№.99
Fuchsia
第1話
コポ、プクプク。
「ハッチを開けろ。」
白衣を着た男が部下達にそう告げた。
部下達がただちに行動する。
薬液が引いていき白い実験体着を着た少女の姿が現れる。
男が近づいていき声をかける。
「生まれ変わった気分はどうだ。」
少女は目を開け起き上がる。
ぼやける視界を凝らして男を見上げる。
後方にいた部下達が固唾を飲んで見守る中、一人が我慢できず言う。
「実験は、成功ですか。」
無表情だった男が微かにほほ笑んで口を開く。
「お前は今日から成功作(エリート)だ。」
------
懐かしい夢を見て少女が目を覚ます。懐かしいと言っても1年半ほど前の話だ。
体を起こすと同時にノックが聞こえる。
「はぃ。」
小さな返事を1つするとレディースメイドが1人入ってくる。
「おはようございます、お時間でございます。」
垂れ下がる天蓋をリボンで括りながら今日の日程を話し始める。
「本日は朝食後博士のもとへ行き健康診断を行います。午後は自由となっています。」
少女は無言で頷きベットから降りた。
朝食を終えてメイドと共に廊下を歩く、すれ違う職員達は皆会釈をして通り過ぎていく。
目的の部屋へ入ると部下達が数人、白衣の男を囲んでいる。
皆真剣は面持ちで話し合っている。
「博士、お連れしました。」
メイドがそう告げると少女は前へ歩き出す。
「先生、、、。」
男は振り返りほほ笑んだ。
「おはよう、気分はどうだ。」
「おはようございます。問題ありません。」
男は少女のもとへ近づき背中へ手を添える。
「今日はいつものチェックと軽い能力測定だ。」
男はメイドにご苦労と告げると少女と共に研究室の奥へと部下達と共に進んでいった。
健康診断を終えた少女は男たちをボーっと眺める。
見つめる先は博士と呼ばれる男を囲んで話し合いをしている。
「博士、身体データの変動はありません。」
「能力は若干の上昇あり、前回から訓練メニューは変えていません。」
部下達が報告をすると博士が満足気にした。
「さすが最高傑作だ、まだまだ伸びしろがある。」
その後も男達は研究の話に没頭している。
少女はただ無言で見つめているだけだ。
しばらくすると正午を告げるメロディが鳴った。
「ここまでにしよう。続きはまた後だ。」
部下達が片付けをしに散らばると博士が少女のもとへ近づく。
「今回も異常なし、さすがだ。」
「ありがとうございます、博士。」
「今は時間外だ、先生でいい。」
博士に連れられ研究室の入口へと向かうと今朝のメイドが立っていた。
「お疲れ様です。」
メイドはこちらへ一礼をする。
「今日はこれで終了だ、引き続き頼む。」
「承知いたしました。」
メイドに引き渡された少女が博士の方へ振り向く。
博士は微笑み少女の頭に手を添えた。
「午後は自由にしていい、これからも期待している。」
「はい、先生。」
食堂で沢山の少年少女が食事をしている。
メイドとともに食堂に入った少女はそのまま階段を上がっていった。
個室に入るとすでに食事が用意されていた。
色とりどりの食事に栄養剤、食事も訓練の1つだと物語っている。
席に着いた少女は淡々と食事を勧めていく。
「午後は82のところにいってきてもいい?」
「かしこまりました、私はs棟にいますので。」
「マリア、、」
「お嬢様?」
「なんでもない、いってきます。」
1人食堂を後にして中庭へ向かう。
中庭でも沢山の子供達が思いのままに遊んでいた。
眺めていると遠くから耳馴染みのいい声が聞こえてきた。
「おーい!こっちこっち!」
木が並ぶ木陰の下からこちらへ手を振る少女が1人。
そちらへ向かいゆっくりと歩いていくとにっこりと迎えられた。
「久しぶり、何日ぶり?」
「3日ぶりくらい、今日午後は?」
「ない!私優秀だから!」
物静かな少女と元気な少女が並んで談話をしている。
不思議とあたりの空気が澄んでいくような気がした。
しばらく話していると突然思い出したかのように話題が変わった。
「私ね、今度試験決まったの!」
その言葉に今まで表情を崩すことの無かった少女の瞳が不安げに揺れた。
「博士に期待しているって言われたからきっと成功する!」
