46.ライカ、突然の敵の襲来に活躍してくれます!


「貴様ら、何者だっ! その子を放せ!」


「そうですよっ! 乱暴する人は徹底的にぶっとばしますよっ!」


 アンジェリカの捜索を開始したライカたちである。

 ダンジョンにいる他のモンスターは弱く、下の階層まで行っても問題ないと思われたからだ。


 しかし、そこで彼女たちは思わぬ敵と遭遇する。

 それは仮面をかぶった、見るからに怪しい男たちだった。


「ひきゃああああ!? 助けて下さぁああい!」


 悪いことにモンスターの触手にはリス獣人の冒険者の姿がある。

 彼女の名前はソロ・ソロリーヌ。

 ダンジョン探索をしているところで、男たちに捕まってしまったのだ。


「お前達、ワイへの冒険者だなっ!?」


「やれっ、ゲシュタルト!」


「レッドアイを倒してくれた恨みを晴らすのだっ!」


 彼らはモンスターを操り、ライカ達を威嚇する。

 そのモンスターは先ほどの目玉のモンスターに似ているが、なんと目玉が二つもある。

 体つきも大きく、触手はさらに多い。


「くっ、人質の救出が最優先だ!」


「行くぞっ!」


「ライカ君は、早く逃げるんだっ!」


 冒険者たちは覚悟を決めた表情になり、触手の化け物と交戦し始める。

 目指すはソロの解放である。


 ぐごがぁあああああああ!


 しかし、目玉が二つもあるその化け物はぐいんと体を膨らませると、猛烈な音量の雄たけびをあげるのだった。


 人は大きな音を不意に浴びてしまうと、体がすくんで動けなくなる。


「「「ぐはっ!?」」」


 三人の冒険者達は敵の触手になぎ倒されてしまうのだった。

 実力差は歴然としており、勝てるはずのない戦い。

 冒険者たちは意識を失ってしまう。


「はーっはっはっ、レッドアイを倒したからと言っていい気になるなよ!」


「これはレッドアイを二つつなげた禁忌の魔物!」


「わしらの生んだ不死の怪物に敵はおらんわぁああっ!」


 男たちは吹っ飛ばされた冒険者たちを前に大きな声で笑う。

 仮面をしているため顔は見えないが、邪悪に歪んでいること間違いなしである。


「うぅう、耳が痛いですね」


 しかし、ライカだけは無事だった。

 彼女はとっさの判断で耳に魔力を集め、聴力を守ったのだった。

 アンジェリカとの修行の成果と言ってもいいだろう。


「ぐぬぬぬっ、乱暴するなんて許せません! こうなったら、私が相手ですよっ!」


 ライカは杖を振りかざし、精神を集中させる。


 目の前に迫る無数の触手に恐怖を覚えないわけではなかった。

 しかし、このまま蹂躙されるわけにはいかないし、冒険者を置いて逃げるわけにもいかない。

 彼女は強い正義感の持ち主でもあったのだ。



「くはははは! 何だその構えは!」


「魔法でも使うというのか!?」


「貴様ら劣等種に崇高なる魔法が使えるものか!」


 三人は大きな声で嘲笑う。

 ライカの膝が恐怖で震えているのもあるだろう。

 しかし、それ以上に、彼らはライカが獣人であるにもかかわらず魔法を使おうとしていることを嘲笑ったのだ。


 そのことはライカの心を否が応でも刺激する。


「劣等種なんかじゃない、私はっ! 私たちはっ!!」


 ライカの脳裏に自分を拾ってくれた、猫人の師匠、アンジェリカの顔が浮かび上がる。

 アンジェリカはいつだってライカが魔法を使えるようになると信じてくれた。

 そして、実際に使えるようになったのだ。


 笑われる筋合いなんて、ないはずなのだ。


「でえぇりゃああああ、柴犬ドリルぅううううう!」


 ライカは飛んだ。

 もはや格好をつけることさえせず、ただただソロを助けるためだけに。

 

 ライカは全身に魔力が溢れていくのを感じる。

 そして、耳に水が入った時を思い出す。

 ぶるぶるぶるっと水をはじく様子を思い出す。


 あの素晴らしい姿を、回転し過ぎて顔のパーツがわからなくなる様を。

 そう、絶大なる祖先の回転速度を!!


 しゅばばばばあぁあああああっ!

 

 ライカの背後に神々しい柴犬が現れ、彼女を鼓舞するように頭を回転させる。


 ぴぎゃアアアアア!?


 ダンジョンに響く、モンスターの悲鳴。

 彼女の放ったドリルは猛烈な回転によって、モンスターの一部を切り裂いたのだった。


 モンスターは捕まえていた獣人のソロを投げだし、床に倒れる。


「ありがとうございますぅううううう!」


 ライカは投げ出された女の子のもとに向かい、彼女を確保する。

 ドリル魔法からの見事な早業だった。



「なぁっ!?」


「なんだぁあああっ!?」


「い、犬が、茶色い犬が背後に現れよったぞぉおっ!?」


 これには当然、びっくり仰天の仮面三人組である。

 彼らのモンスターがまさか魔法で攻撃され、あまつさえ人質を奪い返されるとは思ってもいなかったのだろう。


「私の魔法の前に、あなたたちの魔物は無力でしたよっ! さぁっ、おとなしく私に殴られなさい!」


 ライカは男たちをびしっと指さし、観念するように促す。

 その瞳には正義の炎が燃えていた。


「ふははは! あの程度の攻撃で我らがゲシュタルトを倒せると思ってかぁああ!」


「妙な幻術を使うようだが、わしらの相手ではないわ!」


 男たちが再び嘲笑を始めると、腹部に穴をあけたはずの魔物がむくりと起き上がるではないか。

 まるで何事もなかったかのように、触手をしゃあああっと伸ばしながら。


「そ、そんな……」


 その異様にライカは血の気が引いていくのを感じる。

 敵に致命傷に近い打撃を与えた感触さえあった。

 それが、ものの数十秒で復活することなど、あっていいのだろうか。


 ライカはこのまま逃げるべきか、それとも戦うべきかの選択肢を強いられる。

 リス獣人の娘を抱えて走ればなんとかなるかもしれない。

 自分が戦わなければ、失神した冒険者の三人は殺されてしまうだろう。


 しかし、勝てるだろうか?


 ライカの額に汗が流れ、頬を伝って地面に落ちる。

 彼女はぽつりと「お師匠様……」とつぶやくのだった。

 

「さぁ、命乞いを始めるがいい!」


「今日が貴様たちの命日だ!」


「そして、ワイへ王国を滅ぼしてやる!」


 邪悪な企みを口にして嘲り笑いをする男たち。


 まさに絶体絶命といった状況の中、ダンジョンの床にとある人物のシルエットが現れる。

 猫耳の影はこう言うのだった。


「ふふ、楽しそうだね。私もまぜてよ?」


 ライカが振り返ると、そこには口元に笑みを浮かべたアンジェリカの姿があった。

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