副長はお姉ちゃん
『現状の確認とすり合わせを行いたいです。当艦の現在地はお分かりですか?』
「えっと、フォルバル大陸の南に位置するフランクラット王国、ショーラン洞窟の奥、ショーランの階層遺跡……だよな?」
オレは兄上からもらったマニュアルに書いてあった地名を口にする。
「おい、大丈夫なのか?」
「だって、こいつがダンジョンマスターってオレを呼ぶなら……」
「外に出れない以上、この声から情報を可能な限り入手するしかないですわね」
姉上は心配そうにオレに声をかけるが、イミュリアは賛同してくれる。
『フォルバル大陸……データにない大陸名です』
「人間の大陸だよ」
母上の支配する大陸ではない。
『ソナーを実行しましたが、探知可能範囲内に岩盤や土といった成分しか検出されませんでした。当艦は墜落したのでしょうか?』
「いや、分かんないけど」
墜落?
「ショーラン洞窟は山の中腹に位置しているからな。ここは地面の中だ」
「姉上?」
「向こうの知りたい情報をある程度渡した方がいいだろう。こちらは閉じ込められている立場だ。このままでは交渉もできない」
「分かりました」
なるほど、交渉か。
『艦長……艦長のお名前を教えてください』
「ジャーマルグレンだ」
『ジャーマルグレン様、確認いたしました。艦長、そちらのお二人は?』
「セレナーデ姉上とその従者のイミュリアだ」
『セレナーデ様、従者のイミュリア様。確認いたしました。そちらのお二人はクルーなのですか? 役職は?』
「クルー? 船員ってことか? 役職?」
『艦長権限により、船員の任命が可能です。艦内クルーは副長や操舵士、観測士、通信士、医療スタッフ、料理人などがございます。ダンジョン的に言うと、幹部や側近、階層主などですね』
「ダンジョン的に……」
「グレンが艦長ならあたしは副長だな!」
「わたくしは、副長の側近でしょうか」
『艦長、クルーとするのでしたら任命をしてください』
「えーっと? いいのか、な?」
「あたしがいいって言ってるんだから問題ないぞ」
「わたくしはセレナーデ様に従うのみです」
「はあ」
『艦内クルーに登録することにより、特殊区画以外のエリアへの自由な出入りが可能となっております』
「とくしゅくかく?」
『当艦を維持するためのメイン中枢区画や動力室、最上級収集物エリア、武器庫などが上げられます』
「武器庫があるのか!」
『ございます。現状カテゴリ1~カテゴリ5までの武器が保管されております』
「カテゴリ?」
『カテゴリ1は対暴徒用の鎮圧武装、カテゴリ2は対暴徒用の制圧武装、カテゴリ3は個人を殺傷する目的とした武装、カテゴリ4は対敵性生物用、カテゴリ5は対敵対勢力用となっております。カテゴリ1からカテゴリ3まで艦長・副長権限により使用可能、それ以上のものは艦長権限により使用が可能となっております』
「見たいな!」
「武器かぁ」
僕はグレン兄上に剣を教わったけど、そこまで上手ではないからちょっと不安がある。
「それよりも、ここを出れるようになることの方が重要ではないのでしょうか?」
「「 あ! 」」
そうだった。
「セレナあね……お姉ちゃんを副長に、イミュリアをセレナお姉ちゃんの側近に任命する」
『了承いたしました、生態データの入力を行います。左のスキャンボックスに副長候補のセレナーデ様からお入りください』
プシューと壁がスライドし、人ひとりが入れそうな小部屋ができた。
「入ればいいのか?」
「お待ちください、セレナーデ様の最側近であるわたくしから入ります」
何気に『最側近』と強調してくるあたりおかしい。
『かしこまりました、副長の側近であるイミュリア様からお入りください』
「分かりましたわ」
イミュリアはその謎の小部屋に入った。
『そちらの壁の四角い印の部分に両手を付けてください。動かないようお願いいたします』
「ええ、危険はないのよね?」
『ございません』
相変わらずどこから飛んでくるか分からない声が、自信満々に答えてくれる。
『スキャンを開始します』
プシューと、小部屋がガラスのドアで閉められる。
「キャッ!」
「イミュリア!」
『壁から手を離さないでください』
オレと姉上でそのガラスのドアに近づく。イミュリアもどこか困惑した表情でこちらに視線を向けた。
『壁の印部分の手を付けて、動かないでください』
イミュリアはしばらく困惑したあと、ダンジョンコアの指示に従って壁の印に手をつけた。
『イミュリア様の登録を開始します』
光の線が、下から上にいくつも登っていき、そして頭の先端までいくと、今度は下がっていく。何をしているのだろうか?
