説明上手のヘンリエッタ

「広い部屋だな」

「それに水槽がたくさんありますわ」


 案内された部屋はとても広い。小さなテーブルや見慣れない機器、それと大小さまざまで、大きい物だと部屋の天井まで届かんばかりのサイズの大きさの水槽が並んでいる。

 それらの水槽には魔物の死骸が放り込まれており、血が流れているせいか中を見通せない水槽もある。


『副長の指示で回収された魔物の解析と吸収をこちらで行っております。単純に吸収するより、こちらの部屋で魔物の生態データをとりつつ吸収を行った方がより詳しく魔物のデータが手に入る事が判明しましたため、副長の持ってこられた魔物はすべてこちらに運びこませております』

「例のバケツ頭だけでなく、スクワーチウォーカーも出入りしてるんだな」

『はい艦長。彼らでも運べるサイズの魔物は彼らに運ばせております』


 大きい魔物、それこそ狼型や鹿型などの獣型の魔物はバケツ頭が。

 虫型や鳥型の小さい魔物はスクワーチウォーカー達が運んできては空いている水槽にどんどん投げ込んでいる。


『あちらの奥、最大サイズのものに関しては、アームを使用しております』

「でかいな」


 金属製の腕だ。そこには三本の指が生えており、地竜クラスの大きさの魔物を持ち上げて水槽に入れている。


「水槽自体も動きますのね」

『はい、アーム自体の可動域が広くないため、受ける側が移動できるようになっております』

「それにしても多いな」

『現在大小含めて三百二十二種類の魔物の回収、解析が作業をしております。重複する魔物もございますので、解析が完了している魔物はダンジョンとして通常吸収をし、それらはエネルギーへと変換しております』

「【生命の秘薬】のデータは取れたか?」

『申し訳ございません。現在そちらを指定生成することはできません』


 まだダメか。


「仕方ないか。それでヘンリエッタ、魔石はどこに置けばいい?」

『はい艦長。床で構いません』

「わかった」


 オレはヘンリエッタに言われるがまま、魔石が大量に詰まった樽をドンドンッと収納から取り出した。


『ありがとうございます、多目的ドローンで回収を行います』

「ああ」


 バケツ頭のゴーレムが四本足でこちらに歩いて来たのでスペースを開ける。

 そこそこの重量がある樽を軽く持ち上げると、部屋内の通路の一角に置く。

 ゴーレムは手を器用に使い、樽の中から魔石を取り出して一番小さな水槽に入れる。すると魔石が入れられた水槽が横に移動し、新しい水槽が移動してきた。

 一番小さな水槽がどんどん横に並ぶと、天井から伸びたヘンリエッタが言うところの【アーム】が掴んでその水槽を別の場所へと運んでいく。

 こうして実際に見ると、非常に効率的な動きをしている。


『艦長、副長にも負けずとも劣らない、素晴らしい成果です』

「ジャールマグレン様が自ら動かれたのですもの、当然の結果ですわ」

「あまり持ち上げないでくれ。さて、これで生命の秘薬が入手できるようになればいいんだが」


 とはいえすぐに結果に繋がるものでもないだろう。少なくとも姉上が三百種もの魔物を回収してきているのにも関わらず、まだ入手することができていないのだから。

 オレが持ってきたものは金貨で約百枚分。魔石の数は百二十個だ。

 一つで金貨三十枚分にもなろうっていう、希少な魔物も混じっているから多少は期待をしたいところではあるが。


「これだけの数の魔石を、良く集められましたわね。流石はジャールマグレン様です」

「何、ただただ金貨を積み上げただけの話だ」


 そう、何か買ってくれとギルドで言われたから購入したものなのだから。


「金貨で? それならばわたくしでもお手伝いできそうですわね」

「いや、それはそうだが必要ないぞ? 姉上の部下であるお前から金を巻き上げるような真似はできないからな」

「まあっ! なんというお優しいお言葉っ! 股の辺りがうずいてしまいますわ」

「……お前、どんどん下品になっていくな」


 こんな阿呆なことを口に出すイミュリアだが、魔王城で働くことができるほど高貴な家の出身だ。それなり以上の資金があるはずである。


『イミュリア様、副長が起床されました』

「ええ、報告ご苦労様。すぐに向かいますとお伝えください。ジャールマグレン様のご帰還をお伝えして」

『かしこまりました』

「ジャールマグレン様、セレナーデ様のご支度のお手伝いをしてまいりますのでこれにて失礼いたしますわ」

「姉上を頼む。オレはここをもう少し見て回ったらそちらに合流しよう」

「かしこまりました。朝食はお済になられておりますか?」

「あー、そうだな。街で食ってきた」

「であれば簡単な飲み物とお菓子をご用意いたしますので、セレナーデ様とお席についていただけますでしょうか?」

「そうだな。姉上の成果もこの目で見れたしな。来た時に言っていた相談というものも姉上と聞くことにしとう」

「ありがとうございます。ご準備できましたら、ヘンリエッタから伝えさせますわ。それでは失礼いたします」


 イミュリアが綺麗な所作でこちらに挨拶をし、部屋を出ていく。


「さて、いくつか魔物を見せてもらおうかな」

『はい艦長、ご案内いたします』


 ヘンリエッタの案内で、何体かの魔物を見せてもらう。

 ガリオンの説明にでてきていた魔物も多く見受けられたが、ヘンリエッタの場合は例のモニター技術で魔物の姿も投影してくれる。

 ガリオンよりも分かりやすいな。

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