イミュリアとブランフィオ
『吸収が完了いたしました』
「ああ。そうだな、そうだが」
『はい艦長。ブランフィオの生成と魔法の袋、それと大型のナイフ一本。艦内の余剰エネルギーの約九十%を使用いたしました』
そうなのである。オレの護衛役ということもあるブランフィオは、艦内の余剰エネルギーの大半を消費してしまったのだ。とはいえヘンリエッタの最大エネルギーからみればほんの三%程度のらしいが。
「お昼前の運動と洒落込むことになりそうだ」
そう腕を振ってやる気なのは、いかにもパーティに出そうな黒くも輝くドレスを身に纏った姉上だ。
イミュリアは隊服ではなくメイド服。翼を広げた時用の穴があるから外で活動をするときはそちらを着ているそうだ。
「今日はわたくしもお供しますわ。ブランフィオの実力も見たいですしね」
「が、頑張ります、ニャ」
「ああ。よろしく頼むな」
枯渇したエネルギーを回収するには、魔物の回収が一番である。姉上は見つけたいくつかある狩場の一つ、山間にある少し広い湖まで地竜に乗って足を運んだ。
姉上とイミュリアはそれぞれドラゴンと悪魔の翼を広げて空を飛んでいたので、オレとブランフィオしか地竜を使っていないが。
地竜の上では落ち着かないようで、ただただ静かにオレの服をずっと掴んで離さなかったブランフィオだが、地面の立ち魔物を確認すると顔つきが変わった。
「じゃああたしはちょっと離れたところで狩りを楽しんでくる。お前達は無茶をしないようにな」
「はい、お姉ちゃんもご無事で」
「いってらっしゃいませ」
「いってらっしゃいませ、ニャ」
オレ達の言葉に頷くと、翼をはためかせて一気に視界から消えていった。相変わらずとんでもない飛行能力である。
「さて、我々も参りましょうか」
「ああ」
「お供します、ニャ」
スリムな体型ながらも、片手にショック銃と呼ばれる電撃を放つ武器と、もう片手には大型のナイフを持った子供のようなブランフィオだが、なかなかに様になっている。
ヘンリエッタがエネルギーに糸目はつけなかったというが、その実力はどうだろうか。
「右、スチールウルフですわ」
「はい、対応します、ニャ」
「ええ。ジャールマグレン様の護衛は、今回はわたくしにお任せを。貴女はわたくしを安心させられるだけの実力をお見せなさい」
「かしこまりました、ニャッ!」
短い髪を風に揺らしながら、ブランフィオが真っすぐスチールウルフへと歩み寄る。
その姿に不気味さを感じたのか、スチールウルフはブランフィオに向かって低い唸り声を……いや、右かっ!
「気づいていました、にゃ」
目立つ位置にいたスチールウフルは囮だったようだ。近くの茂みのなかに背を低くして仲間のスチールウルフは控えていたようだ。
二匹のスチールウルフが右から、そして正面にいたスチールウルフもブランフィオへと向かってくる。
「遅い、にゃ」
三匹から降り注ぐ爪や牙の攻撃、ブランフィオはそれらを的確に、軽くステップを踏むように回避した。
それと同時にプシュ、プシュ、プシュと聞こえる何かの射出音。
「「「 ぎゃうんっ! 」」」
三匹から呻きごえが聞こえると共に、のけ反り伏せてしまった。
「ショック銃か」
「そのようですわね。あの程度の魔物が相手ならば効くようですわ」
ショック銃は、電撃によるダメージを相手に与える魔法と同じ効果を持っているという話だ。それを受けたスチールウルフ達は、その電撃によって体の自由を奪われたようだ。
懸命に立とうとするも、体がもつれてしまってうまくいかないらしい。
それでも抵抗しようと、唸り声をあげている。
「艦長の前です。お静かになさい、ニャ」
ブランフィオはそういうと、手に持った大型のナイフを振るった。
そして素早く身をひるがえすと共に吹き上がる噴血。満足に動かなくなったスチールウルフの体はまだピクピクと動いているが、すでに勝負はついている。
「ブランフィオ、見事だ」
「あ、ありがとうござます、ニャ」
以前オレがゲイルを助けたときよりも手際が良かったんじゃないか? そう思えるほど素晴らしい動きだった。
そんな動きをしたこの娘は、顔を赤くして尻尾をぐにゃぐにゃと動かしている。
「ショック銃の運用も見事ですね。的確に毛皮の薄い場所を狙いましたね?」
「ご慧眼、ニャ。イミュリアの仰る通り、ニャ」
「イミュリア? 呼び捨てですか?」
「ブランフィオは艦長の副官です、ニャ」
「それで?」
「ブランフィオの上司は艦長です、ニャ。明確な立場で言うなれば、艦長、副長以外に敬意を示す必要はない、ニャ」
な、なんだろう。二人の間に何かしら火花が見える。
「わたくし、セリアーネ様の、ジャールマグレン様の最側近なんですのよ?」
「ブランフィオは艦長の、ジャールマグレン様のためだけに生まれ存在している、ニャ」
「ぐぬぬぬ」
「ニャニャン」
「わたくしはっ! ジャールマグレン様が生まれたころから知っておりますわ! 食べ物のお好みや女性の服装のお好みも!」
「ニャッ!? そ、それは、ニャァ」
「ふふん」
「ニャフン……」
「ブ、ブランフィオはこれからずっと、ずっと、ずーっと! 艦長の盾となり死ぬ時まで一緒、ニャ!」
「はうっ!」
「何の喧嘩だお前ら。仲良くしなさい」
どこか勝ち誇ったブランフィオが何とも言えない。
「はい!」
「すみません、ニャ」
そしてうかがうような顔をしてイミュリアを見るブランフィオ。
「イ、イミュリア……さま」
「何かしら?」
「後で艦長のお好みを教えて欲しい、ニャ。完璧に艦長にお仕えするのに、あなたの知識が必要です、ニャ」
「ええ、構いませんわ。必要なことですもの」
とても華やかな笑顔をするイミュリア。
「ケ、それさえ教えて貰ったらこっちのものだ、ニャ」
ん? ブランフィオが何か小声で言ったぞ?
「何かしら?」
「なんでもない、ニャ。お話、楽しみだ、ニャ」
仲直りできたようで何よりである。
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