41.マッド魔術師のジャグラム、叩きのめされるも、仲間と連携して再起します!


 しかし、ここでラッキーなことが起こる。

 暴風の中に穴が生じたのか、ジャグラムのスライムはなんとか抜け出すことができたのだった。


「く、く、くそぉおおおおお!」


 突然の過激な悪天候のせいでせっかく増殖させたスライムが全て消えてしまった。

 自分の不運を呪うばかりだが、計画は終わってはいない。


 彼はコアスライムだけは生かして帰そうと、必死に抜け道を探す。


「そうだ、こいつさえ生きていれば、わしのスライムは何度でも蘇るのじゃぁあああ!」


 土壇場であったが、ジャグラムはまだ希望を捨ててはいなかった。

 マッド魔術師と言われようとも、これまでに築き上げてきた自分の魔術への自信がそうさせるのだ。

 大臣からもぎとったせっかくのチャンスを逃すわけにはいかない。


「わしはまだまだこれからじゃあぁあああ!」


 途中からコアスライムに気づいた冒険者たちが追いかけてきたが、ジャグラムはスライムを巧妙に操る。

 遠隔操作しているとはいえ、まさに一心同体になって駆けるのだった。

 


 ぷちっ!


 そんな時だった。

 彼がスライムと共有している視界は一気に崩れた。

 目の前が真っ暗になり、「シンクロ率ゼロ」との表記が現れる。


「はぁあああああ!? 噓じゃろぉおおおお!?」


 すなわち、それは彼の操るギガスライムが誰かにやられたことを意味するのだった。

 戦いの現場となった牧場からほど遠くない粗末な小屋の中、彼は絶望のあまり叫び声をあげるのだった。哀れ!



「くはははは! ジャグラム、やはり失敗したようだな!」


「あれだけの大口を叩いておって情けない奴!」


 彼がとぼとぼと住処に帰ろうとしていると、聞き慣れた声がする。


「お、おぬしらはっ!?」


 ジャグラムが振り返ると、そこにいたのはランナー王国宮廷魔術師のレイモンドとカヤックだった。

 二人はジャグラムを嘲笑うがごとく、にやついた笑みを浮かべている。


「ふん、嘲笑うがいい! わしの貴重なスライムが、計画が、潰されてしまったのだ……」


 ジャグラムは計画が失敗した直後ということもあり、二人に反論する気力さえも失せてしまったようだ。

 彼はこれまでに多大な時間と金と労力を今回の研究に費やしてきたのである。

 うなだれるのも無理はなかった。

 彼は二人からのあざけりを敢えて受けようとするのだった。


「くははは! そう言うな、ジャグラム!」


「実は、お前にいい話を持ってきたのだ!」


「い、いい話だと?」


 しかし、レイモンドとカヤックは彼を笑いに来たのではなかった。

 二人は言う、ワイへ王国を転覆し、大臣の信頼を取り戻すとっておきの方法があると。


「そうだ、実はな……」


 彼らはジャグラムに邪悪極まる計画を伝える。

 その計画は錬金術師のレイモンド、魔獣使いのカヤック、魔獣研究者のジャグラムの三人が揃わなければ決して達成できないものだった。


 完璧にワイへ王国とその冒険者たちを破壊できる方法であるかのように思える。


「その話、わしも乗らせてもらうぞぉおおっ!」


 その計画を聞いたジャグラムは、年甲斐もなく胸が熱くなるのを感じる。

 これまで仲違いをしていたがゆえに、計画を完遂できなかっただけなのだ。


 力を合わせれば、ずっともっと力を出せるはずなのだ。

 まだ、始まっちゃすらいないのだ。


「三人そろった俺たちは最強だぜっ! よぉし、飲もうや、前祝いだ!」


 カヤックはそう言うと、どぉんっと酒をテーブルの上に取り出す。


 彼ら三人は大臣のいる城には戻らず、街で前夜祭を行うのだった。

 全ては完璧に邪悪な計画の遂行のために。




◇ 一方、その頃、大臣は?



「ははっ、全ては皇帝陛下のご意志のままに! 必ずやよい報告ができると思います」


 ランナー王国の宮廷魔術師トップにして、大臣のジャークは魔道具を使って、とある人物と話していた。

 その相手とは大陸の中央を治めるイルワ帝国の人物である。


 そう、彼はランナー王国の重臣でありながら、他国の有力者とつながっているのだった。


「ぐひひひ、これで私も帝国で要職につくことができますね」

 

 報告を終えた大臣はほくそ笑んでいた。

 彼の部下である、ジャグラムがあと数日もすれば隣国のワイへ王国を崩壊させてしまうからだ。


 国土はスライムで荒廃するとは思うが、長期的に見れば問題はない。

 それにワイへ王国の誇るダンジョンを奪い取れば、巨万の富を得ることもできるだろう。


「さぁて、寝る前に日課でもやりましょうか」


 彼がベッドをずずいとどかすと、その下に秘密の部屋への階段が現れる。

 大臣は人の気配が周囲にないことを確認すると、その隠し部屋に降りていくのだった。



「ぐははは! やはり信じられるのは金銀財宝だけですよっ!」


 彼の目の前に現れたのは金銀財宝の山だった。

 この大臣、色々なところからわいろを受け取ったり、あるいは国庫を着服したりして、私腹を肥やしていたのである。

 近年ではアロエが頑張り続けた金をそのままポケットにいれていたこともあり、彼の財産は膨れ上がっていた。


「しかし、しかし、これではまだ足りませんよっ!」


 大臣は貪欲な男だった。

 一生遊んで暮らせる金を手に入れてなお、彼はまだ渇望していたのだ。

 ワイへ王国の宝を通じて、野望を達成することを!

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