白衣姿の魔物学者【ガリオン】
「さて、噂のガリオンだが」
『うむ、離だな』
元貴族の屋敷というだけあって、離もあるらしい。屋敷の裏だそうだ。
どうやらガリオンという人を紹介してくれるらしい。
「……臭う、な」
屋敷の裏に回り、離れに近づくにつれて鼻をつく刺激臭。
「あのバカ、今度は何を拾ってきた」
『すまないが私も把握していない。ギルドで買ったのではないか?』
怪しげな臭いを放つ、小奇麗な建物。ラファーガは顔をしかめながら、扉に手をかけて開く。
「「 むおぉぉぉぉ 」」
思わず呻くオレとラファーガ。思わずハンカチを鼻にあてるが、においが消えるわけではない。
『ガリオン! 今度は何を解体している!? ガリオン!』
そんな臭いを気にもせずに、離れの中にどんどん入っていくジン。あの鎧には臭いのシャットアウト機能でもついているのだろうか?
「んー? なんやジンやないけ。どないしたん?」
『どないしたん? ではない。ラファーガと客人が臭いに悶えておるぞ』
「そかー」
そかー、じゃねえよ。
鼻もつままず、ケロリとした表情ででてきたのは、血だらけの白衣を着た小柄の女。髪の毛を後ろで縛ってひとまとめにしている黄色い髪の少女だ。
ガリオンという名前から男性だと勝手に思っていたが、女性だったか。
「やあすまんな、モモンガースカンクの死体が手に入ってなぁ。こいつはモモンガなのかスカンクなのか知りたくてバラしてたとこやってん。ちょうど臭袋の中身を取り出しててん。袋が傷つくんが嫌やってん、ゆっくり抽出してんよ」
「お前は、くっせぇ、においが、平気なのか……くっせえ」
「とっくに鼻、麻痺してんねん」
アホか!
「ここじゃ満足に話もできへんな、本館のほういこか」
彼女は言いながら、離れの奥へと戻っていく。何やらごそごそと片づけをして扉を閉めた。
うん、扉を閉めても臭いは残ってるな。
「ほい、しょーしゅっと」
彼女はオレ達にまとめて魔法をかける。途端に消える不快な臭い。
「初めから臭いを消しておいてくれよ……」
「臭液の成分変わったらどないすんねん。どんな影響がでるかわからんモンに魔法なんかかけれるかいな」
『血まみれの白衣もどうにかしたほうがいいぞ』
「あ、せやったな。クリーンっと」
つぶやくと、今度は白衣や衣服についた汚れが消えていった。なんと便利な魔法!
「ああ、珍しいやろ? ウチが考案した汚れ落としの魔法や。魔物学やっとるとどーにもなぁ。洗濯する時間あったら研究したいさかいに」
「すごいな、オレも覚えられるだろうか? あ、というかオリジナルの魔法とやらは教えてもいいものなのか?」
「んー、これな。意外といろんな魔法の素質がいるねん。水に火、聖に風の魔法が使えんと覚えられへん」
「……オレには無理なようだな」
「せやろ? 今まで会った中じゃスィーダの兄やんしか覚えられへんかったわ」
『スィーダ殿はここに住んでいるエルフだ』
なるほど、魔法の才能に特化しているエルフなら覚えられる、というかそれほど特異な才能がないと覚えられないような魔法か。
こざっぱりしたガリオンが庭に設置してあった机と椅子に案内してくれた。そのまま着席。
「んで? なんの魔物の情報を希望しとるんや? 子供やしタダでええで」
「ん?」
なんだって?
