キャンセルって……

「イセリアはん、ウチらのチーム登録に追加たのんます」

「いらっしゃいませ、ガリオン様。チームメンバーのカードをお預かりします」


 ヘンリエッタで休養をとった二日後、再びラファーガの屋敷に顔を出した。

 約束通りジンとガリオンの二人と合流し、冒険者ギルドに足を運ぶ。冒険者ギルドにチームとしてメンバー登録を行うらしい。


「ダンジョンなどにはいかれますか?」

「せやな、依頼がないときなんかは顔を出すかもしれん」

「畏まりました、メインの依頼はどのようにいたしますか?」

「メインの依頼?」


 どういうことだろうか?


『自分達のチームがどの系統の依頼を得意とするかを提示しておくのだ。討伐系か護衛か、ダンジョンや遺跡探索、植物採取などな。まあ私達の場合は討伐系だろう』

「そういうこっちゃな」

「かしこまりました、討伐依頼を中心にご紹介いたしますね」

「なるほど」


 自分の得意とする依頼をギルドに伝えておけば、彼らがその依頼を見繕ってくれるらしい、


「こちらにお名前を、リーダーはガリオン様のままでよろしいですか?」

「オレは新人だしな、それでいいぞ」

「すまんなぁ」


 リーダーを設定しなければならないらしい。代表者みたいなものだ。


「ガリオン様がリーダーですので、チーム登録料は無料になりますね」

「?」

「ウチ、この国の貴族やさかい」

「ほお」

「男爵やで」

「そうか」

「反応がたんぱくさんやなぁ」

「いや、何か特別な反応を期待されていたのなら申し訳ないが」

「……そんなんちゃうわ。ええでええで」


 どういうことだ?


『ガリオンは貴族だからと特別扱いされるのをあまり好まないのだ。こいつは照れてるだけだよ』

「やかましいわっ!」


 ガンッとジンの鎧が蹴られる。


『音が響くからやめてくれ』

「ほんなら余計なこと言わんといて」


 漫才のような掛け合いを二人でしていると、受付の女性が頬を緩めている。


「ジャールマグレンさんは今まで討伐依頼を受けられていないんですよね、あら。解体場の使用予約が入れられていますね。お時間があるのでしたら、この後そちらに移動してください。この紙を三番倉庫で渡すよう指定されています」

「解体場? ああ、あれか」


 いきなり地竜なんて出されても処理できないし、収納が分かってしまうとか言われたな。それの準備がされているのか


「なんやなんや?」

「少しばかり用事が入ったらしい」

『ふむ、ではこちらで依頼を見繕っておくか』

「頼めるか?」

「かまへんよ。といっても常設依頼の平原に行くだけのつもりやけどな」

『初めてチームを組むからな。慣れているところを選ばせてもらうぞ』

「そのほうが助かる。それじゃあ三番倉庫だっけか。行ってくる」


 ギルドカードを返してもらいつつ、受付の女性から紙を受け取ってギルドの入り口から出る。

 地竜は既に回収しているから、魔石だけでいい。それ以外は売ってしまえば……三番倉庫ってどこだ?






「しっかりしとるように見えて、意外とお茶目さんやなぁ」

「悪かったな」


 早々に踵を返し、二人に声をかけた。ジンが依頼を見繕うから、ガリオンが案内をしてくれることに。


「ウチも解体所によく行くねん。安心しいや」

「助かるよ」

「ちゅうてもそんな離れてる訳でもあらへんけどな、ほれあれや」


 ギルドの建物から数区画離れた場所、街を囲む外壁の近くに大きな倉庫がいくつも並んでいる。


「てかなんで呼び出されてん?」

「ああ、解体を頼んでいてな」

「そかそか、でも呼び出されるのは珍しいな。なんか問題でもあったんかいな」


 ガリオンが首を傾げながら倉庫の一つの前で止まった。


「珍しいな、普段は入り口開いてんに」

「そうなのか、ああ。まあそうだろうな」


 魔物は体の大きいものが多い。他の倉庫には荷台ごと入れるようにか、入り口が大きく開かれている。


「ま、ええか。こんちゃー」


 ガリオンは慣れた感じで、閉じた搬入口の横のドアを開けて中に入る。


「おう、来たな……なんでお前がいる? 白衣チビ」

「誰がチビや! 部長がでかすぎんやよ!」


 や、実際小さいぞ。


「おう、そっちの男だな。ギルドで渡された紙あんだろ、一応よこせ」

「ああ、これだな」


 ポケットに入れるには大きい封筒だったので、そのまま手で持っていた。それを待っていた男に渡す。

 男がそれに目を通すなか、オレは倉庫の中をみる。

 広い倉庫だ。壁沿いには色々置いてあるけど、真ん中は綺麗に開けている。


「さて、サインしてっと。返しておくな。査定は夕方には終わるだろうからその紙を……受付したのはイセリアだからイセリアのところに持って行ってくれ。査定後の報酬を受け取れる。査定内容に文句があるときはイセリアじゃなくてオレんとこに持ってこい」

