ジャーマルグレンの歓迎会
「んじゃ、ちいとばっかり遅い時間になっちまったが! 新しい仲間に乾杯だ!」
「「「 乾杯っ! 」」」
テーブルの上にはいくつもの料理が並び、ワインやらエールが広がっている。
いくつかの料理にガリオンが目を細めながら温めの魔法をかけていた。
「うー、大量の魔石を見た後やからか目がシパシパするわ」
「すまんな、余計な手を煩わせた」
「かまへんよー、ああいうんも好きや。しっかしあれやな、魔石を見てもどの魔物かわからへんから一個一個魔力流さんと同じものか判別できへんのがきっついなぁ」
「多少同じ種類の魔物が混ざってても問題ないのだがな。それにしても助かった」
「ええんよー、ウチとしても鳴き袋の割引分の仕事やと思ってたさかいに」
「あ、忘れてた」
「ええ!? ショックやぁ!」
がっくりきつつ、ワインに手を伸ばすガリオン。
『どうだ、食べているか』
「ああ、すまないな。給仕みたいなことをさせてしまって」
『何、いつものことさ』
「そうよー、あははははは!」
ワインを飲んで爆笑しているのはローネ先輩。思わずラファーガに視線を向けると、彼は仕方なしだと首を振った。
「料理はローネの作だ。ありがたく食え」
「そうよー! そうなのよー! あはははははは! おいしい? おいしいっていえー!」
「はい、この串焼きおいしいです先輩」
「でしょー!? このお肉はねー! なんだっけ? 味付けはー? うまー! うまいわー! あはははは!」
「こいつはウチが焼いた地竜のしっぽの付け根んとこに肉やねん。特に美味い場所やさかい真っ先に確保しとったんよ」
「ああ、解体の時のか」
食べれる部位のいくつかを用意してくれていたな。いくつか催促されたからそのままガリオンに渡したが、さっそく調理して出してくれたのか。
「もちろん取ってきたあんたに食わすためにもらってきたんやで! しっぽやさかい打撃や熱に強いからステーキにするよか串で焼いたほうが火が通るねん。味付けは塩コショウやで」
「そ、そうか」
というか褒めた料理がローネ先輩の作ではなかったようだが、いいのか? よさそうだな。笑ってるし。
「こっちのステーキは地竜のフィレステーキやで! ここはやわいからステーキにできる数少ない希少部位や!」
「「「 おおー! 」」」
肉は焼きたてで湯気が立ち昇っている。鼻に肉の焼けた匂いが直撃し、なんとも食欲をそそる仕様だ。
「ものがものやからな! ウチ特性のソースで食うんやで!」
「これは、石を皿にしているのか」
「せやで! 熱した石の皿は熱を逃がしにくいからな! でもはよ食わんと肉の底が焦げるさかい注意が必要やな」
「「「 いただきますっ! 」」」
ナイフで肉に切り込みをいれると、そこから肉汁が溢れ出る。その肉汁がソースと絡み、ソースを肉全体に広げる様も美しい。
一口食べると、口の中一杯に肉の味が広がった。
美味いっ! 肉の濃い味とステーキとは思えない柔らかい歯ごたえ、そして肉汁が口の中に広がり、噛めば噛むほど口の中でその味が広がっていく。
素晴らしいものだ! ヘンリエッタで使ったソースを使いたくなるぞ!
他の面々も一心不乱に……そうでもないか、一人だけカコンカコンと忙しくしてる奴がいる。
城でセイントオーラバイソンのステーキが出ることがあったが、あれにも負けずとも劣らない一品だな! 地竜がこれほど美味いとはっ!