『完了いたしました。イミュリア様、ご苦労様でした』
「え、ええ」
「大丈夫か?」
「はい、特に違和感はありませんでした……」
『生体情報を入手いたしました。作成できる生物の種類が増えました』
「は?」
『イミュリア様の生体情報により、悪魔種のツリーが解禁されました』
「おお!?」
ダンジョンっぽい!
『続きまして、セリアーネ様の登録を行います』
「分かった」
今度はセリアーネ姉上の番だ。姉上がイミュリアと変わり、小部屋に入り手を壁につく。
『セリアーネ様の登録を開始します』
姉上にもイミュリアと同じように、光の線が体をなぞるように上下する。
『完了いたしました。セリアーネ様、ご苦労様でした』
「ああ」
『生体情報を入手いたしました。作成できる生物の種類が増えました』
「おお」
『セリアーネ副長の生態情報より、ドラゴン種のツリーが解禁されました』
「すごい!」
姉上と同種の生物が作れるのか! これは最強のダンジョンが作れるのではないだろうか!
「オ、オレもやれば何か作れる種が増えるのか!?」
『データ不足のため、その質問にはお答えできません』
「ふむ、聞く限りやってみるべきではあるが……」
『クルーの健康状態の確認をするためにも、定期的に生体管理カプセルの使用を推進いたします。艦長はすでにダンジョンコアより生体情報を得ておりますが、実施いたしますか?』
「やってみようか……」
イミュリアや姉上が入った小部屋に僕も入る。ちょっといい匂いがしたのは内緒だ。
『艦長の健康状態の確認を行います』
「ああ」
オレも同じように壁に手をつく。
『スキャンを開始します。完了いたしました』
「そ、そうか」
『申し訳ございません、艦長の生態データからでは新規の魔物のデータは入手できませんでした』
「あ、そうなのか……」
「人族と魔族のハーフだろ? ダメなのか」
『現在艦内に侵入している生物の中で、蝙蝠型の魔物やネズミ型の魔物をガーディアン達が確保し、スキャンを行っております。それらからは同種の魔物のデータが入手できております。こちらは数が多いので、集計が完了次第ご報告をさせていただきます。それに対し、一部の虫や同じげっ歯類の生き物でもダンジョンの魔物として生み出すことのできない生き物がおります。それらの共通項目は魔石有無であることが挙げられます』
「……なるほど。オレには魔石が体内にないから、か」
人族や獣人、魔族、エルフやドワーフには一般的に魔石がないと言われている。それに対し魔物、魔獣、魔人は魔石がある。
オレは人族と魔族のハーフで人族よりだ、魔石がないのだろう。
『皆様のクルー登録が完了いたしました。完全遮蔽モードは現在も進行中のため、外部への出入りは禁止となっています。ですが、レストルーム、艦長室、副長室や食堂などの生活エリアの一部には移動可能です。そちらをご案内することが可能となりました』
プシュー、と壁の一部が開く音がした。この部屋から出れるようになったのだろう。
『現在位置はメインオーダールーム。当艦の指示中枢となり、すべての情報を統合し作戦指示を行い、操舵も行えます。エネルギー不足と全方位に障害物が確認できているため、航行は不可能です』
「航行? これは船なのか? ダンジョンではないのか?」
『当艦は星間移民計画用先行調査艦です。万全の状態であれば海空宙すべての場を航行することが可能の万能艦です』
「海は分かるが……」
「空まで飛べるのか」
「以前、彷徨い船と呼ばれる海を漂うダンジョンがあると聞きましたが、空を飛べるダンジョンだなんて……」
宙ってなんだろう?
「とにかく、お前はオレのダンジョンっていうことで間違いないんだよな?」
『はい、艦長。現在ダンジョンコアからの情報統合を行っている最中ですが、私は艦長のダンジョンであることは間違いございません』
「そうか」
『ダンジョンコアの解析が完了するまで完全遮蔽モードは解けず、その他の作業にも着手がほとんどできません。艦長からのお話により、この艦の現状が徐々に判明しております。推測も含みますが、ご説明させていただきますので艦長席にお掛けください』
「ああ、えっと。ここかな?」
『副長も席にどうぞ、イミュリア様は』
「セリアーネ様の横にいます」
『かしこまりました』
オレと姉上が席に座ると、部屋が少し暗くなって、突如空中に映像がついた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます