冒険者【ラファーガ】

「……というわけだ」

「大変申し訳ございませんでした。当会員の落ち度です」

「それで? こちらは馬も荷台も! 荷物すらなくなったんだぞ! 申し訳ございませんで済ませる気か!」

「もちろん、補填も。新しい馬と荷台もご準備をいたします」


 ゲイルが声を荒げて何か話している中、オレはギルドの中をじっくりと見る。

 人の出入りが激しいのは、みんな受付に報告をしているからだろう。受付の数はそれなりに多い。それなりの使い手もいるようだ。

 中にはオレに視線を向けてくるものもいる。

 しかし参ったな。獣人は多少いるが、リザードマンやドラゴニュートみたいな種族が見当たらない。亜人種が少なく人族ばかりだ。これでは姉上を連れてきたら相当に目立つ。

 それに街の出入り口を通った時の謎のオーブも問題だ。姉上が知恵ある魔物の上位存在。いわゆる魔人と呼ばれる種に分類される存在だとばれてしまう可能性もある。

 念のため置いてきたけど、やっぱ連れてこなくて正解だったようだ。


「彼が通りかかってくれなければ、私も死んでいたんだぞ!」

「はい、仰る通りです」


 まだかかりそうだな。


「揉め事かい?」

「ラファーガさん!」


 そんな視線をこちらに向けてきた男の一人が、こちらに歩いてきて声をかけてきた。


「……関係のないものは引っ込んでいてくれ。これは私とギルドの問題だ」

「何があったかを聞くのも不味いってのかい?」


 その男の視線は、明らかにこちらに向けられている。

 なんだ?


「オレが話をしようか。ゲイルはそっちで話を付けていればいい」


 明らかにオレに用がありそうな視線だ。だったらこちらで相手をするべきだな。

 ラファーガと呼ばれた男が首を振って離れようと合図を送ってくる。オレはそれに合わせてゲイルから少しだけ離れた。


「それで?」

「彼がギルドに依頼した冒険者が、依頼を放棄して逃げたんだ。魔物に襲われてな」

「あ? そんな奴がいたのか?」

「シルバーランクの3人組らしい。名前はオレも知らんがな」

「……なるほど。彼が怒るのも当然だな」

「馬と荷台、荷物の大半も失ってな。たまたまオレの手の届く範囲で起きたから、なんとか間に合った」

「そりゃあ、すごいな」

「すごい?」

「魔物に襲われている最中の人間を救うのは並大抵のことじゃない」

「ああ、そういう。何、魔物は先に倒れ込んだ馬に集中していたからだ」


 実際にオレが助けに行った時、魔物は馬にかじりついていた。狼の魔物だ。名前は分からないが。


「見た目の割に強そうだ。歳は歳くらいか十二、三歳くらいか?」


 難しい質問だ。卵が産まれたのは三十年ほど前だが、卵から孵ったのは十年前だから。生まれた時の姿が人間でいうところの五歳くらいで、そこから成長をしたのだが。使用人達にもそう言われることが多いから、そのくらいの年齢にしておいた方が無難だろう。


「すまんな、自分の歳は良く分からないんだ。そのくらいだと思うが」

「ああ、まあそう言う奴もいるよな。しっかし、揉め事かと思ったがしっかりこっちの落ち度か。しゃーないわな」


 ラファーガはゲイルのところに行って、二言三言話す。そして受付から紙を受け取り、彼に渡した。


「グレンさん、こちらに」

「うん?」


 ゲイルはオレに皮の袋を突き出す。受け取ると、金の感触を感じた。


「冒険者に払う予定だった護衛料だ。君に受け取って欲しい」

「そりゃ助かるが、いいのか?」

「もちろんだ。足りないくらいだと思ってるよ。でもこちらも何かと入用でね」

「いや、街の登録料まで払って貰ったのに」

「ああ、そうだ。登録料だ! グレンさんは冒険者ギルドに登録したかったんだよな。これも金がかかるぞ、それも出そう」


 ゲイルはそう言って懐から銀貨を取り出した。


「彼の登録手続きも頼むよ」

「は、はい」

「……随分上機嫌だな」

「何、彼のおかげだよ。ミスリルクラスのラファーガさんが次の護衛依頼を無料で受けてくれるって一筆書いてくれたからね」

「へぇ」

「ギルド側の落ち度だしな。これくらいサービスさ」


 30代半ばくらいだろうか? よく鍛えられた体が見て取れる。


「せっかくの縁だ。坊主の面倒も見てやるよ。ギルドじゃ見たことのない顔で気になってたんだが、登録もしてないとなると新人なんだろう?」

「そりゃ、助かるが」

「将来有望そうだしな。オレが今面倒を見てる連中とまとめてで良かったらだがな」


 そう言って彼は俺に手を差し出した。オレはゲイルに視線を送る。


「彼は上級冒険者で有名人だよ。それに商業ギルドや騎士団からの信頼も厚い。信用できる人物だよ」

「そうなのか?」

「俺もまだまだだな。多少有名な自覚があったんだが」


 困ったように首を振るラファーガ。でも差し出した手は引っ込めないようだ。

 ……オレは人間の街のことも冒険者のこともあまり詳しくない。上級と呼ばれる彼に話を聞くのも悪くはないか。そう思い、彼の手を取る。


「ミスリルクラスのラファーガだ。剣士をしている」

「ジャールマグレン。剣と、魔法を少々」


 握手をした手は、思いのほか優しく握られた。

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