「これは……あれの出番だな」
オレは収納を開き、ワインを一つ取り出す。
ヘンリエッタに聞いたお勧めの酒の一つだ。
『む、それはなんだ?』
さすがにジンは目ざとい。食事中に周辺を警戒している全身鎧がオレの動向に気付いたようだ。
「肉に合うワインだ」
「ほう? それは聞きづてならんな……なんだこの瓶は? 随分と綺麗な装飾が……それに紙が貼ってあるな」
「ああ、産地や材料が載っているらしい。オレには読めないがな」
無言でグラスをこちらに伸ばすローネ先輩に苦笑いで注ぎながら、オレはワインをラファーガに見せる。
「興味があるな、俺にもくれ」
『私も所望する』
「ウチにもくれー!」
オレは全員にワインを注ぎ、再び肉に視線を向ける。そして一口肉を食い、またワインを飲む。ヘンリエッタで初めて飲んだ時ほどの衝撃はないが、やはり美味い。
どこの酒造で作られたものか知らないが、あそこの酒を用意した者はなかなかセンスがいいし、ヘンリエッタも知識が豊富だ。酒を飲んだことのないダンジョンコアなのだが、内部に置いてある物の知識はかなりのものである。
「ふう、すぐになくなってしまったな」
肉もワインも。
オレは改めてワインを注ごうと手を伸ばすと……。
「あはははは! あははははははは! やーだー!」
「まてローネ! 独り占めはおかしいっ」
『ローネ殿! せめてもう一杯っ』
「いくら先輩かてゆるさへんで!」
争奪戦が始まっていた。
「落ち着きのない連中だな……」
ボトルをローネ先輩が離さなかったので、オレのワインが注がれたローネ先輩のグラスとオレのグラスを交換。
串焼きにも合うワインだ。
「見たことのない文字だな。ボトルの口も見事な加工、かなりいいものではないのか?」
「価値は分からないが、美味いワインというのは分かるな」
「あんたこんなんどこから持ってきたん?」
「家にあったものだ」
ヘンリエッタにはダンジョンに持ち込まれた物品すべての知識があるらしいが、あくまでも与えられた知識。それがどういうものかは把握しているが、値段や価値などまでは知らないことがある。
艦長の私室と呼ぶオレの部屋に置かれている酒や食べ物もヘンリエッタは把握しているが、値段までは分からないものが混じっているらしい。
これはそれなりに多く持ち込まれているワインだから、そこまで価値のないものなのではないのだろうか? との見識だ。
もっと複雑な文様が施されたビンや、豪華で色鮮やかな押印がされているビンの酒で、更に数が少ない物もあって、それらは価値が高いものだと思っている。
ヘンリエッタの力で再生成できるらしいが、ダンジョンのエネルギーを無駄遣いするつもりはないので、その辺は姉上やヘンリエッタと相談して再度生み出すつもりだ。
献上品も選ばねばならんしな。
母上に献上する品も厳選しなければならない。
「けん? や、聞いてへん。聞いてへんで」
「あ? ああ、気にしないでくれ」
ガリオンが変な顔をしている。何か独り言が漏れてしまったかもしれないな。
「そうだ。女性受けの良いという酒もあるぞ。これだ」
「んー? えらい少ないやん。こんなん四、五人で飲んだら一瞬やで」
「冷やした牛の乳で薄めるものだ。オレは甘くて苦手なんだがな」
姉上もそこまで気に入らなかったけど、イミュリアのお気に入りだ。
酒の種類が明らかに違うので、新しいグラスに四人分つくる。黒い液体をグラスにいれ、その倍以上の量の牛の乳、これもヘンリエッタから持ってきたものだ。
それを入れて茶色い飲み物を作る。
「え? 新しいの? あはははは! あー! おいしっ! 甘いっ! 何これ!? 砂糖の甘さじゃないっ!?」
「うんまぁ、こない美味いもん何杯でもいけるやん!」
「ああ、薄めてるとはいえそれなりに強い酒らしいから気を付けて……」
「「 おかわり! 」」
「……気を付けて飲めよ」
「確かに美味いが、口ン中が甘くなっちまうな」
『ああ、食事中に飲むタイプじゃないように感じるな』
「出すタイミングを間違えたか?」
「こない美味いもん隠しとるなんて悪いやっちゃなぁ!」
「あはははは! あははははは! あは!」
女性陣は気に入ってくれたようだ。
「しかしスィーダには悪いことをしたな」
『出るなら早い方がいいってもう寝てしまったからな』
「何、あいつが戻ったらまた出してくれればいいさ!」
ウィキッド達が持ってきた依頼は急ぎだった。斥候職のスィーダは明日の朝一の行商人の護衛依頼に潜り込んだらしく、朝が早いのでもう寝てしまっている。
オレとガリオンが遅かったせいだな。
こんな美味い肉を食わせられないのは申し訳なかったな。
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