チチ、ニャ

 その後はオレとイミュリアも狩りに参加をし、大量の魔物を討伐した。姉上が三百種類以上回収した地だ、それこそ魔物も多種多様に渡る。

 何より魔石を体内に持たないオレを狙って魔物がわんさか押し寄せてくるのだ。なんとも楽な狩場である。


「とはいえ、姉上のが一枚も二枚もどころか……はっきり格上だな」

「仕方ありませんわ」

「副長は、とても恐ろしく強くて美しい人、ニャ」


 オレ達三人が懸命に戦っている間は、姉上は別の狩場で戦っていたのだが、魔法の袋がいっぱいになると、オレのところに来てオレの収納に移すように大量の魔物の亡骸を置いて行った。

 そして空になった魔法の袋を持ってまたいずこかへと飛び立ち、再び戻って来ては大量の魔物の亡骸を置いて行くといった作業の繰り返しである。

 一回の量が、オレ達の成果の倍以上なのだから悔しい。


「あたしを真似ようとするんじゃないぞ? ここ以外の狩場は少々危険だからあまり離れない方がいい」


 それはオレ達には危険なのか、姉上目線で危険なのか。ううん、きっと前者だろう。だって毎回戻ってきても、姉上のドレスは汚れをほとんど付けていないのだから。


「いちいちスクワーチウォーカー達の足の届く範囲まで戻らなくていいのは楽だな! あとオーガの里があったから壊滅させたぞ。大量だ! イミュリアの魔法の袋も貸しとくれ」

「は、はい! かしこまりました!」


 恐ろしい話である。


「連中、食えないから魔物の骨やら魔石を積み上げてたぞ。変わった魔物やみたことのない魔物が手に入るかもしれんな!」

「オレが持って行った魔石の解析もまだだっていうのに、ヘンリエッタは大忙しだね」

「だな! こんだけ持って帰ってきたんだ。それ相応のエネルギー量になるといいな!」

「ブランフィオほどエネルギーを投入しなければ、何人かのクルーは準備できそうですね」

「ええ、何より料理人が手に入るのが素晴らしいですね。ヘンリエッタから教わりながらだと、中々手の込んだものが作れませんもの」

「今日はブランフィオにお任せください、ニャ。料理の知識も備わっています、ニャ」

「おお、それは楽しみだ」

「ああ、イミュリアも手を出していない食材や調味料もあるのだろう?」

「お任せを、ニャ」

「ぐぬぬぬぬぬ、この猫がっ」

「淫魔先輩も手伝うか、ニャ?」

「きしゃーっ! いや、無理ですわね。わたくしはセリアーネ様とジャールマグレン様湯あみのお手伝いをしなければなりません」

「ニャ!? 艦長のお世話はブランフィオの仕事、ニャ。副長はお任せするので艦長は任せる、ニャ」

「あら、お二人の食事はどうする気ですの? お昼をお待たせする訳には行きませんわ」

「ニャフンッ、備え付けのものでっ! だめ、ニャ。初めてのお食事、しっかりしたものを出さないといけない、ニャ」


 この二人はなんで言い争いを始めてるんだ?


「ほら、話してないでとっとと帰るぞ。あたしらは飛んで帰るが二人はどうする?」

「ああ、魔力には余裕があるから転移するよ」

「かしこまりました、では後ほど」

「ニャフン、ニャ」

「ブランフィオ、イミュリアと遊んでないでオレに掴まりなさい」

「つかまっ!?」

「うん? どうした? 転移魔法で帰るんだ。オレに触れてくれ」

「こ、こうですか、ニャ?」

「……いや、そんな裾を掴むようじゃ危ない。まったく、手を貸しなさい」

「~~~~っ!!」


 うだうだしているブランフィオの手を握り、オレは転移魔法を起動させる。

 魔物の死体を回収させるので、朝に案内された例の解析室とやらに移動である。







「っと、さすがに二人で飛ぶとふらつくな」

「か、艦長っ、大丈夫ですか、ニャ?」


 顔を赤くしつつも、握った手ではない手でオレの体を抱き留めたブランフィオが声をかけてくれる。


「ああ。転移魔法は魔力消費が激しいんだ」

「そんな貴重な魔法を、ブランフィオなんかのために」

「お前一人を置いて行くわけにもいかないだろう?」

「ニャ、艦長、ニャァ」


 尻尾をぐにゃぐにゃを動かしながら、顔を下に向けるブランフィオ。


「ヘンリエッタ、いるか?」

『はい艦長、おかえりなさいませ』

「ああ」

「ヘンリエッタ、艦長は大量の魔物の亡骸を回収されました、ニャ。どこで回収をしているのです、ニャ?」

『解析室はあくまでも解析させる場所ですので、横の倉庫に魔物の死骸をだしてください。そちらから仕分けしなながら運搬いたします』

「ああ、分かった」

「出入り口はこちらです、ニャ」


 ブランフィオがオレの手を引いて移動を始める。


「ブランフィオ、手はいいから」

「い、いけません、ニャ。お体を御自愛ください、ニャ。こうしてくっついていれば何か起きても対応できますニャふらつかれたら支えますニャ倒れられたらブランフィオがクッションになりますニャどうかこの手はこのままに決して離してはならないニャこれはブランフィオのお勤めですニャ生まれた意味ですニャこの手を離してはブランフィオが艦長のためにできることが」

