副官はねこみみ少女

 オレの部屋で食事を取りながらの相談だったが、ここでは要領を得ない内容なのでミーティングルームに移動だ。

 ダンジョン内での幹部候補にもなる彼らを生み出すとなると、それなりに考えないといけない。

 薄暗くも、光源がしっかりとし、モニターも見やすいし複数だせるミーティングルームに姉上とイミュリアを伴って移動だ。


「いま出せる人型の魔物となると、やはりイミュリアと同じサキュバスか」

「賛成しかねます。普通の食事ではないものが必要ですので」

「あ」


 性欲か。


「ジャールマグレン様のお情けをいただけるのはわたくしだけですわ」

「お情けって……」

「ちょ、直接はダメだからな! 何度も言うが!」

「分かっておりますわ!」


 イミュリアがいずれ爆発したときが怖い。


『残存エネルギーを考えると、イミュリア様と同種のサキュバスクイーンは二人まで、セリアーネ様と同種のデモンズドラゴンに至っては一人も生成できません。デモンズドラゴンは生成した場合、エネルギー充填量が仮に100%に近い状態だったとしても、当艦の大半の施設を閉鎖しなければならなくなるでしょう』

「それは困るな……さすがお姉ちゃん」

「ふふん、あたしは特別なんだ」

「存じておりますわ。セリアーネ様は唯一無二の存在でよろしいかと」


 そうだな。


「ゴブリンは小さく操舵桿に手が届きそうにないですわね。逆にオーガは大きすぎてシートに収まらないでしょうし、オークでしょうか?」

「オークは……ダメだ、イメージが悪い」

「だな。あいつの顔が頭をよぎってしまう。上魔族でも作れれば良いのだが」


 モルボラ兄上に申し訳なくて、オークを使う気にはなれない。

 姉上は清潔感のないオークが好きじゃないしね。

 姉上の言う上魔族というのは人、体内に魔石を有する魔族だ。魔大陸にもほとんどおらず、魔王城でも二人しか働いていない滅多に見ない種族である。確かに人間と変わらないから、ここのシートや機器の扱いには良さそう。


『候補といたしましては、獣魔族でしょうか。本日艦長より提供なされた魔石の中に、ラビットタイプの獣魔族の魔石とキャットタイプの獣魔族の魔石がございました』

「ほう! しっかり人型だな!」

「さすがはジャールマグレン様ですわ!」

「いや、狙った訳ではないのだが」


 獣魔族とは、いわゆる獣人である。その中でも魔石をもった存在のことだ。魔石がある以上魔物であるが、魔人とは区別されており人の社会に溶け込んでいる。

 見た目は獣人だし、獣人から生まれる個体の中に魔石を持ったものがいるとのことだ。大きな違いは獣人なのにも関わらず、ある程度魔法が使える事、それと寿命が長いというところだ。


「しかし、なんでそんなのが冒険者ギルドで保管されてたんだ?」

「ああ、ギルドから買ってきたという話だったな。なんだ、冒険者ってのは獣魔族も駆除するのか」

「だとしたら人間というのは恐ろしい種族ですね。獣魔族には上位悪魔並みの個体もおりますのに」


 確かに。魔大陸の獣魔族の里出身の戦士は軍にも多く所属している。クライブ兄上と同等以上の戦士もいるのだ。とてもじゃないが喧嘩を売る気にはなれない。


『獣魔族でしたら規定人数を補うことが可能です。細かい調整を行うとエネルギーの消費が多くなりますので、調整は知識のみとさせていただきますがよろしいでしょうか?』

「細かい調整?」

『はい、性別や体型、髪色や瞳の色、年齢などです』

「老人がでてこられても困るな。成人に指定とかはできないか?」

『それでしたら可能です』

「では先ほど説明のあった規定人数の生成を」

「調整が可能であれば、ジャールマグレン様の護衛兼使用人も三名は欲しいです。クルーよりも優先度は高いですわ。獣魔族であれば街にも連れていけるのではありませんか?」


 クレーソンの街には獣人があまり多くなかったが、大丈夫だろうか?


「そうだな。あたしはイミュリア一人でも問題はないが、イミュリアの負担を減らしてやりたい。イミュリアの配下も、そうだな。五名程度か?」

「セレナーデ様、ありがとう存じます」

「イミュリアの配下の件は了解したが、オレの護衛はなぁ。連れていけて一人だぞ。普通の冒険者をしてるんだから」


 なにより、既に爺様という仮の人間を立てて街に入ってしまったのだ。今更護衛などを連れて人間の街に戻ったら不審がられてしまう。


「今は毎日のように戻られておりますが、いざ向こうで長期活動をされるときには身の回りのお世話をするものは必須です」

「確かに」

「いやいや、オレは城にいたときでも一人で……」

「ジャールマグレン様、お言葉ではございますが、お一人で生活が成り立つように従者一同が陰で支えていたのです。彼の者達の、見えない献身があればこそ、にございます」

「!」


 そうだったのか!


