恥ずかしいらしい

『そうであったか、ガリオンはそうなると動かないから仕方ないな』

「すまない。あのような反応をするとは思ってもいなかった」

『予測できていた事態だ。案内を任せた私の責任でもある。気にしなくていい』


 ガリオンの状況を話すと、ジンは慣れているのかすんなりと了承をした。こいつはこいつで苦労してるんじゃないかな?


『とはいえいきなり予定が空いてももどかしいからな。リンクラッテ平原の常設依頼をこなすつもりだったのだが。構わないか?』

「……内容は?」

『ああ、悪いな。そういえば街に来たばかりだったか。リンクラッテ平原はかつての合戦場だ。数多くのアンデッド系の魔物が今でも跋扈している場所で、常に冒険者に討伐依頼が出ている場所だ』

「アンデッドか。吸血鬼やテラーレイスといった連中だな」

『ふは! そんな上位の魔物は出んよ。スケルトンやゴースト、強いのでも竜牙兵といったところか』

「竜牙兵?」


 聞いたことのない魔物だな。


『竜牙兵というのは、竜の牙や骨を基に作られたアンデッドのことだ。普通のスケルトンと違い、やや黄ばんだ骨と頭に二本の角が特徴的だな。文字通り竜の骨の体だから硬いが、本物の竜を倒さずに竜の骨が手に入るからそれなりの収入になる』

「ほお」

『スケルトンと同じだから魔石は心臓部分か頭の中だ。心臓部分に魔石が見えなければ頭を狙えばいい。ただ頭蓋骨は堅いから注意が必要だな』

「なるほど」

『動きはスケルトンより素早く、アグレッシブだから出会えばすぐに見分けがつくぞ。他に注意が必要なのはスケルトンホーンやリビングウルフだな。スケルトンホーンは単純に体が大きい。遠くからの体当たりに気を付けるべきだな』

「骨の馬が体当たりしてくるのか」

『たまにアンデッドが背に乗ってるが、まあ気にしなくてよい』

「ん?」


 気にしなくていいのか?


『リビングウルフはグールの狼版だ。普通の狼系の魔物より動きが鈍いが、その分タフだ。剣で刺す程度じゃ攻撃をやめないから気を付けるといい』

「ああ、痛覚がない系か」

『そうだ。説明が長くなってしまったが、どうする?』

「ここまで教えて貰えたんだ。せっかくだし二人で行ってみよう。一人でも行く気だったんだろ?」

『まあそうだな。あそこなら私一人でも問題ないし、ラファーガ殿の話ではリンクラッテ平原程度なら問題ないと聞いている』

「そりゃありがたい評価を貰っているようで」


 とはいえ実際にどんな場所かは行ってみないと分からないが。


『ギルドに言えば馬車を出してくれるからそれで行こう。今からなら昼メシ時に到着だから適当に買っていくか』

「ああ、それならメシのおすすめも教えてくれると嬉しい」

『そうだな、串焼きにするか。中々美味いところを知っている』


 ジンが先導して歩いてくれるので、オレはそれについていく。ガリオンがまさか脱落するとはと思ったが、お互いの連携を試すいい機会になるだろう。

 スケルトンやその他の魔物の魔石も持っていないし、丁度いい機会だ。






『到着だ』

「結構時間がかかったな」


 あまり上等ではない馬車に揺られて到着したのは、話にでていたリンクラッテ平原。

 昼前につきはしたが、二時間くらいで到着だ。


「なるほど、霧で遠くが見えないな」

『ああ。だから日中でもアンデッドが湧いている。どこか地下にダンジョンがあるとも言われているが、まあ不明だ』


 アンデッドが無限に湧き出てくる土地というが、確かにその条件はダンジョンと同じだ。

 霧の立ち込める平原の手前側、石造りのそれなりの大きさの倉庫と建物があった。

 馬車はそこに止まり、オレ達は降ろされる。


「こんな平野のど真ん中に建物?」

『冒険者ギルドの管理している倉庫兼事務所だ。ここはちょうど冒険者の狩場であるリンクラッテ平原とワルガナ森林地帯の中間にあるから、獲ってきた魔物の回収と査定ができるようになっている。魔物除けの魔道具も設置してある安全地帯で井戸もあるから泊りがけで活動する連中なんかもよく利用する施設だ』

