらでしたらお試しになってもよろしいかと思います」

「そうか? そうだな! イミュリア、お前も何か作ったらどうだ?」

「わたくしもでございますか?」

「ファッション雑誌をお持ちします、ニャ」


 女性陣が盛り上がり、この服がこうだとかあの服はああだと盛り上がり始めてしまった。オレの部屋でやらないで欲しいが、まあ広いし……ダメだな。色々気になってしまう。カメラも用意し始めたし。


「執務室で今まで回収された魔物の確認をしてくるよ、みんなは……ブランフィオの服を忘れないでくれよ」

「わ、分かっているとも!」

「はっ!? そ、そうですわね、もちろんそれがメインですわ」

「か、艦長っお供する、ニャ」

「いいよ、ここでは護衛の必要もないしな。お前も好きな服を用意しなさい」


 セリアーネ姉上やリリーベル姉上が母上に服を作って貰いにいくと、一日姿を見せないなんて当たり前だったんだ。相当時間がかかるぞ。

 そう考えると、服を着たがらないウェローナは貴重だったか? いやいや、全裸はダメだろう。バランスが悪いなうちの姉妹は。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る