地竜の清算

 イセリアと呼ばれた受付嬢が他のメンバーと入れ替わり、地竜の清算分だと持ってきた金貨の入った袋。それが三つ。一つに金貨が五百枚入っているらしい。


「すいません、当ギルドの通常業務に差し支えるので、とりあえず半分ほどになるのですが」


 地竜というのはかくも価値があるらしい。


「まあ地竜やし体に傷はほとんどなかったしやな。こんなもんやろ」

「オークションがと言っていたはずじゃ」

「鮮度の問題でオークションにかけられなかった分の金額です。肉は貴族とつながりのある商人ギルドに、目玉や内臓、血液は錬金術師ギルドに販売予定です。こちらが細かい明細ですね」


 これは、なかなかの収入なのでは?


「……一気にお金持ちになったな」

「せやなぁ。せっかくやし装備でも揃えたらどうや? あんさん鎧も付けずに狩りに行ったんやろ?」

「この服は特別だから必要ないんだがな」


 なんといっても魔王である母上の生み出した糸を織り込んだ特別な布で作られている服だ。魔大陸随一の防御力である。


「であれば、これだけの金額ですしギルドにお預けになれれば」

「いや、問題ない持って帰ろう」


 お金が重要だというのは知っている。それにこれだけの金額が手に入るのならば、魔物の魔石なんかが購入できるはずだ。


「た、多少ギルドのために使っていただきたいなーなんて……その、ポーション類や毒消しなんかをどうです?」

「ハイポーションの値が上がるかもしれないって言ってたな。いくつか買うなら別に構わないが」

「そ、それでしたら毒消しや麻痺直しなどの薬類も」

「そっちは体質的にあまり効かないんだ」

「おおう、やっぱそうなんやろか」

「?」


 何がだ?


「い、いや。なんでもあらへん、なんでもあらへんで。きにしないきにしない。冒険者同士余計な詮索はご法度や!」

「そうか?」

「あ、あのう。ジャールマグレン様は冒険者になりたてですし、いくつか必須となるアイテムの購入をお勧めしますので、できれば買っていただきたいなー、なんて?」

「……それは、そうだな。だが何が必要かオレでは判断しきれない。ジンが詳しそうだったが」

「はあ、ウチが教えるさかいいくらかここに落としてってやんな。ギルドかて解体の手数料引いとるんに強欲なこって」

「大変もうしわけなく……」

「どーせマスターの差し金やろ? あんたを責めてもしゃーないわな」

「どういうことだ?」

「シンプルな話やねんけどな、ギルドちゅうんは依頼の手数料や解体の手数料で運営されるんがほとんどなんや。国や領主からちいとは補助金でとるけどな」

「ふむ、まあこういった組織である以上、そういった収入が必要なのは分かるが」

「そんな中で、依頼とか関係なしに地竜の素材をポンポンって出されて買い取りせにゃならんねん。外との交渉の人はそら大忙しになるで」

「そうなのか。なら地竜の依頼を片付けたことにすれば良くないか?」

「あんな危険な魔物の依頼なんか常設してません!」


 む、それはすまなかった。


「ほんで、そういう交渉したりする人ん苦労考えると、手数料だけじゃ割に合わんっちゅう話なんやで。物には適正価格っちゅーもんがあるさかい、安値で叩き売りするわけにもいかんし」

「そうなのか? 売れればいいのではないか?」

「商人ならそれでかまへんけど、冒険者ギルドは信用商売やからなぁ」

「うう、そうなんです……下手にお金に執着するところを外にみられるわけにはいかないんですう」

「オレに見られているけどな」

「はうっ」

「グレンー、イセリアはんいぢめてもしゃーない話やで」

「いじめているつもりはないが……そうだな。それならば」


 オレは一袋、金貨の袋を前に出した。


「ギルドには魔物の素材が集まるのだろう? ならばこれで魔石を買えるだけ買いたい。なるべく多種多様な魔物の魔石がいい」

「え!?」

「はあ、魔石かいな。うらやましい買い物やなぁ」

「ああ。オレの収納の維持には魔石が必要なんだ。どの魔物の魔石が効率的か調べているんでな。昔から魔物の魔石を集めて収納の維持でテストをしている」


 という設定だ。


「そういえばジャールマグレン様は空間魔法を……」

「はぁ!? 空間魔法!? 魔法の袋とちゃうんか!?」

「ガリオンの目の前で収納から地竜を出したはずだが」

「地竜に目いっとってて見とらんかった!」


 胸を張るところではないのでは?


「しかし、そか……収納かいな、空間魔法かいな。あんた良くそないのんびり生きて……いや、それだけの立場を……」

「え?」

「いや、なんでもあらへん。イセリアはん、グレンの意見やけどどないなん?」

「すぐに魔石をかき集めてきます!」

「そうか、それとこれは取っておいてくれ」


 袋から金貨を一つ取り出して。


「あかんあかん! 高すぎや! 銀貨でええ!」

「そんなにもらえません! チップにしてはやりすぎです!」

「そ、そうなのか? なら銀貨を……どのくらいだ?」

「一枚でも十分やけどなぁ、まあ内容が内容やさかい口止め料っちゅうこっちゃら許容範囲やんかな。街の飲み屋でやんなや? 渡しても銅貨一枚やで? 銀貨なんか渡したら、受け取った相手が勘違いして宿におめかしして押しかけてくるで」

「む、そうなのか」

「やっちゃああかんで? 変な病気もろてもしらんからな! 絶対やで!」

「お、おう」

「あ、あの、もしご希望でしたら金貨で……」

「あほ言ったらあかんで!」

「ひいっ! わ、わたしじゃないですよ!? その、プロを手配いたしますから!」

「こない子供に何言うてんねん!」

「い、言い出したのはガリオン様じゃないですかっ!」

「ウチは注意をしただけやっ!」

「もっと言い方というものがあるんじゃないでしょうかねっ!」


 な、なんか大事になってしまったな。とはいえこれで大量の魔石を入手できた。

 できるだけ多くの種類をと言ったからか、みっしりと魔石の入った樽が五つも手に入った。ヘンリエッタに持っていって吸収させることにしよう。


「あの、もしあれでしたら、残金のお支払いやオークションの一部なんかも魔石でお支払いしますが」

「ああ、それはいいな。一部はそれでもいいだろう。こうして鑑定してくれる専門家もいるしな」

「うひょー、こら水属性の魔物のやな! ひんやり冷たくて触り心地抜群や! それにこっちは火かいな! 別の樽にうつさにゃあかんわ! この大きさ! 竜か! 竜なんかいな!?」


 楽しそうで何よりである。

 ガリオンを送り届けたころには夜も深い時間となり、歓迎会を用意してくれていたラファーガ達にこってり怒られてしまった。

 戻るのが遅れると、そう伝えておけばよかった。

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