「分かった分かった、このままでいいから」

「ご理解いただき幸いです、ニャ、はうぅぅぅぅ、ニャ」


 こちらに嬉しそうな顔を見せたかと思いきや、すぐに顔を伏せて前を歩きだすブランフィオ。でも握られた手は力強い。

 バケツ頭のゴーレムやスクワーチウォーカー達が出入りする横の小さなドアをくぐり、横に併設してある倉庫に顔を出す。

 正直この倉庫、同じような施設がいっぱいあるため現在地が良く分からない。


「チチ、これはマスター様、守護者様の弟君、いらっしゃいませチチ」

「ああ、ここ、でいいのか?」

「は、はい。こちらのスペースに魔物を広げてください、ニャ」

「分かった、収納を開くから手を」

「ぅ、分かりました、ニャ」

「一度に大量に魔力をつかうとどうしてもああなるんだ。何かの病気という訳じゃないから安心しろ」

「かしこまりました、ニャ」


 ブランフィオから手を離し、目の前の空いてるスペースに魔物を大量にドサドサと並べる。

 積み上がってしまうが、問題はないそうなので気にせずに吐き出した。


「ふう、なんかスッキリした気分だな」

「だ、大丈夫でございますか。ニャ?」

「ああ、転移と違って収納から出しただけだから大して魔力も消費していない」


 山のように積み上がった魔物の死骸を前に、ブランフィオがオレを心配してくれる。


「チチ、これまた見事な量チチ。それに不思議チチ、何もないところから魔物がいっぱい出てきたチチ」

「魔法だよ」

「素晴らしいチチ、流石マスターチチ」

「ええ、本当に、ニャ。誰にも真似できない唯一無二の才能が艦長にはおありなのです、ニャ。ねずみ、見どころがある、ニャ」

「チチ、マスターも守護者様も素晴らしいチチ」

「そうです、艦長も副長も素晴らしいのです、ニャ」


 一人と一匹が意気投合している。


「ん? そういえばスクワーチウォーカー達のことを知ってるんだな?」

「はい艦長、艦長に仕えるべく作られたブランフィオには、艦内の現状も含めた知識が備わっております、ニャ」

「そうか。スクワーチウォーカー達よ、彼女はブランフィオ、オレの副官だ。彼女の指示にも従うように」

「了解チチ!」

「「「 チチチ! 」」」


 作業中のスクワーチウォーカー達だが、いったん手を止めて立ち上がってこちらに向かって返事をしてくれた。


「お前達の働きぶりには感謝している。代表、何か不足しているものはあるか?」

「チチ、もったいないお言葉チチ、不足……ではないチチが、その」

「構わない、言ってみなさい。ああ、護衛の件は聞いている」

「護衛チチ? 以前よりも襲われる件数は明らかに減ってるチチ、これ以上は求めていないチチ。むしろ地竜達とそれを指示してくれているマスターと守護者様に感謝チチ」

「む、そうなのか?」

「チチチ」


 どうやら以前よりも他の魔物に襲われる件数は減っているらしい。それだけでも感謝さるのか。でもそうか、こいつら元々野生の魔物だもんな。


「じゃあなんだ?」

「その、以前は巣穴の中に、その」

「艦長からの問いです、ニャ。ハッキリ答える、ニャ」

「は、はいチチ! 以前の巣穴には温かい水が湧き出てたチチ! これに入ると毛の隙間の虫が出ていくチチ! でも今の住処にはそういうのがないチチ! みんなで頑張って穴を掘っても出てこないチチ!」


 温かい水? 湯でも湧き出て……ああ、温泉とかいう奴か。


「分かった。ヘンリエッタ」

『はい艦長』

「現在のエネルギー量で彼らの希望する温泉の作成は可能か?」

『はい艦長、あれからも解析と吸収を行っておりますのでエネルギーも少量ですが回復しております。彼らの希望する施設を作成することは問題ございません』

「そうか、詳しく話を聞いて作成してやるといい。地竜達も湯に入るのであれば準備してやるといい」

『かしこまりました。双方より聞き取りをし、適した場所に作成いたします』

「……ああ、地竜達と話すには姉上のお力が必要か」

『地竜達もダンジョンの魔物として登録が済みましたので、副長のお力をお借りせずとも意思の疎通は可能となっております』

「そうか、じゃあ地竜達にも必要であれば準備してやれ。こいつらが地竜に潰されないよう別々にな」

「チチ、感謝チチ!」

「「「 チチチ!! 」」」

「「「 グガーゴ! 」」」


 地竜達も聞いていて、理解していたのか? 嬉しそうな返事をしている。


「さすがは艦長、ニャ。素晴らしい心遣いです、ニャ」

「こいつらは頑張ってくれてるからな。ブランフィオ、お前もしっかり働いてくれればご褒美をやる。期待してくれ」

「はい! しっかり励みますっ、ニャ!」


 うん、可愛らしい副官だ。

 思わず手が伸びて頭を撫でた。

 ビクッとなったブランフィオ、思わず手を離そうとすると物凄い速度で手を抑えられて頭に乗っけられる。

 顔をうつむかせるが、尻尾がぐにゃぐにゃぐねぐね動いている。

 どうやら頭を撫でるのはいいらしい。

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