38.魔法革命の始まり:ライカちゃん、ついに魔法を発動させる

「これで終わりですぅううう!!」

 

 ひゅぽおんっと暴風から抜け出してきたスライムの一群にライカが走る!

 彼女の強靭な足腰ならば、スライムなんぞ瞬殺だろう。

 魔法を唱えようとしなければ、だけど。


 しかし、ここで事件が起こる。


「あうっ!?」


 ライカは足元を滑らせてバランスを崩したのだ。

 ぬかるんだ地面を走っているから当然ありうる。

 とはいえ、これで転んだらどろんこだらけになっちゃうよ!?

 ひぃいい、ひどい泥汚れは取れにくいっていうのに!


「どおぉりゃあああっ!!」


 ところが、ところが!

 ライカはなんとか持ち直し、ぐるるんっと回転しながらジャンプするではないか。

 その回転たるや凄まじい!

 彼女の姿はまるでドリルのように変化する。


 しかも、その回転を維持したままスライムにつっこむ!



 しゅばばばばばば!


「でりゃあああ!」


 彼女の掛け声とともにスライムたちはどんどん数を減らす。


 めちゃくちゃな身体能力に舌を巻く私。


 いや、それだけじゃない。

 ライカの発生させた回転から魔力が吹き出しているのだ。

 その証拠に彼女の背後に、柴犬がぶるぶるぶるっと首をドリルのように回転させている姿が見える!


 その勇姿、まさしく犬魔法の証だよっ!


 そう、彼女は今、魔力をドリルの形に変化させる魔法を発動させているのだった。

 だいぶ粗削りだけど、魔法って言っていいはず。

 これが世界で初めての犬魔法だよ!


「ライカ、すごいじゃん! 今のが魔法だよっ!」


 回転を終えて、地面にへたり込むライカに走り寄る。

 生まれて初めての魔法の出現に気絶したっておかしくないはず。


「ありがとうございます! おばあちゃんの飼ってた、ぽんちゃんの動きを真似したんです。名付けて、犬魔法【柴(しば)ドリル】ですぅ……」


 ライカはぜぇぜぇ言いながらへたり込むも、自分の魔法について教えてくれる。

 なるほど、昔、飼っていた犬との思い出をもとに作ったんだね。

 それだよ、それ!

 そういうのを待ってたんだよ!


「すごいよ、ライカ! 君を誇りに思うよっ!」


「お師匠様ぁああああ!」


 あまりの感動に抱き合う私たち。

 ここにおそらく世界で二番目の、獣人の魔法使いが現れたのだ。


 しかも、ライカは純血の獣人。

 これは歴史を揺るがすほどのすっごいことである。



「お嬢ちゃんたち怪我はないか?」


「ラッキーだったなぁ、雷が落ちてギガスライムが自滅するなんてよぉ」


 私たちが涙ながらに抱き合っていると、他の冒険者も私達をねぎらってくれた。

 バレなくてよかった。


「犬人のお嬢ちゃんの回転ジャンプ、すごかったぜぇ?」


「あはは、犬が水滴弾くのと同じ要領で敵を倒すなんてなぁ!」


 一方でライカの活躍はしっかりと目撃されていたらしい。

 あのドリルはれっきとした魔法なのだが、彼らからすると犬がぶんぶん体を振るうのと同じに見えたらしい。

 いや、正直、私にもそう見えたけど、魔力が出てたんだよ。

 柴犬の精霊の姿が見えなかったのかな。

 

「違いますよっ! あれは私の犬魔法、【柴(しば)ドリル】なんですっ!」


 ライカは冒険者に抗議するも、「はいはい」「柴ドリルじゃん?」などと軽くあしらわれる。

 くぅっ、確かに今のを魔法だって証明するにはちょっと弱いかもしれない。

 見た目は犬のやつにそっくりなんだものなぁ。


 今後への課題を感じていると、私は背後に異変を感じる。



 カサカサ……


 振り返れば、嫌な気配を発するやつが通り過ぎていったのだ。


「あっ、お師匠様、赤いスライムが逃げていきましたよっ!?」


「でぇええ、うっそぉお! まだいたの!?」


 奴がまだ生きてやがったのだ。

 ライカの言う通り、逃げていったのは赤い色のスライムで結構目立つ。変種というやつだろうか。

 そいつは猛烈なスピードで逃げていきやがったのである。


 最後の一匹とは言え、分裂されたら厄介だ。

 私たちは急いでスライムを追いかける。

 あんにゃろう、こうなったら丘ごと焼き払っちゃうぞ、このやろう。


 しかし、私が牧場を崩壊させることはなかった。

 そのスライムの結末はあっけなく訪れたのだ。



「きゃっ!?」


 木陰から現れた女の子が赤いスライムを尻もちで潰したのである。

 私もライカも、他の冒険者もこれには大歓声!


 偉い、よくやった、すごい!


 ナイスしりもち!


 女の子のもとに駆け寄って、拍手を送るのだった。




【ライカの犬魔法】

柴(しば)ドリル(初級):ライカの祖母が飼っている柴犬の動きを参考にして開発された犬魔法。体を高速で回転させ、破壊力のあるドリルを出現させる。ぶるんぶるんっと揺れるさまを見ているだけで、非常に和むが、近づくと弾き飛ばされる。発動時には背景に柴犬様の魔力幻影が現れるが、原理は不明。


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