第4話 ミミックさんとパイセン ①
僕はとても緊張していた。
今日から教育係がミミックパイセンになるらしいのだ。
理由は、ミミック先輩が僕を村に置き去りにしたから。
「ミミック先輩にはお仕置きとして、しばらくミミックパイセンが担当してるダンジョンの、分かりやす~い所で擬態して貰う事にしたよ。因みに、魔石の配給は要らないからねー。」
笑顔でそう言うミミック部長の頭には、確実に怒りマークが3個くらいついていたと思う。
この辺りでは難易度が高めのダンジョンの、見つかりやすい場所に、魔石配給なしでとは。
(ミミック先輩……あなたの事は忘れません……多分、きっと、おそらくは……)
僕は心の中でミミック先輩の姿を拝んでおいた。
□□□
「では、新人。本日より宜しく頼む。」
「は、はい!! こちらこそ!! よろしくお願いします!!」
忙しいミミックパイセンと話せる機会はほとんどないので、感激して声が裏返る。
憧れの人に直接指導してもらえるなんて、嬉しさしかない。
「今までの報告書を読むに、お前は……素材としては悪くない。自信を持て。」
「え!? あ、いえ、そんな事は……。」
「少なくとも、新人が村へ行った初日に一人で帰って来れた事例はない。」
「それは、置き去りにされた事例が無いからでは?」
「はっはっは。成程、そうとも言うな。だが、安心しろ。お前はこれから昇進していける器だ。」
「え……っと、ありがとうございます!」
何が面白かったのか、豪快に笑ったミミックパイセンに、よく分からないまま褒められた。
もしかしたら、和ませてくれようとしているのかもしれない。
ガタイが良くて圧も強めなミミックパイセンの事は、尊敬の念も相まって、距離を取るミミックが多いのだ。
僕はむしろ、お近づきになりたい方なので、そんな気を使ってくれるよりも、早く色々教えてもらいたくてウズウズしているのだけれど。
「では、本日の内容だが、まず、会話は全てテレパシーで行う事にする。喋るのは禁止だ。」
「へ!?」
「テレパシーはミミック界の生命線にもなる。苦手ならばそれこそ、訓練する必要がある。」
「も、尤もです。」
「そして、私から出す訓練内容は、以上だ。後は自分で考え、本日の仕事を全て終わらせてみよ。」
「え!?」
「お前の実力を測りたい。困りごとがあれば声を飛ばせ。それ以外は私は手も口も出さない。」
その言葉に、教えを乞う気でいた僕は驚愕した。
今までは、その日の仕事を共有したミミック先輩が効率の良い動き方を組んでくれて、その通りに一緒に業務にあたってきた。
それが当たり前だと思っていたが……
(そうか。いつまでも誰かがついて仕事を教えてくれるわけじゃないんだもんな……)
ミミックパイセンの提案には面食らったけれど、自分の甘えに気づき、与えられている本日割り振られた仕事内容に目を落とした。
【ダンジョンの見回り・魔石の配給・村での調査】
どれもミミック先輩とやってきた内容だ。
いつも通りにやればいい。
調査は自信が無いけれど……
「あの、ミミックパイセン。僕は昨日、初調査でしたが、開始十分程でミミック先輩が居なくなりまして……。正直村で擬態しただけだったんですけど。そのあたりは教えてもらえますか?」
「調査の基本は擬態。それが出来たなら問題ない。そのまま人間の話に耳を傾けるだけだからな。人間の行動パターンは講義で習っているだろう?」
「はい、一応は。」
「ならばそれを利用してとにかくやってみて欲しいのだが……そうだな。心配ならば思いついた計画を実行前に話すといい。危険と判断したら止めてやろう。」
「分かりました。」
それならば心強い。
(どうせやるならば、ミミックパイセンに期待の新人と思ってもらえるように、立派に仕事をこなしてみせるぞ!!)
僕はやる気に満ち溢れながら、仕事にとりかかる準備を始めた。
『出発の準備が出来たら声をかけてくれ。』
「あ、はい! ……あ、」
『はい。』
早速の失敗。
急な不意打ちに、言葉を返したのをテレパシーで正すと、ミミックパイセンは悪戯な笑みを浮かべながら『気を緩めるな新人』と、注意してくれた。
□□□
『頼むよ新人、ちょっかいかけて逃げてく奴ばっかで魔力が枯渇しそうなんだよ。』
見回りと魔石配給業務も終わりに近づき、本日最後のダンジョンへ行くと、
勿論僕に渡す気は無い。
何が何でも魔石配給をしてくれるなと、部長に言われているからだ。
間違っても、昨日の恨みなんかじゃない!
『そう言われましても……ミミック先輩にはくれぐれも魔石を渡さないようにと部長から言われていますので。』
『そこを何とか!』
『駄目です。』
『くぅ、育てた恩を忘れたのかよぅ!!』
『置き去りにした事を忘れたんですか?』
『……』
『そういう事ですので。』
『死んだら化けて出てやるからな。』
『ミミック先輩は僕なんかの所より、綺麗なお姉さんの所に行くと思いますけど?』
『確かにな。あんなことやそんな事し放題だ。悪くない。ひっひっひ。』
『……元気そうで何よりですね。魔石の配給は必要ないと判断します。では、失礼します。』
『あ、おい、待てって新人、待てよ―――っ』
問答無用でミミック先輩から離れると、テレパシーがプツリと遮断された。
僕は手元の報告書に文字を書く。
――― ミミック先輩はとても元気そうで安心しました。あと一週間くらいは大丈夫でしょう。
『お前、本当に大した器だな。』
報告書を読んだミミックパイセンが、ブッっと吹き出してそう言った。
『誉め言葉として受け取っておきます。』
そう返し口角を上げながら、僕は少しばかり緊張していた。
これから一度休憩を挟んで、午後からは村へ調査に向かう予定なのだ。
(流石に今日は擬態だけとはいかないぞ……何でもいいから情報を持って帰らなくちゃ……)
ここまでは順調に行っている。
だからなおさら「失敗は出来ないぞ」という思いで身が引き締まる。
ミミックパイセンに良いところが見せられますように!
僕は心の中でグッと拳を握った。
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