うっきゃー!

「おかえりさん」

「ただいま。待っていたのか」

「おうさ。ジンから伝言を受けてたさかい。なんや珍しいのと一緒におるな」


 クレーソンの冒険者ギルドに彼らを伴って入ると、ガリオンがどことなくツヤツヤした顔もちでオレを出迎えてくれた。

 ジンが伝言を残しておいてくれたらしく、待ってていたようだ。


「悪い、ガリオン嬢。ちょっと時間がないんだ。付いて来てくれ。ラファーガはギルドにいるか?」

「ラファーガはん? 小一時間くらいここで待っとったけど見てへんなぁ」

「ジンを迎えに寄こして正解だったか。受付の君」

「は、はい!」

「アルケミーライルのギルド長から書状を預かってる。ギルマスに繋いでくれ。急ぎだ」

「わ、分かりました!」


 そのイセリアが慌てた様子で書状を受け取り、すぐさま受付の奥に消えていった。

 オレは解体結果を知りたかったのだが……。無理か。


「何や、厄介ごとかいな」

「だな。ガリオン、お前の知識も借りたいらしい」

「ウチの? 変わった魔物でもでたんかいな」

「そんなところだろ」


 オレから言っていいことか判断ができないので、話をボカすことに。

 とはいえすぐに話は広まりそうだな……よその街のゴールドクラスの彼らはそれなりにギルド内で注目を集めている。


「ほんならウチも待ってなあかんかぁ、査定結果を細かく伝えたかったんやけど」

「後回しになりそうだな」

「せやなぁ、グレンを個室に案内するつもりやったし予約取っといたん。そっちに行こか? 個室埋まっててん、会議室借りとるで。広い場所確保しとんで。ここじゃ目立つやろ」

「それは助かるが、いいのか?」

「かまへんかまへん。部屋番二番や。あんさんらも落ち着かんやろ。なな、ウチら二番で待つさかいに、イセリアはんに伝えといてくれんか?」

「分かりました」


 ガリオンが近くにいたギルドの受付嬢に伝える。


「ラファーガとジンが顔を出してもそっちに誘導してくれるか?」


 オレが追加で話すと、受付嬢が頷いた。


「さて、オレはどうするかな」


 聞いてもしょうがないし。


「どやろな、一応ついてきとってや」

「そうだな。ラファーガのパーティメンバーなら、手を借りる形になるかもしれない。そのうち大々的に公表する形になるだろうから問題ないぞ」

「そういうものか? あとパーティとはちょっと違うが」

「元々お前達のために借りていた個室だろ? 話がサクサク進むのはいいことだ」

「なら、聞くか」

「おう」


 ウィキッドは場所を知っているのか、先に歩き出した。

 オレは彼らの後を追うようにガリオンと並んで歩く。


「解体はどうだった?」

「めっちゃ楽しんだで! 完全体のアレは神秘と魅力の塊やった! なんぼ抜いても溢れる血液っ! 鋭い牙と爪を抜くんにペンチが何本もダメになったで! それに鱗を皮ごと剥がす快感っ! こう、皮が剥がれるときに鱗んとこで、ペリッ、ペリッって言うねん! 癖になるわぁ」

「……すまん、共感できそうにない」

「今度解体教えたるか!? いや、やっぱあかんな。あんさんできるようになってもうたらウチのやる数が減る」

「多少ならできるぞ」


 兄上達と野外訓練をしたときにクライブ兄上に教わったから。


「あない上級な相手、多少じゃあかんねん。専用の工具を用意して、専門の知識がいるねん。そないなモンなくナイフ一本で解体したらそれこそ素材をあかんくしてまうかもわからん。そんなん許容できん」

「そ、そうか」

「いやー、あないに血が残っとるとは思わんかってん」

「すぐに収納したからな」

「ええなぁ、魔法の袋。しかもあない大物を仕舞える大容量なんかそれこそ……いいや! なんでもあらへん! 知らん!」

「な、なんだよ……」

「え、あ、いや。なんでもあらへん。せや、なんでもあらへん。うん」

「?」


 なんだ突然。


「あとそや。鱗や牙、爪なんかの主だった部分はオークション出す方がええっつうことになってな。あんたの許可がもらいたい言うてたで。肉とか臓物とかの保存が効かん部分は商人ギルド通して錬金術師に流す言うとったけど」

「その辺は専門の者に任せた方がいいだろうな。別に今すぐ金が必要という訳でもないし」


 装備は元々持っている物があるから買う必要がないし、宿も結局毎日ヘンリエッタに戻っているので取る必要がない。

 今後冒険者として活動するうえでの、道具を買わなければいけないだろうが、逆を言えばそれくらいしか出費がない。

 食事代が意外と安かったのが特に助かった。味も期待以上のものだ。もっともヘンリエッタでイミュリアが作ってくれるものと比較すると圧倒的に劣るが。


「ほなそっちの方向で手続き取ったるわ。あとな、鳴き袋っちゅう器官があんねん。あれウチが買い取りたいんやけど、値引きって効くん?」

「……元の値段が分からんからなんともだが」

「普通に売るんやったら金貨で六枚っちゅうとこやな。商会とかで買おうとしたら金貨八枚くらいなんやけど、出回りにくい品やから十枚くらいになる時もあるんよ」

「ふむ」


 銀貨で十枚とかの報酬を貰ったあとの話だから、随分と価値が高い話に感じるな。


「ウチの小遣いじゃ五枚までしか出せんねん! 二つあるうちの一つだけでええから! な? な? 割引してーな」

「……まあ解体手伝ってもらったしな。いいんじゃないか?」


 金貨の一枚くらい。


「うきゃー! ええねんな! いやぁ、ウチグレンのこと大好きや!」

「こら、あるきにくいっ! 抱き着くな!」

「むふふ、これで新作の音撃魔法の触媒が手に入るわ。ビビるでぇ、現物できたらすぐに見せるかんな!」

「お前らな、盛り上がってるとこ悪いが通り過ぎてるぞ」

「あ、すまへん」

「悪い、場所を知らなかった」


 ガリオンと話していたら、会議室を通り過ぎてしまっていた。申し訳ない。

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