「それは、気づかなかった」

「差し出口失礼いたしました。ですが事態が事態ですのでご進言を」

「いや、許す。お前達の影ながらの活躍があったんだな。イミュリア、ありがとう」

「従者一同を代表し、ありがたくそのお言葉を頂戴いたしました」


 丁寧にオレに頭を下げるイミュリア。


「ああ、となると……」

「グレンの冒険者稼業についていける存在が必要だな」

『艦長の補佐ですね、副官となります。艦長のスケジュール管理もお願いしたく思います』


 今みたいに帰ってこれるときに帰ってくる、みたいなスタンスに不満でもありそうな物言いだな。


「そうなると、護衛兼世話係か。実力も必要で、料理や家事なんかのスキルも必須だな」

「暗殺の危険もございます。その手の知識も必要かと」

「いや、危険はないだろ」


 誰もオレのこと知らないんだし。


「あります。ジャールマグレン様は魔王様のお子様であり我らの宝、宝を求めぬ賊がどこにおりましょうか」

「グレンの護衛は必要だ。スクワーチウォーカーの護衛なんか後回しだったな」


 反論の余地もないらしい。


『当艦内に保管してある護身用の武器の装備の許可もいただきたく。艦長の身は第一優先で守るべきものです』


 そういえば武器があったんだったな。


「あれですか? 人間相手であれば十分かと思われますが、魔物相手には心もとないですわ」

「イミュリアはもう見たのか?」

「ええ、電気を飛ばして相手を行動不能にする武器と、矢の代わりに光の魔法を打ち出す殺傷性のある武器なんかがございましたわ。それ以上の武器に関しては手には取っておりませんが」

『一般クルーの保持できる武器はそこまでです。それ以上の武装に関しては艦長ならびに副長の許可が必要になります』

「そういうことですの。映像で見ましたけど、まあ爆発系の初級魔法と同程度のものでしたわ」


 なるほど、人間相手では使えるかもしれないが魔物相手には少し弱いか。


『カテゴリ1のショック銃とカテゴリ2のライフル型光線銃であれば艦外への持ち出しに関して問題ございません。生成時に使用する為の知識も植え付けることが可能です』

「お前、その辺は便利だよな。他の知識も植え付けられるのか?」

『はい艦長。ダンジョンコアとして、ダンジョンマスターのお世話をする魔物を生み出すことも可能です。少々エネルギーを取りますが、ダンジョン内の重要地点などに配備する特別な魔物を生成するときと変わりはありません』


 あれか、エリアボスとかダンジョン内の特殊個体の話か?


「そこをケチる必要はないな。ヘンリエッタ、思いっきりやってやれ」

「暗殺や罠などに対する対抗知識、護衛の知識、ジャールマグレン様のお世話をする知識、それと人間社会の常識も詰め込むべきですわ。人間の街に溶け込んでるジャールマグレン様のことを考えると、大人数を送り込むことはできませんので、まずは一人だけご準備し、必要に応じて追加してはいかがかしら?」

『かしこまりました。艦長の許可をいただければ、すぐにでも生成いたします。その他のクルーの生成する余裕はなくなりますが、よろしいでしょうか?』


 姉上とイミュリアの視線がこちらに向く。


「ああ、分かった。そうだな、許可をしよう。他のクルーは後日に回す」

『承認を受けました。こちらに生成をいたします』


 ヘンリエッタが言うと、ミーティングルームの地面の一角が青白く光った。

 その光が収まると、一人の小柄な少女が目を閉じて立っていた。

 全裸で。


「いかんグレン! 紳士は見るんじゃないっ!」

「めぇ!?」


 姉上、目を潰しにかからないでください。


「……おはようございます、皆様」

「こうなりますのね、いけません。ヘンリエッタ、彼女に艦内服を」

『生成いたしますか?』

「在庫があるでしょう! 持ってきなさい!」

『ご準備たします』


 オレの目が危険な目に合っている中、そんな会話が耳に入る。


「まったく、見るんならあたしの胸を見るんだ」

「や、今は何も見えないです」


 姉上の胸に抱かれて世界が真っ暗だから、姉上に目を潰されて世界が真っ赤だから。

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