47.賢者様、仮面の三人組から人質を解放します
「ふふ、楽しそうだね。私もまぜてよ?」
言えたぁああああ!
私の心の中はそのことで一杯だった。
確かに、目の前にモンスターが迫っていて、ライカは女の子を守るので精一杯だし、ピンチなのもわかっている。
だけど、ここぞって時にここぞってことを言えることほど痛快なことはないでしょうよ。
「お、お師匠さまぁあああ!」
ライカは私に気づくと泣きながら駆け寄ってくる。
あらら、気丈に振舞ってはいたけど、やっぱり怖かったんだね。
とはいえ、もう安心だよ。
あんなモンスター、秒でやっつけてあげるから。
「な、なんだぁ、貴様ぁああああ!?」
「ふふん、劣等種が増えたところで何になるというのだっ!」
「そうだ! それにこっちには人質もいるのだ」
ライカの髪の毛をよしよしと撫でてあげると、男が三人現れる。
仮面をしていてどうみても変質者である。
どこかで見たような体型に声色だけど、判然としない。
どうやらあの仮面には認識阻害の魔法でもかかっているのだろう。
ふふん、変質者の癖にいい趣味してるじゃないか。
とはいえ、人質とは厄介である。
あのお姉さま方は気絶した状態でふよふよと触手にからめとられている。
ふぅむ、男装した麗人が触手うねうねなんて絵的にもまずいぞ。
「ライカ、その子を、守ってるんだよっ!」
ふぅっと息を吐くと、私は身体強化魔法を発動!
しかし、いつもの午前1時の運動会ではない。
私は【黒猫(ブラックキャット)暗歩(インザダーク)】の魔法を唱える。
そして、敵めがけてスタスタと歩き始めるのだった。
何事もなく、ただただ平然と。
そして、触手にからめとられたお姉さんを一人一人回収すると、ライカの近くに置いていく。
そして、指をパチンと鳴らして魔法を解除。
「なんだ、貴様、今、どこにいた?」
「怖くて逃げていたのか?」
「ひひひ、何をしようともこちらには人質が……お、おらん!? 人質が消えた!?」
異変に気づくのに大層時間のかかる三人である。
まぁ、当然と言えば当然。
先ほどの私の魔法は、黒猫が闇の中を無音・無気配で歩くように、一切の気配を消すことができるものなのだ。
特にダンジョンの中は薄暗いし、この魔法を発動するのにうってつけ。
「す、すごいですねっ! 私もそれやりたいですっ! 黒柴暗歩って感じで!」
ライカは元気を取り戻したのか、めちゃくちゃ嬉しそうである。
ふぅむ、黒柴暗歩かぁ……。
ちょっと顔の一部と胸元とお腹が浮き出そうな気もするなぁ。
黒プードル暗歩とかスキッパーキ暗歩ならいいんじゃないかなぁ。
それはさておき。
「さぁて、人質はいなくなっちゃったよ! 私の大事な弟子じゃなくて、後輩を脅かした罪は重いからね、覚悟しなさい!」
そんなわけで悪党どもを指さす私である。
途中で弟子って言いたくなるけど、リス獣人の子もいるし、一応、言い直す。
「ふははは! 何が覚悟だぁああ!?」
「我らが召喚した古代の魔物、ゲシュタルトは不死身!」
「魔法の使えない劣等種が倒せるとでも思ってるのか!」
下品な声で笑う三人組。
あっそぉ、ふーん、その化け物に相当の自信があるんだね。
その高い鼻を叩き追ってあげるよ。
「【超音速の右爪(ソニックブーム)】!」
私は大きな目玉をぎょろぎょろさせている魔物に、超音速の斬撃を叩き込む。
ずばぁあああんっ、などと音を立てて魔物は一気に切り刻まれる。
ふふん、キラーベアの首さえ落とす魔法だよ、バラバラ死体になっちゃうはず。
ぐぎぎっぎぎぎぎぎ!
「お師匠様! あれが立ち上がりましたよっ!?」
しかし、しかしである。
ライカが言うように、敵の化け物はバラバラの状態から目玉が浮かび上がり、再び元通りになってしまったのだ。
なんつぅ回復力。
トロルでもこんなことできないと思うよ。
「お師匠様、私も柴犬ドリルで体をえぐったんですけど、すぐに回復しちゃいました!」
ライカは必死な表情でナイスな情報を教えてくれる。
どうやらかなりの火力で一気に吹っ飛ばすしかないかな。
そうなるとダンジョンが耐えられるかわからないけど。
……ま、しょうがないかな。
よっし、いよいよ、出しちゃうぞ、【シュレディンガーさんちの猫】の魔法を!
ダンジョン一つ使えなくなるかもだけど!
これはもうしょうがない、必要経費だよね!
【賢者様の猫魔法】
黒猫暗歩:猫はそもそも闇夜の中をこっそり近づき、飼い主をびびらせることを生業とする生き物である。その中でも賢者様の実家の黒猫は闇の中に溶け込むように入り込み、トイレに行った飼い主を「わぎゃああ」と驚かせることに長けている。その生態を魔法の中に取り込んだのが、この術式である。暗い場所で効果を発揮するなど、午後2時の存在消失(アフタヌーンステルス)とは使えるシチュエーションが異なる。
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