全身鎧の重戦士【ジン】

 ギルマスと話が終わり、冒険者になる手続きを終わったオレだが、ラファーガに連れられて彼の家に向かっていた。


「時間はあるから問題ないが」

「宿もないだろ? どうせならメシも食っていけ。ついでに紹介したい奴もいるんだ」


 そう言って連れられた家は、正直大きい。お屋敷だ。


「ここがオレのチームハウスだ」

「ラファーガは貴族だったのか」

「んにゃ、チームハウスって言っただろ? 仲間と稼いだ金で元貴族の屋敷を買い取ったんだよ、まあ仲間にゃ貴族様もいるがね」


 そう言われながら中に入ると、玄関で注意される。


「ストップだ。ここで靴を脱いで足を洗ってくれ」

「?」

「珍しいだろ? 屋敷の床を汚さないようにしてるんだ。汚したら自分で掃除せにゃならん」

「ああ、なるほどな」


 貴族の住んでいた屋敷だが、別に使用人がいる訳じゃないらしい。


「おかえり、ラフィ。お客さん?」

「おう、そっちはおでかけか?」


 町娘のような服装の小柄の女性が声をラファーガに声を掛けてきた。


「買い物行ってくるわ。そっちの子は?」

「ジンとガリオンと組ませようと思ってな」

「また拾ってきたのね……」

「おう、腕はいいぞ」


 その女性は値踏みするようにオレを見る。


「えっと?」

「はぁ、まあいいわ。邪悪さは感じないから」

「邪悪さ……」


 感じられるものなのか? というかオレの血に邪悪さは流れてないのか?


「ローネよ、よろしく」

「ジャールマグレンだ」

「私のことはローネ先輩って呼んでね?」

「……分かった、ローネ先輩」


 何やら圧力を感じたので、先輩と呼ぶことにする。


「ローネ……」

「うふふ、素直な後輩は好きよ? じゃあ出かけてくるわね」

「「 いってらっしゃい 」」


 オレ達と入れ替える形で、ローネ先輩がでかける。


「そういえば他の仲間は?」

「ああそうだな。エルフのスィーダという男がいる。女と間違えると怒るから気を付けろ。それと全身鎧のジンと魔物バカのガリオンがいる」


 話を聞いていると、屋敷の階段の上からガチャガチャと金属のこすれる音が聞こえてきた。


『ラファーガ殿、戻ったか。稽古を付けていただきたく』

「噂をすればだ」

「……本当に全身鎧だな」


 純白の大きな全身鎧が階段から降りてきた。近くまで来るが、オレよりも圧倒的にでかい。オレの140センチくらいの身長に対し、飾り抜きでも190センチはありそうだ。ラファーガよりも圧倒的に大きい。

 くぐもった低く渋い声が鎧の奥から聞こえてくる。顔はまったく見えないフルフェイスマスクだが、男性のようだ。


『初めて見る顔だな』

「ああ。この街に来ることも初めてだ」

『そうか。そうなるとラファーガ殿は都合が悪いかな?』

「悪いってこたねーが、紹介をしようと思ってな。グレン、こいつはジンだ。こいつも冒険者登録して間もないからな。お前とチームを組んで貰おうと思ってな」

「チーム?」


 一緒に活動を? この鎧と?


『何の説明もなく連れてきたのか、付いてくる方も付いてくる方だが』

「誘われたんでな。それとこの男から逃げるのは困難だと判断した」


 オレより実力がある冒険者だ。もちろん転移を使えば逃げられるが、そこまでするほどの脅威は現在感じていない。


『ふふ、それは間違いではないな』

「別に強制はしてねーぞ? ただお前とガリオンだけじゃバランスが悪いからな、いい感じの奴を前から探してて、こいつが見つかったってだけの話だ」

「ふむ、つまりこの鎧と……ジンともう一人が組んで活動をしている中に、オレを前衛として参加させたい、という話か」


 チームを組ませたいということはそういうことだろう。


「ああ、ガリオンは魔法使いだ。そんでこいつは見ての通り前衛。重装備の割りには動けるが、魔法使いを守るって意味ではペアじゃ限界が知れてる」

『……確かに、ここ最近受注できるクエストは同系統ばかりだな。おかげでガリオンが拗ねているから助かると言えば助かるが』

「いきなり知らん人間とチームを組めと言われてもな」

「分かってるって、だからこうやって顔を合わせたり、簡単なクエストを一緒にやらせたりしようって話だ。何度か一緒にやってみて、相性が悪けりゃ抜けりゃいい。その辺の強制はしねーよ。今日冒険者になったばっかのお前にも利点はあるぜ?」


 利点?


『登録したてならば、確かに危険だな。冒険者達の中で一番危険なのは登録した直後、自分の実力を測りきる前だと聞く』

「教えたのは俺だな」

「なるほど」

「他にもあるぜ? ここにいる間は宿代はかからねー。ま、クエストの報酬の一部は家にいれてもらうがな。それも無理にじゃない。訓練の相手にもこと欠かねーし、メシも美味い。クエスト関連の質問も聞くし、魔物の知識が豊富な奴もいる」

「魔物の知識……それは魅力的だな」


 オレは様々な魔物の肉体や特に魔石が欲しいからな。


『魔物に興味があるのか?』

「ああ。オレが維持している魔法は魔石をドカ食いするからな。魔物の肉体でも構わないができれば魔石が欲しい」


 空間魔法による収納空間は、維持するのに魔石が必要だ。これを理由に魔石を多く回収しようと思っている。


「例のあれか」

『なにかあるのか?』

「収納だ」

『収納? 空間魔法か。魔法の袋も維持するのに魔石をつかうと聞くが、収納もそうなんだな』

「ああ」

「なあ、あんま吹聴するなっつったよな?」

「チームを組ませたいんだろ? ならオレが魔石を欲しているのを前もって言っておいたほうが良くないか?」


 本当の理由はダンジョンを成長させるためだが、こうして最初から理由をしっかり伝えておけば魔石や魔物の肉体を回収できる。


『問題があることなのか?』

「収納魔法ってのは空間魔法だぞ? 国お抱えの魔法使いサマの中にすら何人もいねーっていう希少な魔法だ。冒険者からの勧誘合戦から貴族達からの勧誘合戦で問題が怒るのが目に見えてる。そんでその辺をうまく掻い潜っても、最終的には国に召し上げられるって寸法よ」

『……問題あることか? 国に仕えることのできる有能な能力じゃないか』

「そう言えば聞こえはいいがな! とにかく! 他言無用系の話だ! だからこいつの持ってきた魔物も売るのにギルドで時間を調整せにゃならんし!」


 そう、オレの持ってきた地竜の死体も金に換えることができずにいた。まあゲイルから貰った金があるから、お金がないというわけではないのだが。


『なるほど、だが仲間になってくれるというのであれば、物品の運搬などに関しては任せられるということか。それは頼りになる』

「ま、そういうことだな。剣の腕も確かめたし、悪くはないと思うぜ?」


 こちらとしてもツテがない現状だ。彼の人となりは身分の確かなギルドマスターと、畑違いの仕事をしているゲイルが保証してくれている。世話になっても問題ないだろう。


『一人でガリオンを守るのにも限界を感じていたところだ。よろしく頼む』

「ああ。冒険者としての知識のないオレとしては渡りに船だ。こちらこそよろしく」


 籠手に覆われた手をジンがだしてきたので握手。思っていたより優しく握られたのが印象的だった。

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