姉上をお世話
「あの、姉上?」
「お姉ちゃんだ! いい加減に慣れないか」
「いや、お姉ちゃん? 何してんのさ」
「ふむ、よくぞ聞いてくれた」
我が姉上は全裸で仁王立ちである。妹は常時全裸でいたがるし、なんなのうちの家系。
「風呂に入ろうと思ったのだがな」
「ええ」
「イミュリアが起こしてくれた後に、グレンと一緒に入れば良いと提案をしたのだ」
「あいつ、何考えてるんだ……」
「姉弟水入らずの時間の邪魔はせんと、食事の準備をしに行った。ぬ? ヘンリエッタ、お前向こうにいなかったか?」
『はい副長。別端末でイミュリア様の調理の補助をさせていただいております』
丸い物体は他にもいるのか?
「イミュリアは食事の準備に入ったしな。それではあたしの体を洗うものがいないではないか」
当たり前のように言う姉上。豪快な姉上だが、彼女は立派な王女様。湯あみ一つするのに、従者が何人も入る。
オレも立場的には同じだけど、身の危険を感じるので一人で入るのを好む。ちなみにガラグラッタ兄上も一人で入るが、たまに一緒に入る時もあった。モルボラ兄上は逆に一人で入れないし、体も洗えない。肥えすぎである。
「ほれ、あたしの背を洗ってくれ。さすがに前は自分で洗うから安心しろ」
「何を安心しろっていうのさ……」
姉上は長い髪の毛をまとめて首元からさらい、シミ一つない綺麗な白い背中をこちらに見せてモラーム瓜を投げてきた。
「姉上、せっかくなのでヘンリエッタが用意してくれたものを試してみませんか?」
「うん?」
「体が綺麗になりますよ。気持ちよかったです」
「お前も試したのか? ならあたしも試してみようか」
姉上がそう言ったので、オレは腰にタオルを巻いて姉上の後ろに移動だ。
筒状ゴーレムがまた来た。オレの時と違い、大きなスポンジを持ってきた。
『女性がお使いになるならそちらの方が適しております。ボディソープやシャンプーなどもこちらをお使いください』
とのことらしい。
先ほどと同じような形でやればいいとのことなので、姉上の透き通った肌を丁寧に洗う。
「ふふ、大事に扱われるようでこそばゆいな」
「そう思うならオレのいる浴室に入って来ないでくださいよ」
「子供の頃はあたしが風呂に入れてやっただろう?」
生まれたばかりの頃の話を持ってくるんじゃない。しかも一緒に入ったというより、悪魔の従者が間違いを犯さないようにオレではなく従者の方を監視する目的だったんじゃなかろうか? とは思うものの、姉上に苦情を言ったところでどこ吹く風なのは分かっている。それならさっさと終わらせた方がいいに決まっているのだ。
「オレも先ほどヘンリエッタに教わったばかりだから、文句は言わないでくれよ」
「グレンに奉仕をされているだけで、あたしは満足だよ。文句なんて、文句なんてぇ?」
楽しそうに話していた姉上。腕や背中を洗うと、洗われた自分の腕を見て首を傾げる。
「グレン、これはなんだ?」
「モラーム瓜の代わりに、ヘンリエッタが用意してくれたものだけど?」
「これは素晴らしい、肌が喜んでるな!」
「いや、分かんない。それとこっち向かないで」
「お前にはこの姉の輝きが増したのが伝わらぬのか!? お姉ちゃんがより綺麗になったんだぞ!」
「そうかもだけど、服をきてくれた状態でないと直視できないからね?」
いいからと肩を掴んで座らせる。
「お姉ちゃんが大人しくしてくれてたら、もっと綺麗にできるから」
「む? むう、そうか?」
大人しくなった姉上を磨き上げる。
「ほら、前は自分で洗ってね」
どうぞと姉上の手にスポンジを渡す。
「……髪用のもあるか?」
「ヘンリエッタ?」
『もちろんでございます』
また筒状ゴーレムの上部が開き、腕が出てくる。そこには頭用の薬液の入ったボトル。
『まずシャンプー、次に使うこちらはコンディショナーではなくトリートメントと呼ばれるものです』
「頭を洗うのに二つも使うのか?」
「あ、オレも思いました」
さすが姉上。
『シャンプーは汚れを落とし、髪に活力を与えて補修する機能がございます。トリートメントはシャンプーと同様に髪を補修する機能に加えて、髪を内側からいたわり、美しさを際立たせる役割がございます』
「美しさを、際立たせる……」
豪快な姉上だが、母の娘であるから美しさにも自信があるし貪欲だ。美容に良いとされる魔物を絶滅せんばかりに追い込んで、母に怒られたこともあるもの。
「よし、グレン。やってくれ」
「……今思いだしたんだけど、ここのゴーレムにやらせられるよね」
『可能です』
さっきやって貰えば良かったじゃん!
「いや、グレンがやってくれよ!? お姉ちゃんの髪だぞ!?」
「えー」
「えー、じゃない! まったく、お前はそんなだからモテな……モテるな」
「あいつらは完全に体目当てだぞ」
言葉の意味通りの体目当て。人肉として見てくるやつか性欲狙いか血狙いかだ。脳みそ狙いのやつもいたな。
「ゴーレムに頭をいじくり回されるのは嫌だ。グレンがやってくれ」
「まあ、確かに」
それもそうか。
「じゃあやるよ。目に入ったらごめんね」
「分かった」
というわけで、姉上の髪を丁寧に洗う。さすがに大人しくなってくれた。
それが済んだら湯船で体を温める。髪を洗った後にお湯で濡らすのは良くないらしく、ゴーレムが姉上の髪をタオルでまとめていた。そういうのはゴーレムにやらせていいのか、と思ったり思わなかったり。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます