チームミーティング

「さて、冒険者になってもらって早々に悪いが……ジン、グレンはどうだった?」

『戦闘時の視野が広いし、剣筋もよい。緊張感の持ち方も力の抜き方も知っている。魔物相手の戦闘経験はかなり高いだろう』

「ベタ褒めねぇ」

『狼型のリビングウルフの相手も問題なかったな。というより人型のスケルトンより戦いやすい印象だな』

「まあ、実際人型の魔物との戦いの経験は乏しいが」


 あるとすれば練習相手の悪魔や竜人族の兄上くらいだ。彼らもどちらかといえば剣の修練だけであって討伐対象としてではない。


「今回の件で、ローネやガリオンの護衛には?」

『使えるな。こちらとしても手を借りたいくらいだ』


 一度組んでスケルトンやらのアンデッドを相手にしただけなのだが、ジンからの評価は思いのほか高い。


『当然連携訓練は必要だ。後方で支援を中心にするローネ氏はともかく、ガリオンは攻撃魔法の使い手だ。動き回るぞ』


 動き回る? 魔法使いが?


「魔法使いとは組んだことないか?」

「あ、ああ」


 ないことはないが、うちの姉の一人は魔法使いは固定砲台って言ってたからな。


「魔法っちゅーんは矢とは違って山なりに撃ったりとかは難しいねん。的確に敵に攻撃を当てるんには位置取りが大事やねん」

「そうなのか?」


 遠目から一方的に攻撃魔法を叩き込むか、近距離にきた相手には幻覚などの状態異常をお見合いする、それも効かないなら魔法で己の肉体を強化して一方的に攻撃をするのではないのか?


「まあ魔法使いっていうか、魔法って聞くだけだと万能そうに聞こえるかもしれないけれど、そんなに便利なものじゃないわよ?」

「それは、知りませんでした」

「そりゃ物語に出てくるような英雄的な魔法使いだと山より大きな龍を魔法で吹き飛ばしたなんて話があるけど」


 うちの姉上の一人がそれを実践していたな。


「あのね、そもそも山より大きな龍って世界に六頭しかいないのよ?」

「あっ!」


 六属性の古代龍だけか!


「それらの龍が滅んだなんて話聞いたことないでしょ?」

「つまり、そういうことやねん」

「確かに……」


 リリーベル姉上が全力で放った魔法を受けた古代闇龍は、ダメージこそ負ってたけど死んではいなかったな。


「プラチナクラスの魔法使いや王宮の魔法師団にならそういうんおるけど、そんな魔法をほいほい撃てるわけでもなしやし」

「そりゃあ地竜くらいのサイズを飲み込めるくらいの魔法は撃てるけど……」

「味方巻き込む可能性のが高いさかい、ほとんど出番はなしやなあ」

「そのくせ高位の魔法使いって呼ばれるには覚えないといけないのよねぇ」

「せやなぁ、術式は覚えとるんけど使ったことなんて覚えるときにしかないわな」

「なるほど、なんとなく分かった」


 リリーベル姉上みたいな魔法使いはいないんだな。そういえば他の魔法が得意な悪魔もそんな魔法を撃ってるところ見たことないものな。


「ま、とにかくでかい仕事が来そうだ。俺は騎士団側と共闘する羽目になるだろし、スィーダも斥候として別行動になるだろうから、お嬢さん方の護衛をお前とジンに任せることになると思う。しばらく連携訓練と護衛訓練になるような依頼が中心になるな……もちろんお前の仕上がり次第では置いていくぞ」

「まあ、新参者だからな。それも仕方ない。というか連れていかれるのも疑問ではあるのだが」


 時間がまだあるとはいえ、そういった特別な依頼に新米のオレを連れていくことが前提となっているのはどうなのだ?


「ま、お前さんの疑問ももっともだ。だけどジンのお墨つきだからな」

『先に見出したのはラファーガ殿だろう? 私は実際に目にして判定したまでだ』

「我も期待をしておこう」

「ああ、そうだ。初めましてだな」

「うむ、我はエルフのスィーダ。斥候と弓、それと精霊魔法を使う」


 エルフの美青年が手をさしだしたので、オレも手を出して握手をする。


「よろしく」

「うむ。とはいえしばらくは別行動だな。機会があったら共に依頼でも受けよう」

「ああ」


 しっかりと握手をすると、なぜかローネ先輩が目を輝かせた。なんなんだ?


「ほなみんなは解散してーな。うちはイセリアはんを呼んで査定の結果報告とかするさかいに」

『そういえばそうだったな。みんな今日はこいつの奢りだぞ』

「はぁ!? なんでウチがおごらないかんねん!」

『出がけに奢ると言っただろう? 伝言は聞いたぞ。せっかくだ、グレンの歓迎パーティでもやろう』

「あら、いいじゃない。でもご飯用意しちゃってるのね」

「じゃあ酒でも買って帰るか。グレン、お前飲めるか?」

「まあ多少なら」

「勝手に決めんなや! ウチがおごるんはジンとグレンだけやで! ラファーガはんだしてーな!」


 やいのやいのと話が始まってしまった。

 ここまで賑やかな環境というのは初めてかもしれない。


「グレン、お前さん酒とか持ってないか? 山奥に住んでたならそっちで特別なの作ってたりしてなかったか?」

「あ? ああ、そうだな……まあ変わったやつがあるが」

「そりゃ楽しみだ!」

「新人にたかんなや!」

「じゃあお前にたかっていいか?」

「よしグレン、ウチにも分けてーな」

「子供に酒を飲ませるのもな」

「ウチはチビやけど成人済みや! だれがチビやねん!」

「というかグレン君のが子供っぽいわよねぇ」

『私がグレンくらいの時には普通に飲んでいた』

「オレ、お前の中身を知らないからいくつくらいかもわかんないんだが」

『ふは、これは一本取られたな!』

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