艦長室

『こちらが艦長室にございます』

「これは、なんというか」

「うちの自室よりも豪華な部屋というのを久しぶりに見た気がするな」

「セレナーデ様に相応しいお部屋ですわ」


 そのまま案内されたのは、個室だ。艦長室、つまりオレの部屋らしい。


『ドバイの七つ星ホテルの設計者、ラドガンス=フラードペッパー氏の設計により作られましたお部屋にございます』


 天井も高く、広い室内。扉を開いたら最初に目に入るのは、大きい一枚窓だ。ここは地中のはずなのに海の見える景色が見える。


「外が……見える?」

『あちらは閉所感を無くすため、映像を流しております。実際の外はこのようになっています』


 海が見え、波打ち際の美しい青い空の光景が一転、土と岩の世界に変わった。


『外の風景は海や山、野原や街並みなど数パターン用意されています。またそれぞれの土地の季節も記録され……』

「分かった、これも光を使った例の幻術だな?」

『……幻術ではございませんが、光を使っているのは間違いございません』


 真っ赤に敷き詰められた高級な絨毯が見える。


「……靴は脱ぐべきかな」

「その方が良さそうだな」

「洞窟内を歩いてきた靴ですものね」


 オレが呟くと、姉上達も了承。下駄箱も置いてあるので靴を脱ぐ。


『でしたらスリッパに履き替えてくださっても結構です。下駄箱の上の段の棚に収納されています』


 今まで自動で空いていた扉ばかりだったが、ここは手動のようだ。なんか安心する。


『こちらは艦長の私室になります。生活エリアが手前側で、リビング、ダイニング、キッチン、シャワールーム、寝室、個室が二つにトイレ、浴室がございます。奥には執務室、ミニシアター、書斎が用意されています』

「バーまで併設されているんだな」

「すごい種類の……これは、お酒ですか?」

『はい。カウンター内のものはほとんどがお酒ですね。原液で楽しむもの、いくつかのお酒同志を掛け合わせて楽しむもの、水や炭酸水と混ぜて楽しむもの、様々な種類がございます。指定していただければ、ライブラリからそれぞれの飲み物に見合った飲み方を提示することが可能でございます』

「こちらはお酒を提供する場所なのか」

『こちらはすべて艦長の物になります。ここは艦長の私室でございますから』

「これらの酒がすべて、か……なあグレン、物は相談なんだが」

「ジャーマルグレン様、どうかお話を聞いていただけないでしょうか?」

「いや、ちょっと。二人とも怖いんですけど」


 迫って来ないでくれ。


『そちらのカウンターはキッチンと併設しております』

「キッチン? 厨房があるのかしら? そういえば食堂に併設してあるという厨房も見なかったですわね」


 確かに、まっすぐこちらに来てしまった。


「……これがキッチン? 竈もなければ薪も用意されてないのね」

『これらはすべて電気で作動いたします』

「電撃? 何を攻撃するのかしら」

『……こちらの映像をごらんください』


 先ほどの窓の映像が切り替わった。今度は白い服を着た男たちが、お鍋やフライパンを振っている姿だ。


「火のない場所で、調理?」

『当艦内のすべての厨房はすべてヒートボード仕様……炎を使わず、調理器具に熱を通して調理を行う仕様になっております』

「……火を使わずに? どういうこと?」

「似たような調理方法を知っていますわ。炎で高温にした石の上に肉を置いて焼く調理方法を、東のオーガ族が行っておりましたもの」

『はい、イミュリア様のお考えの通りです。そちらの黒いボードの温度を調整し、そのボードの上にお鍋やフライパンを置いて熱を使った調理を行います。またそちらの壁にはオーブンレンジが、そちらはフライヤー、そちらは急速冷凍器となっております』

「……オーブンレンジって?」

『詳しくは調理説明書をお出しいたします。また食材に応じた調理方法もいくつか紹介されておりますので、参考にしてください。壁の半分は冷蔵冷凍庫になっております。棚には調味料です』

「冷蔵庫! 本家にしか置いてなかったのよね!」

「なあ、つまりここでならイミュリアは食事が作れるってことか?」

「あの映像を見る限り、可能そうです」


 今でも壁一面に、料理を作る男たちの映像が流れている。なんとも精巧な幻術だ。いや、幻術ではないらしいが。


「なら酒のツマミをいくつか作ってくれ、一つ味見をしようじゃないか」

「畏まりました、慣れない調理場なので時間がかかるかもしれませんけれども」

『可能な限りフォローいたします』


 丸い球が料理の手伝い? 意味不明だができるのだろうか。


「そうか、じゃあ少しこの部屋で休もう。グレンよ、お姉ちゃんに酌をしなさい。お姉ちゃんもグレンに酌をしてあげよう」

「相変わらずお酒好きですね。でもあまり大酒のみにならないでくださいよ? オレのダンジョンとはいえ、得体の知れない場所なんですから」

『艦長、私は星間移民計画用先行調査艦です。得体の知れないという表現はやめてください』


 ほら、また訳の分からないことを言い出す。移民計画ってのは分かるし、それを調査する船っていうのも分かるが、そんなものがこんな山のど真ん中にあるとか意味不明である。

 大体ダンジョンが空を飛ぶだと? バカげている。

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