「ああ、分かった」


 オレは紙を受け取る。


「んー? 何の話や?」

「魔物の査定の話だ……今更だがこいつが聞いていいのか?」

「別に隠すことじゃないとオレは思っているんだが」

「あんなぁぶちょー、そういうんはウチが入ってくるまえに確認せーや。そういうとこがガザツなんはいただけへんで」

「じゃあとっとと出ていけ」

「イヤや! 気になってん! 隠すこともないっちゅう話ならええやろ!」

「お前が決めんな」

「そこはそこよ、もう隠すことないて聞いたんや。聞いてしもーたんや」

「はあ……おい、お前。えーっとジャールマグレンだっけか」

「ジャールマグレンだ、グレンでいい」

「冒険者ギルド解体部門のバジルだ。とっとと獲物置いて行け」


 いかつい筋骨隆々の男が親指で倉庫の中心を指さす。


「わかった」


 オレは収納を開き、地竜を取り出す。それと道中で確保しておいたスチールウルフ、倒したのは七体だが、ここには三体置いていく。残りはダンジョンに吸収させたからだ。


「はあああああああああ!? ちりゅうやんけえええええ!」

「ほお、見事だな。首を一撃か……この切り口、魔法だな?」

「見ただけで分かるのか!」

「血が漏れとるっ! あかん! 勿体ない! えーっと、えーっと! コールドタッチ! あかんやん! 頭の方も!」


 これは驚きだ。あとガリオンうるさい。


「オレが一体何体の魔物をバラしてると思ってんだ? ここの責任者サマだぞ。どういう武器で倒したかとか、どんな方法でダメージを与えたかとか、その辺は見れば分かる。さすがに魔法の種類まではと分からんが、まあ風や火じゃなさそうだな」

「んほー! 地竜や地竜! こないとこでお目にかかれるたーなぁ! どこで倒したん? この辺りやとサーリーナ山脈まで足を運ばんとお目にかかれんで!」

「ああ、まさにそこだ。この街に来る途中ででくわした」

「一匹ちゅーことは群れと違うんか? 地竜は小規模やけど群れで生活するやろ!」

「こいつは単独で襲ってきた相手だな」


 地竜は群れで生活する竜だ。大体十体前後の群れで活動している。

 姉上が群れの一頭を討伐し、残りの群れを支配下に置いたときの取りこぼしだと思われる。ヘンリエッタから出て、洞窟を抜けた先で襲ってきたのだ。


「はー、珍しいなぁ。地竜は群れで行動するさかい、討伐が難しいんやけど」

「その辺はなんとも」

「ま、そやろな。とりま鱗からやりまひょか」

「なんでお前が参加する白衣チビ」

「はぁ!? 地竜やで! こない大物を! 傷も首にしかない! 成体の! このチャンス逃したらいつお目にかかれるか!」

「倒してこい冒険者」

「遠いやん」

「それをするのが冒険者の仕事だろ」

「嫌や! 現物がここにあんねん!」

「……おい、お前が連れてきたんだろ」

「あ? ああ、そうかオレか」


 ガリオンとバジルの会話についていけてなかったな。


「ガリオン、ジンを待たせているだろう? 今日は連携を確認しに出かける予定だったじゃないか」

「キャンセルや!」

「すまん、キャンセルらしい」

「諦めんのはえーよ!」


 だってこいつの人となりを良く知らないのだ。仕方ないだろう?


「……マジメな話、こないチャンス滅多にないねん。ジンにもすまんけど、ウチは魔物学者や、二人で行ってきてくれへんか?」

「俺は構わないが」

「ほんまかんにんや。すまん、もうしわけない、でもこの機会は逃せられん。丁寧に解体するし、うちがいくつかの素材を高値で買い取る。ジンにもメシをおごるって言っといてもらえるか?」

「ジンにはその通り伝えるが……バジルはいいのか?」


 仕事場にこいつがいて。


「まあ、ここまでの大物だ。正直手を借りれるなら借りたい。依頼主のお前さんがいいって言うなら構わんよ」

「そうか」

「ほな決まりやな! 地竜の肉はうんまいで!」

「そ、そうか、それは楽しみだ」


 早速作業に入るとのことで、ガリオンとバジルが他の作業員を交えて解体工程の話し合いを始めた。

 仕方ない、ジンと合流して……どうするかな。

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