「そうなんだ、いつ?」
微かにそわそわとしだした少女の変化を見落とさなかった彼女はそっと頬に手を伸ばした。
少女より少し背の高い彼女は優しく微笑んで頬を撫でる。
「一週間後、私嬉しいの。だから大丈夫。」
「、、なんで?」
彼女が何に喜びを感じているのか分からなかった少女は少し落ち込む。
「試験が上手くいけば私も成功作になれる。そしたらずっとあなたと居られるでしょ?」
「、、ずっと、一緒?」
「当たり前でしょ!、、ねぇ試験に受かったら私のお願い聞いてくれない?」
突然真剣な眼差しで少女を見つめる。
その瞳の奥に強い意志を感じ取った少女は静かに頷いた。
「いいよ、何?」
「私、あなたの家族になりたいの。私の妹になって。」
家族という言葉に疑問を抱いた少女は彼女を困惑した表情で見つめた。
「家族、って何?」
「前に聞いたの。唯一無二の存在なんだって。一番大切は人。」
彼女のその言葉を聞いて驚いた。
そしてすぐ返事をする。
「いいよ、私なる。82の家族になる。」
その言葉を聞いた彼女は満面の笑みを浮かべた。
「うん!絶対迎えに行くから、待っててね!」
まるでタイミングを見計らったように終業のメロディが鳴った。
素早く立ち上がった彼女は伸びをすると少女へ手を差し伸べる。
「帰ろうか。」
「うん。」
手を取り立ち上がる。
並んで棟へ向かうと吹き抜けの廊下でこちらを見つめ立っているメイドがいた。
「お迎えに参りました。」
「うん。」
「No82、お嬢様をありがとうございました。ここからは私が。」
「よろしく頼むね、メイドさん。」
彼女はメイドの方へ向けて繋いでいた手をふわりと離した。
メイドの前まで歩き振り向いた少女は名残惜しそうに彼女を見つめる。
はたから見れば分からないだろう少女の変化に気づいた彼女は優しく微笑む。
「またね。しっかり寝るんだよ。」
「うん、またね。」
メイドに促され廊下を進む。
82との会話が頭から離れずぼうっとしているといつの間にか部屋についていた。
「本日の夕食はいかがいたしましょうか。」
「部屋で食べる。軽食でお願い。」
「かしこまりました。」
メイドに部屋着に着替えさせられているとまたさっきの会話が頭をよぎった。
「ねぇ、マリア。」
「なんでしょうかお嬢様。」
「82、来週試験なんだって。」
「彼女はとても優秀です。博士も期待されているようです。」
「うん、。」
「お嬢様?」
「マリアには家族っている?」
「お嬢様、それについてはお答えできません、、ですが、家族がどういうものかはお答えできます。家族とは心で繋がっているもの。一緒にいて安心するものです。」
メイドはまるで何かを思い出しているかのように優しく微笑んだ。
それを鏡越しにみた少女は不思議な気持ちになる。
その気持ちの答えは見つからなかった。
「マリア、、。」
「はい。」
「、、何でもない。」
「お嬢様は今日少し変ですね。今朝悪い夢でも見ましたか?」
頭を左右に小さく振った少女は俯いた。
メイドは1歩後ろへ下がる。
「夕食まで少しおやすみになってください。」
「うん。」
メイドに促されるままベットへ横になり目を閉じた。
眠りの浅いはずの少女だがすぐに夢の中へと沈んでいった。
それを見届けたメイドは天蓋のリボンを解き静かに部屋を後にした。
メイドはそのまま雇い主である博士のもとへ行った。
研究室の戸をノックすると中から入れと声が聞こえた。
「失礼いたします、報告に参りましたマリアです。」
「あぁ。」
「No99、本日も変わりなくお過ごしになりました。ただ精神に若干の影響がありと思われます。」
「それはNo82の事だな。」
「はい。本日午後No82より来週の試験の話がされた模様です。」
「想定内だ。そのままでかまわない。」
「承知いたしました、失礼します。」
博士はカルテを手に取り報告を書きこんでいく。
カルテを眺め満足気に微笑んだ。
[ -実験体 №99- ]
№.99 Fuchsia @wasurenagusa_
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