副官【ブランフィオ】
「お待たせいたしました」
「お待たせしました、ニャ。艦長の身の回りのお世話、それと護衛を行います、ニャ」
しばらくしてから、イミュリアが先ほど生成した獣魔族の娘を連れて戻ってきた。
「あ、ああ。よろしく」
身長は俺よりも低い。百三十センチほどだろうか。短い、一部が赤色かかった茶色い髪の毛と頭から左右に伸びるような猫耳を持つ、スリムな体型の少女だ。
『彼女を艦長の副官として登録してもよろしいでしょうか?』
「問題ない」
「しまった、メスが出てきてしまいましたわ」
『男性をお求めでしたでしょうか? 申し訳ありません、設定しませんでした』
「そうだな、護衛という任も考えると、ある程度威圧感も必要だった」
「申し訳ございません、ニャ」
「いや、お前が謝る必要はない。こちらのミスだ。ええと」
頭の耳を少し下げて申し訳なさそうな声を出す。
『艦長、副官には名前がございません』
「何か付けてやらないとな」
「そうだな」
オレが言うと姉上も頷く。
「あ、あの」
「なんだ?」
「で、できましたら、艦長から名前を授かりたく、思います、ニャ」
長いシッポをフラフラ揺らして、こちらを伺うように見る副官。
「……かわいいな」
「ですわね」
「あ、ああ」
「グレン!? お、おまえ」
「言いだしたのはお姉ちゃんでしょうっ!?」
オレは同調しただけだっ。いや、実際可愛いと思ったけど!
「こほん、名前か……名前」
大変だ。母上に相談したい。だって母上は千を超える子供達の名付けをしているのだから。
茶色い毛並みの猫、どんな名前がいいか彼女の顔を見る。
「っ!!」
途端に顔を赤くし、顔を伏せて尻尾をぐにゃぐにゃと動かし始めた……顔をじっくりみたいんだが。
「は、恥ずかしいです、ニャ」
「あ、ああ」
「……ヘンリエッタ、大丈夫かこいつは」
『申し訳ございません副長。魔物の生成時に性格までは指定できませんので。ですが現存する余剰エネルギーの大半を。具体的に言いますと、イミュリア様と同種のサキュバスクイーン二体を生成できるほどの量のエネルギーを掛けて生み出しました。性能に関してはご安心ください』
「え? そんなに?」
『はい艦長。エネルギーに糸目をつけるなとご注文でしたので』
「マジか」
つまりここのところ姉上が集めてきてくれたエネルギーの大半をこいつにつぎ込んだということか。
「そう、だな髪の色は茶色いし、ブラウン、少し変形させて。ブランフィオにするか」
「ブランフィオッ!」
「不満があれば別の……」
「ブランフィオがいいです、ニャ! 嬉しいです、ニャ!」
「そ、そうか」
若干食い気味に両手の拳を握りこんで喜ぶブランフィオ。
『ブランフィオの装備についても考えなければなりません』
「というか服だな……この艦内服、似合ってはいるが外に着ていくには奇抜すぎる」
「可愛いのですけどね」
イミュリアが可愛いというと、ブランフィオがふにゃりと表情を柔らかくする。
「はい、艦長からいただいた初めてのものがこの服です、ニャ。大事に着たいです、ニャ」
「え? オレ?」
『艦内備品はすべてダンジョンマスターであらせられる艦長の物ですから』
ヘンリエッタの言葉にブランフィオも全力で首を縦に振っている。
「服もですが武装もそうです。ショック銃は小型ですのでベルトに付けておいても問題ないですが、ライフル型光線銃は明らかに魔道具です。護衛をするはずのブランフィオが狙われる可能性がございますわ」
「ふむ、どのようなものだ?」
『こちらになります』
ヘンリエッタがミーティングルームのモニターに映像を出してくれた。槍や銃とは形が違うので確かに不思議な形といえば不思議な形だ。紐が付いており肩から下げて携帯するようだ。なるほど、一目見て武器のように感じるが、用途が分からない。これは魔道具と考えられる可能性が大いにあるな。
実際に使っている様子も表示される。相手に向けると、光線が真っすぐ飛んでいき標的に穴を開けた。空いた穴の周りが赤く高温を発している様子から、フレアリザードの熱線のような効果があるように感じる。
「それと魔法の袋ですね。新しいのをご用意できれば良いのですが」
「オレの分を渡してもいいが、あれは取り回しが悪いんだよな」
サンゲラ兄上に貰ったものだ。特に加工されていない一抱えサイズの革袋。ブランフィオに持たせるには少々大きい。
姉上もイミュリアもひとつづつ持っている。二人とも女性用の可愛らしいものだ。
『魔法の袋でございますか? もし吸収させていただけるのであれば、外装を変えたものが生成できるようになるかと思いますが』
「え?」
「あ!」
そういえばヘンリエッタがいた!
「……サンゲラ兄上には感謝だな」
「斥候役であることを考えるなら、ウェストポーチタイプのものがいいですね」
「右にショック銃、左にナイフが理想です、ニャ」
「こんなに可愛いんだ。女の子らしいものを付けてやるべきだろう」
姉上がブランフィオの頭を撫でると、ブランフィオは嬉しそうに頬を緩める。
そうだな、可愛いのを用意してあげないとな。
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