ダンジョンマスター = 艦長

『特殊高エネルギー体の回収を確認。特一級指定の最上位命令により、当艦を完全遮蔽モードに移行いたします』

「は?」


 突然この最奥の部屋に声が響いた。魔法か? 無機質な若い女の声が聞こえてくる。


『艦内クルーは全員、所定のエリアに移動してください。繰り返します、艦内クルーは全員、所定のエリアに移動してください』

「え? え?」

「どこから声がする!? お前は誰だ!?」


 呆然とするオレを守るように、姉上がオレを引き寄せて声を張った。


『完全遮蔽モードへの移行を開始いたします』

「だからお前は誰だと聞いているんだ!」

「セレナーデ様、警戒を。声は天井から聞こえてきます」

「ああ、グレンだけは死んでも守るぞ」

「あ、姉上」


 セレナ姉上の愛を感じる。


『外部ハッチを閉じます……外部ハッチに異常を検知、多目的ドローンを稼働。外部ハッチ周りの障害物を取り除きます…………排除成功。艦長、そちらのお二人に守られているご様子ですが、そちらのお二人は敵対する立場のものではないと判断してもよろしいでしょうか?』

「艦長とはなんだ!? どこから見ている!?」

『そちらの黒い髪の男性を私は艦長と認識しております。お名前をお聞かせください。艦長の横におられる赤い髪の女性と、銀色の髪の女性は艦長と敵対する立場のものではないとの判断でお間違いないですか?』

「艦長が、オレのこと? えっと、セレナ姉上もイミュリアも、オレの敵ではないよ」

『かしこまりました。外部ハッチを閉じます。成功。艦内にデータに無い無数の小型生物を検知しました。メインオーダールームの扉を施錠、ガーディアンを稼働させ、確保ならびに排除を試みます』

「え? 何を?」

『艦内及びクルーの安全を優先させます』


 プシューと下から音が。


「まさか!?」

「見てきます! …………閉じ込められました!」


 イミュリアから悲鳴に近い声がこちらに届く。


「お前! 何をしているんだ!?」

『現在艦内には、データにない未確認生命体を多数検知しております。ガーディアンを稼働させ対処しております。ガーディアン07が未確認生命体を確保、スキャンポッドへ入れました。データの抽出を開始いたします』

「何を訳の分からないことを!」

『確認完了、形状は30センチ程度のげっ歯類に酷似。モニターに表示いたします』


 オレ達の前の壁の部分の一つにケイブラットが映し出された。


「ケイブラット?」

『艦長、ご存じですか?』

「え、あ、えっと、洞窟に住む一般的なネズミの魔物、かな?」

『洞窟? 魔物? 未確認生命体の一種をケイブラットと仮称いたします』

「魔物も分からないのか? それよりダンジョンコアをどこへやった!?」

『ダンジョンコア、先ほど回収いたしました高エネルギー体の名称でございますね? 不明高エネルギー発生体をダンジョンコアと仮称、現在最高機密エリアにてエネルギー抽出作業と構造調査を実施しております』

「どこだそれは! オレ達をどうするつもりだ!」

『最高機密エリアへのアクセスは統一地球軍の准将以上の階級の者、三名以上の立ち合いでのみ行う事ができます。艦長お一人ではアクセスできません』

「だから艦長ってなんなんだ!」

『仮称ダンジョンコアより高エネルギーが流入、艦内エネルギー10%補填完了。集光パネルを展開。一部成功。集光パネルよりエネルギー発生率0%。調査用ドローンを射出します。射出口に異常確認、何かに覆われています。外部情報の取得に失敗。現状解放可能な搬入口は一か所のみと確定。最上位命令を優先、遮蔽モードを継続するため外部情報の取得のためのドローンの射出を取りやめます』


 どこの誰だか知らないが、勝手にベラベラと訳の分からないことを!


「姉上! どうしましょう! 外にも出れないなんて!」

「お姉ちゃんと呼んでくれ」

「それどころではないでしょう!」

「セレナーデ様、今は違うと思います」


 イミュリアがいて良かった!


『最上位命令により、艦内すべての出入り口が封鎖されております。仮称ダンジョンコアからのエネルギー解析及びデータ収集が完了するまで、すべての出入りはできません』

「なあ、さっきから思ったのだが。お前の質問にはしっかり答えてるよな?」

「あ、そういえば」

「確かに、そうですね」


 姉上はこういう状況でも、少ない状況を読み取っているようだ。


『艦長、外部からの情報がすべて遮断している現状です。情報が足りません。艦長から情報の提供を希望いたします』

「情報の提供? そもそもお前はなんなんだ? どこにいる!」

『私は星間移民計画用先行調査艦のメインコンピュータです。データがないため、現在地をお答えすることはできません』


 なんだって?


『現在地に至るまでのデータの読み取りが行えません。初期化されている模様、原因不明。艦長、航海記録の提出を求めます』

「航海記録?」

『データでの紛失を避けるため、手書きによる航海記録を記載するよう規約が決められております。そちらの提出を求めます』

「……オレはここに来たのは初めてだぞ?」

『こことは、どこのことを差すのでしょうか』

「この部屋だ! というかこの遺跡に来たのも今日が初めてだぞ!」

『理解不能、他の情報媒体を検索。信用できる情報ソースが仮称ダンジョンコアのみと断定、特一級指定収集物へアクセス開始…………………………』


 な、なんだ? 静かになったぞ?


『確認完了、仮称ダンジョンコアを正式にダンジョンコアと認識。艦長、あなたはダンジョンマスターなのですね?』

「そ、そうだ!」

『状況を確認いたしました。艦長のお名前をお聞かせください』

「艦長とはオレのことなんだよな?」

『その通りです』

「……なんで、オレが?」

『当艦の責任者がダンジョンマスターであられるあなただからです。メインコンピュータである私は、ダンジョンマスターであるあなたを主と認めております。この艦の主人、つまり艦長はあなたです』

「お前はダンジョンコアなのか?」

『はい、艦長』


 ダ、ダンジョンマスターって艦長だったのか!

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