生命の秘薬を手に入れるには?

 薄暗いミーティングルームで、腕を組んで首を捻らせる姉上。正直オレも、思っていたよりも壮大な話をされて困惑しているところだ。


「とりあえず、完全に理解できないことが良く分かった。ダンジョンが神によってもたらされたものなら、人の常識で考えても仕方ないことだろ」

「まあ、端的にまとめるとそうなんですけど……」


 姉上がそんなことを言う。でも確かに姉上の言う通りだ。


「とりあえず、オレ達に重要なのはアイテムを生み出すことができるという部分だ。こちらで作成できるアイテムをコントロールできるのか?」

『アイテムの作成は指定アイテムの生成とランダムアイテムの生成の二パターンがございます。指定アイテムは現在当艦内にあるアイテムを生成する技術です。既に入手済みのアイテムを再度生成することや、当艦が入手したデータを基に新たなアイテムを生成できます。それに対しランダムアイテム生成は、現状入手していないアイテムを無作為に生成する技術です』

「ランダム……生命の秘薬はランダムのほうか」

『はい艦長。仮にその生命の秘薬というアイテムが存在するのであれば、ランダムアイテム生成によって作成するしかありません』

「待てヘンリエッタ、ランダムと言っているが、何が作られるか分からないのだよな? お前も知らないものまで作られるということか?」


 あ、そうだ。


『はい副長。ランダムアイテム生成は、星の地脈にリンクをして行います。過去、現在においてこの星で使用されたアイテムを星の記憶より掘り起こし作成いたします。過去から現在において存在したことのないアイテムは生成することはできません』

「生命の秘薬について質問をしたとき、まだ分からないと言っていたな? 今はどうだ?」

『はい艦長。再度検索をいたしましたが、生命の秘薬ならびに艦長方のおっしゃられていた生命の秘薬と同等の効果を持ったアイテムは、現段階において指定して生成はできません』

「先ほど言っていたデータうんぬんのアイテム生成か」

『はい艦長。おっしゃるとおりです』

「いずれ生成できるようになるか?」

『同種のアイテムを入手するか、データを入手すれば可能となります』

「その、データというのはなんだ……」

『端的に言えば、情報のことです』


 情報か。


『当艦のダンジョンコアは未熟で、本来のダンジョンコアと比較すると圧倒的に情報が不足しております。これは強力なエネルギーの奔流によって、半強制的に作成されたことが原因であると推測されます』

「強制的に? そういえば兄上が大爆発を起こしたらできたとか……」


 なんか実験してて研究所が吹っ飛んだとか言ってたからな。


『本来のダンジョンコアは自然界の中で徐々に地脈の力が凝り固まって生み出されます。地脈の中には魔力だけでなく、様々な生命や道具、環境といった情報も形を変えて流れています。そういった情報もダンジョンコアは生み出される過程で収集するのですが、当艦のダンジョンコアは突発的にコア部分だけが作られましたので、そういった情報が欠落しています。本来のダンジョンコアであれば生成できるものが、当艦では生成することができません』

「じゃあその情報が増えれば」

『艦長、副長がお望みの生命の秘薬なるアイテム、もしくは同等の効果を持つ別のアイテムが生成できるようになるかもしれません』

「姉上!」

「ああ! ヘンリエッタ! どうやってその情報を増やすことができるのだ!?」


 姉上も身を乗り出している。


『はい副長。一番はその生命の秘薬なるアイテムを入手することですが、それは困難とのこと。一度の情報量の多さであれば、天然に発生したダンジョンコアの入手が一番かと思われます』

「ダンジョンコア? 天然のというと、他のダンジョンを攻略してそのダンジョンコアを持ってこいってことか?」

『はい艦長。天然のダンジョンコアは、情報の塊です。当艦までもって帰っていただき、当艦にダンジョンコアを入れていただいた時のように、またご用意していただければ、そちらから情報を入手することが可能です』

「お前に足りない知識を、他から持ってくるということだな」

『ご理解いただけて嬉しく思います』


 う、うん。今まで良く分からない話は全部スルーしちゃってたもんね。なんかすまん。


『それと情報量はコアと比較するとかなり低くなりますが、魔物の魔石にも情報が含まれております』


「魔石? 魔物の体の中にあるあれか?」


 姉上が自分の胸元に手を当てる。特殊なタイプではない人型の魔物は、だいたいそこに魔石があるのだ。


『はい。魔石とは魔物の生命の根源であり、地脈を一度通過した経験のある魔力も保持しております。少しずつですが、そういった魔石から情報を蓄積させていくことも可能です。ダンジョンで作成されたアイテムや鉱石なども同様です』

「魔力のあるもんを手当たり次第にもってこいってことか?」

『端的に言うと、そういう意味になります。魔石だけでなく、その肉体も可能であれば回収していただきたいと思います』

「肉体も?」

『肉体のデータもあれば、その魔物をダンジョンとして生成することが可能になります。当艦はダンジョンですが、先の理由と同じで、魔物のデータもほとんどありませんから』


 そういえばダンジョンだもんな。オレはダンジョンマスターだし。


「そーかそーか、なるほどね」


 あ、姉上が嬉しそうに口元をニヤケさせている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る