フィールドの生成はヘンリエッタ任せで

『環境変化を実施します。実施場所は後部搬入口の一番近い、1A―12番を使用、指定環境は、平原と森。広さは中、木々の幅は広めで設定』


 大量のスクワーチウォーカーを地竜に乗せ移動をさせた。転移は使わずオレと姉上も護衛として一緒に移動だ。まあ地竜がノシノシ歩いている段階で、襲ってくる魔物は滅多にいないので散歩のような感覚だ。

 彼らを連れてきたオレは、早速ダンジョンの中身の調整に着手。初めてダンジョン内を弄るので実際に見てみたいと思ったオレは、その部屋の前に移動だ。


「スクワーチウォーカーはともかく、地竜は何を食うんだ?」

「木の根なんかを少量齧る程度でいいらしいぞ。巨体の割に食わんやつだ」


 姉上の連れてきた地竜もいる。彼らは体の大きさの割にあまり食事を取らないらしい。


「木々の間隔はこんなものでいいのか?」

「素晴らしいチチ!」


 連れてきたスクワーチウォーカー達は、早速森の中に駆け込んでいく。うん、すごい数だ。


「チチ! チチチ!」

「チチ!」

「チチチチ! チチ!」

「あれは何を言っているんだ?」

「チチ、この木は自分の木だとか、お前は体が小さいからこっちの細い木にしろとかそんな感じだチチ」

「……喧嘩をしないようにな」


 ちなみに平原エリアには地竜が十体いる。巨体の彼らが歩きやすいように、地面は少し柔らかくしてある。


「鳥がいるんだな」


 そんな地竜の背中に何羽かの鳥が降りる。


『環境ベースの基本生物です。魔物ではありませんが、環境を維持するのに必要な虫や鳥は、環境に応じて発生いたします』

「そうなのか」

「そういうのも必要なのかもな」


 オレと姉上の二人で納得。少しばかり平原エリアを歩くと、細い沢と川の、それに湖が見えてきた。


「魚もいるのか、食えるのか?」

『はい、毒性を持つ魚は放っておりませんので、すべて口にできる種です』


 よく見ると魚だけでなく、小さな虫もいる。なるほど、環境というのはそういうものか。


「釣りもできそうだね」

「ああ。ここは風も気持ちがいい」


 足元のやや柔らかい土もなかなかに心地よさそうだ。寝そべったら気持ちいいだろう。

 そんなことを考えていると、地竜の一匹がノシノシ歩いてきて、ザブザブと川の中に身を沈めた。

 竜も水浴びをするらしい。


「チチ、守護者様、ダンジョンマスター様、お願いがあるチチ」

「どうした?」

「チチ、地竜の背を掃除する道具が欲しいチチ。今までは木の皮で掻いてやってたけど、チチ、ここには生木しかないチチ」

「なるほど、確かにそうだな」

「彼らは一緒に仕事をする仲間チチ。地面も掘ってもらいたいとき、背中を掻いてやるチチ」


 スクワーチウォーカーは四本足で歩くリス型の魔物だが、手にはちゃんと指がありものを握ることができるみたいだ。

 二本足で立ってこちらを見つめる。


「うむ、良い心がけだ。どれ、あたしが聞いてやろう」

「聞く? ああ、そういえば」

「うむ、奴らとの会話は可能だ」


 姉上は竜……龍と悪魔のハーフだ。龍の下位種である竜とも会話が成り立つらしい。


「お前、背中を掻かれるのはどういうのがいいのだ?」

『グルルルル、グルル』


 オレには唸っているようにしか見えないが、姉上は『うむ』とか『なるほど』とか言っているから分かるんだろうな。


「ヘンリエッタ、あれを出せるか? あの、なんだ、こう、床を掃除する緑の先がついた」

『はい、ブラシでございますね』

「ブラシ?」

「ゴーレムが風呂場の掃除をするのに使っていたやつだ。木の皮も悪くないが、もう少し柔らかいものがいいって言ってたからな。鱗のことを考えるとそっちの方がよかろうて」

『いまお持ちいたします』


 ヘンリエッタが返事をする。


「水は流れておるが、あまり汚すんじゃないぞ? 背を洗うときはこっち、湖から下流の川に流れるあの辺りで行うんだ」

『グルル』


 姉上の指導がまだ続いている。

 それを眺めていると、丸い筒頭のゴーレム。四本足の多機能ドローンだっけか。小型の宙に浮くヘンリエッタと共にこちらに向かってきた。


『お待たせいたしました』

「すぐにポンと出せるものではないんだな」

『彼らはまだ侵入者扱いですから。ダンジョンの生物以外のものがいる時に、即座に物を生み出すことはできません』

「そういうものなのか」

『はい。ダンジョンはダンジョン内に自在に、好きな場所に物や魔物を生み出すことが可能です。ですが侵入者がいると、その階層ではその力を行使することができません。ダンジョンの定められたルールの一つです』

「そうなのか」

『それができてしまうと、ダンジョンは攻略されませんので。ダンジョンコアは破壊され魔力を拡散させるのも仕事の一つですから、攻略させにくくすることはできても、攻略をさせないようにすることはできません』

「意外と不便だな。いや、十分便利か」


 そもそも好きに物を生み出す能力自体が超常的な能力だ。


「よし、早速やってみるか! お前、下流側に、こらどこに行く!」

「いや、姉上がやることじゃ」

「やってみたくなったんだ」

「そ、そうですか」


 ヒールの長い靴を脱いで、ドレスの裾が濡れるのも構わず湖の中にざばざば入っていき地竜の尻尾を掴んで引きづっていく姉上。

 地竜、そんな目でみないでくれ。姉上を止めることはオレにはできないから。


「お前、姉上が飽きたら変わってやってくれ」

「チチ、仲間を連れてくるチチ」


 姉上は豪快に蹴り足で大量の水を地竜に浴びせたあと、その背中に飛び乗ってブラシでこすっていく。

 うーん、楽しそう。


「水も冷たくて気持ちいいいな! グレン、お前も来ないか!?」

「濡れるからパスで」


 緊張で強張っていた地竜も、殺されないのが分かったのとブラシでこすられるのが気持ちいいのか、次第に力を抜いていくのが分かる。

 あれで魔物の中でも強い種。そう考えると、中々にシュールな姿だな。

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