ガリオンの分析

「お待たせしたさね」

「ウィキッド、久しぶりだな」


 ウィキッド達と会議室で待ちながらガリオンの解体談義を聞いていると、ギルドマスターがラファーガを伴って登場した。後ろにはジンとローネ先輩、それとエルフの……男。

 留守にしていたというラファーガのもう一人の仲間、スィーダだろう。中性的な顔立ちだ。背はオレより高いが。


「ギルマス、書状を確認してくれたか?」

「しっかりと読んださね。厄介なことになったもんだ」


 ピラピラと紙の束を揺らして、ギルドマスターが困った顔をする。


「改めてお前達から報告が聞きたい。いいかい?」

「もちろんだ。書状に書いてある通りにはなるが……」


 ウィキッドが馬車の中でオレ達に話してくれた内容を、更に細かく説明を始める。

 新種の魔物、それが狼系か犬系の魔物ということ、それと群れが肥大化しつつあるということ。

 最奥と呼ばれる王宮付近が特に危険らしく、まだ浅い位置にはその範囲を広げていないという部分の話もだ。


「ハイポや毒消しは浅瀬か中域だっけかねぇ」

「ああ。普段は三、四人でパーティを組んでいる連中には三つ以上のパーティで合同で依頼に当たるように注意喚起をしているが」

「ふむ、採算が取れなくて単独で潜る連中はどうしても出るだろうな」


 ウィキッドの説明にラファーガがしかめっ面をする。


「俺達が街を離れた段階では奥地を活動拠点にしてた手練れの連中しか被害は今のところ出ていないからな。逆に抑止力になっていたぞ」

「それでも時間の問題だろうな。生活できないって焦る連中が出てくるのが目に見えている。どいつもこいつも平原でスケルトンの相手ができる訳じゃない」

「……ああ、そうだな」


 ウィキッドが暗い顔をする。


「ガリオン、心当たりのある魔物は?」

「大きさと毛皮の色だけじゃ判断できへん。最悪な場合を想定するんならロードフェンリルやし、軽く見積もるんやらウォードッグの亜種やなんかやしな。顔が一つやからケルベロスやオルトロスっちゅーんは除外できるくらいやなぁ。せめて毛皮の一つでも持って帰って来てたら近い種の特定はできるんやけど」

「……そうか」

「すまんなぁ力になれんくて。せやけどその大きさで他の種と群れを組むんやと、フェンリル種はほとんど除外できるで。北方のヴォルフ系も毛色がちゃうから除外や。いっちゃん可能性が高いんのはサーリーナ山脈に住んどるガーザルドファングやけどな」

「聞いたことないねぇ」


 ギルドマスターも知らない種らしい。


「せやろな、人里に顔を出した記録のないやつやもん。クラブラナ山のなんもない洞窟、そこに神殿みたいなんがある噂は聞いたことあるか?」

「ああ。広い空洞にいくつものドアがあるが、どこも開閉できないっていうあれだろ?」


 ……もしかして、ヘンリエッタのことか?


「せや。そこに調査団が入ったんは三十年も前の話なんやけど、そんときに竜種とも思えるほどの巨体を持った狼の魔物が群れで襲い掛かってきた記録があんねん。そいつも傘下に別種の狼やら犬やらの魔物を引き連れてたらしいわ。毛皮の色は黒、顔は一つで口はでかく人間を丸かじりできる大きさらしいで」

「……当時はどう対処したんだ?」


 ウィキッドが前のめり気味にガリオンに訪ねた。


「国主導の大規模調査団やったからな、普通に騎士団と魔法師団が追っ払ったらしいで。動きが早いし傘下の魔物を盾にしとったから倒しきれんかったらしい。でも追っ払ったらもう顔を出さんかったらしいからそれなりに頭のいい魔物やったんじゃないかっちゅー話やな」


 詳しいな。さすが魔物学者を名乗るだけのことはある。


「この近辺でいま聞いた話ン中で該当するんがこいつや。でも場所がイース城跡地やからなぁ。全く知らん魔物の可能性の方が高いと思うで」


 ここに来る前にイース城跡地の話を聞いた。過剰なほどに豊かな自然が様々な魔物を引き付ける場所だという。そのような場所であれば未確認の魔物が発見されても不思議ではない。


「当時の記録を魔法省に問い合わせてみるわ。内容はそっちのギルドにも送ってもらうか?」

「そうしてもらえるなら」

「あくまでも参考程度にせんといかんで? まだ確定情報やないしな」

「その情報の精度を上げる必要があるさね、向こうからスィーダにご指名がかかってる。先行して行ってくれるかい?」

「我を?」


 思いのほか低い声を出したエルフの美青年。まあエルフだからオレよりも圧倒的に年上だろうが。


「ラファーガのチームを貸し出すことも含めて、調査せにゃならんさね。相手の正体を調べる上でもあんたに行ってもらいたい。報酬も破格さね」

「そういうことであれば、ただ相手によっては我も逃げるぞ?」

「当り前さね、あんたが無理って判断ならそれこそラファーガは出せない。もっと上のを出張らせないといかん。あんたらには悪いけどね」

「仕方ないだろう。俺達も無理強いはできない」


 しっかりと下調べを行うらしい。


「どっちかといえばあんたの方がメインらしいさね。調査の手順から手に入れた情報の精度、それに周辺情報や魔物の分布なんかの調査によっての報酬が細かく書かれてるよ。ラファーガチームに関しては約一か月後、騎士団の準備と情報が出そろう予定の時期にこっちに貸し出せるように開けといてくれってことが書かれてるだけさね」

「そうなのか」

「ああ、そういう話だったか」

「すぐに行動するのかと思いきややねぇ。群れの規模が大きくなるん前に手を付けるべきやんに」

「あたしもそう思うさね」

「国の組織が出張ってきてるんなら仕方ないことだろう。そのうち冒険者の手なんぞ借りる必要はないって言いだすかもしれんぞ」

「かもなぁ」

「できれば早急に解決したいもんなんだが」


 ウィキッドが嫌そうに呻き声を出す。


「ともかく話は分かった。一月後、そうだな。向かうことも考えると三週間後は予定を開けておくことにする。ローネもそれでいいか?」

「構わないわ。しばらく長期の依頼は受けられそうにないわね」

「我は先に行こう。こちらにも逐一情報を送るようにする」

「頼むよ」


 ラファーガのチーム全員が意思を確認しあった。

 話はここで終了らしい。ギルドマスターがウィキッドのチームに街の状況や雰囲気の話が聞きたいからと連れていく。

 会議室にはオレ達だけが残った。

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