「なるほど、宿場町の縮小版みたいなものか」

『そう考えてくれて構わない。中には対アンデッド用のアイテムの販売も行っているから興味があれば覗いていくが?』

「興味が無いとは言わないが、何か必須となるアイテムがあるのか?」

『清浄砂というアンデッドの体を浄化させるアイテムがあるほうがいいな。神官が聖属性魔法で清めた砂と塩を混ぜたものだ。討伐したアンデッドに振りかけると徐々にその体を溶かしてくれる。今日は持ってきているから必要はない。あとは武器や聖水の類だ、街で買うのと変わらない値段だが、武器は慣れているものの方がいいし、聖水は値段が張るから買わんな。あとは食糧くらいだ』

「そうか、その清浄砂というものがあるんなら別にいらなそうだな」

『では、食事を取ったら出発しよう』


 ジンはそう言うと、慣れた感じで建物の横にいくつも置いてあるイスの一つをオレに指さした。

 促されるままオレは座り、テーブルの上に買ってきた串焼きを置く。


「座らないのか?」

『イスが耐えられなくてな』

「ああ、その鎧じゃしょうがないか」


 ジンもテーブルに串焼きを置いて、腰に下げた水袋を出す。さて、オレも食うかな。

 カコン。


「うん?」

『…………』


 金属音が聞こえて串焼きに向いていた視線を音源に向ける。

 ジンの手の串焼きが半分消えているが……ジンはフルフェイスの兜のまま。


「脱がないのか」

『む、その……なんだ』


 返事の中に咀嚼音が混じっている。兜を付けたまま食ってるのか。


「そういえば屋敷でも鎧姿だったな」


 魔王城にはリビングアーマーや死神騎士といった常時鎧姿の魔物がいたから違和感なかったが、外とはいえ人間が食事の時に兜も外さないのは妙な話だ。


『あ、ああ』

「おかしい、よな?」

『そ、そうだな』


 やっぱおかしいよな? 人間社会に疎いオレでもおかしいと思えるぞ。


「なんでか、聞いていいか?」

『……恥ずかしいんだ』

「は?」


 今なんて言った?


『素顔を晒すのが、恥ずかしい』

「そ、そうか」


 恥ずかしいのはおかしくないか? いや、分からん。なんだコイツは? オレがおかしいのか?


「恥ずかしいのか」

『恥ずかしいんだ』


 改めて確認をするが、やはり同じ答えが返ってくる。


「そうか、恥ずかしいんじゃしょうがない、のか? 分からんが、食事とか大変そうだな」

『ああしょうがないんだ』


 しょうがないのか……。しょうがないのか? いや、分からん! とりあえず、オレも串焼きを……。

 カコン。


「いま食ったのか?」

『いや、水を飲んだ』

「そうか……大変そうだ、な?」

『慣れたものだ』

「慣れるものなのか?」


 カコンカコン音が鳴るのは兜の開閉音なのか。


『食事の時は相手の視線を察知して、他に視線が向かった隙に私も食べている』

「……オレ、向こう向いてくうか?」

『食事は顔を合わせてするものだ』

「顔、出してないよな」

『……』

「…………」

『……………………』

「まあ、そういう人もいるんだろうな。うん、きっと。そうだ、街なんだ、いろんな人間がいる。きっとそういう種族かなにかなんだ、そう考えるしか」

『そう、だな、いろんなタイプの人間がいるんだ。ちなみに私は特別な種族ではなく、立派に人間だが』

「あんまり変に考えさせないでくれ」


 疲れるから。

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