「ウチの客言うたらそういう話ちゃうん?」
「ガリオン、違うぞ。そういう客ではない」
「うん? ほんならなんや?」
『私達の仲間候補らしい』
「お仲間の話かいな。ほんなら客なんて言わんでええやん」
『客は客だろう』
「はーん」
「コホン、改めて顔合わせといくか。グレン、自己紹介を」
「ジャールマグレンだ。グレンと呼んでくれ。剣士だ」
『ジン=ケルクカムスだ。盾騎士と呼ばれたり、重戦士と呼ばれる部類の者だ。手槍を得意としている』
「ウチはガリオンや。魔物学者しとる」
『魔法使いな』
「魔物学者や!」
何かしらこだわりがあるらしい。
「まあこういう連中だ。個々の腕は立つが人数が人数だからな、お前さんみたいな腕の立つ新人を見つけたら勧誘しようと思ってたんだ。こいつらもオレから見てなかなかの逸材だぞ? 少なくともお前に見劣りしないだけの実力は持っている」
『私の時と同じように、拾ってきたらしい』
「せやねんな? まー、腕はいいとして、性格が合うかどうかやな」
「というか、素朴な疑問としてこんなに簡単にチームを組んでいいものなのか?」
オレが疑問を口にすると、何を今さらといった感じでガリーが口にする。
「それこそ今更なんやねんちゅー話や。ウチらとしちゃ前衛は欲しかってん。でもなぁ、それなりな人間はすでに他んとこに確保されとるし、フリーの何人かと組んだけどやっぱなぁ」
『うむ。ラファーガ殿の見立てであれば実力は問題なかろう。素行の悪さがなければな』
「それに関しちゃ問題ねーと思うぜ? こいつ、冒険者に見捨てられた商人を助けながら街についたところだしな」
『ほお、見ず知らずの者を助けたと』
「そりゃええこっちゃなぁ。やるやん」
「町までの道案内を頼みたかったというのもあったがな」
実際、ゲイルの案内がなければ、この町までくるのにもう少し時間がかかったはずだ。
『ラファーガ殿の見立てに問題はなかろうて。それにランクの低い依頼にラファーガ殿やスィーダ殿を連れ出すのも悪いと思っていたのだ』
「それに関しちゃ問題はねー。俺らに遠慮した結果お前らの命を落としたって聞くほうが問題だかんな」
確かに、知り合いに死なれるのは目覚めが悪そうだ。
「助けが必要なレベルの依頼を受けることもあるのか?」
『ああ指名依頼を受けるときなんかがそうだな』
「あと金がないときやね」
「金がないときというのはわかるが、指名依頼は断れないのか?」
『むろんあまりにも無茶な依頼なら断るさ。だが実力を認められたと思うと断りにくいものもある』
「あんま断りつづけると逆に指名依頼が来なくなったりするからなぁ。指名依頼ってのは通常よりもギルドに入る金が多いから、ギルドとしても受けてもらいたいって感情もあるわけだ。俺らでも指名依頼を受けて、依頼の内容的に人数も必要だったりでこいつらやほかのチームの手を借りたりすることもある。こいつらはこう言うが持ちつ持たれつって感じだな」
『我々の受ける依頼だと、彼らには過剰な部分があるのだがな』
「そういやラファーガはミスリルクラスって話だったな。上から二番目のクラスか」
「上から二番目言うても、実質頂点やで。最高ランクのプラチナクラスはこない街じゃお目に掛かれんバケモンやさかい」
「それほどなのか」
「まあなぁ。何人か知り合いにいるが、確かにどいつもこいつも壁を越えた強さがあるな」
『うむ。私も一度戦う様を見た事があるが、あれは別次元のレベルだな』
「一方的な虐殺になるから戦争への参加も禁止されとるくらいや」
そういえばクライブ兄上ですら苦戦を強いられる相手が何人か人間の国にいて、侵攻が進まないと聞いたことがある。セレナーデ姉上には劣るものの、母上も認める実力者のクライブ兄上の相手はそういう連中なのかもしれない。
「まあ俺の話はいいだろ、プラチナ連中の話もな。どうだお前ら、チームを組んでみたら」
「かまへんよ」
『そうだな。グレン殿、やってみないか? 気に入らなければ抜ければいい』
ガリオンは軽く、グレンは表情が見えないが、特に問題ないとの様子だ。
「そうだな……オレは今日登録したばかりの新人だがいいのか?」
『別に新人だから実力がないというわけではないだろう?』
「そない人をラファーガはんが連れてくるわけないやん。あんたは実力があるか素質があるから連れてこられてん」
「随分とラファーガを信用しているのだな」
「ま、こないでもウチらの師匠やさかい」
『私もグレン殿と同様に拾われたクチだからな』
なるほど、オレが初めてじゃないわけだ。
「分かった、しばらく世話になる」
「よし! 決まりだな!」
ラファーガが手を叩いて、締めくくる。
全身鎧の男ジンと魔法使いで魔物学者のガリオン。魔物について詳しいのはいい、オレは色々な魔物の魔石や肉体を欲しているのだから。
「あら? もうお帰り?」
「なかなか頑固でなぁ」
「いきなり厄介になるのもな」
チームとしての活動は、明後日からということで話をつけて解散となった。まだ顔合わせをした程度の相手なのだが、食事やら泊まれる部屋やらの世話になるのは気が引ける。
ジンは訓練を、ガリーはまた臭い離に戻るらしい。来た時にすれ違ったローネ先輩が戻ってきた。
オレもそろそろダンジョンに戻ろうと思う。
「どこか宿のあてはあるの?」
「ああ、大丈夫だ」
転移で帰るだけだからな。
「そうか。それじゃあまた」
「今日は世話になった」
「趣味みたいなもんだ。気にすんな」
変わった趣味だな。そう思いながら、オレは屋敷を後にする。とはいえ街中でいきなり転移をするわけにはいかない。どこかの路地で転移をしようかと思ったが、空間魔法は秘匿しろと言われたばかりだ。
「街を出るか」
街中ではどこに人の目があるか分からない。かといって宿を取るにしても金の無駄だ。それならば街から出てしまえばいい。
山奥で育ったという設定でもあるし、森で野宿するほうが落ち着くとでも言えば納得されるだろう。
「壁に覆われている分、出入り口がわかりやすくていいな」
日がもうすぐ暮れそうだ。明るいうちに街の近くにあった森へ移動しよう。
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