初めての人間の街

「こちらのオーブに手を当ててください」

「こうか?」

「……はい。結構でございます。国内登録もないんですね」

「大きな街に来たのは初めてだ」

「まあそういう人も多いですね。こちらにサインを」


 渡された紙に名前を書く。そしてそれを返すと、兵士の男はその紙に色々と追加で記載をしていく。


「これでよしっと。これで入場カードが完成です。どこかのギルドに登録をするのなら、入場カードも渡してください。一つにできます」

「これがあれば、今後は自由に街に出入りできるのか?」

「きちんと税を納めてくれればです。税を納めずに半年経つと、出入りするたびに金がかかるようになります」

「はあ」


 仕組みが分からないな。まあそういうものなんだろう。


「やっぱり冒険者ギルドに?」

「そうだ。村の近くにはなくってな」

「まあ剣士のようないで立ちでわかります。外に出たらそれっぽい連中がそれなりに歩いてますから迷うことはないでしょう。剣と杖の看板が見える大きな建物です」

「分かった」

「それじゃ、頑張ってください。ようこそクレーソンに」

「ああ、世話になった」


 入場カードをもらい、手荷物を受け取って街の中に入る。

 ここはオレのダンジョンから見て、徒歩で3日程離れた場所にある街だ。意外と村は多かったが、冒険者ギルドがある街はここが一番近かった。兄上の指導でサバイバル訓練は受けていたけど、人の縁に助けられてほとんどサバイバルしなかった。


「登録は終わりましたか?」

「ああ、待たせたな」

「いえ、命の恩人にこれくらいしか返せなくて申し訳ない」

「登録料まで払って貰ったんだ。気に病むことはないだろ」

「護衛料というもんですよ。私も冒険者ギルドに行きますから、一緒に行きましょう」

「……正直助かるよ」


 オレの登録を待っていてくれた彼はゲイル、行商人だ。彼は街から村に商品を持って旅をしながら物を売り買いしているらしい。

 ダンジョンから出てしばらくしたら、魔物に襲われていた彼と遭遇。それを助けたら、ここまで連れてきてくれた。人間の街のことを何も知らなかったから、色々と教えて貰えたし世話になっている。


「しかしグレンさん程の腕の人が、まさか未登録だったとはねぇ」

「はは、山奥に住んでたからな」


 とは嘘の設定である。山奥に祖父と住んでいたが、祖父が死んだから一人で街まで出てきた。剣は祖父に教わって、山奥で魔物とも戦ったこともあるから、それなりに腕が立つ。という設定だ。正直自分としては、腕が立つとは思っていなかったのだが、彼を助けた時にかなり驚かれた。

 魔王城の中では下の下の存在のオレだが、この辺りの魔物から見ればそれなりに戦える立ち位置らしい。


「しかしあの連中ときたら……いま思い出しただけでも腹が立ちます」

「まあ自分の命が一番だと考えるのは自然だとは思うがね」

「だったら自分の命に見合う仕事を選んで欲しいものだね! 街や村を行き来するルートは前もってギルドに伝えたんだから!」


 彼は護衛として冒険者を雇っていた。しかし彼らは、自分が勝てない相手とみるや、依頼主であるゲイルを置いて逃げてしまった。ゲイルも怪我をし、馬もやられ馬車も横転。

 オレは目に見える範囲であれば空間魔法で移動ができるので、彼の下の移動をして助けた。という流れだ。

 荷物はオレの収納魔法で預かり、二人でこの街までやってきたわけである。


「あれでシルバーランクというのだから驚きだ。商業ギルドを通して文句も付けてやらんといかん!」

「まあその辺はご自由に」


 というか興味がない。


「あそこか?」

「んあ? おお、そうだ。あそこが冒険者ギルドだ」


 人の出入りの激しい、それでいて武装した人間が多く出入りをしている大きな建物。

 あれが噂の冒険者ギルドのようだ。

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