31.悪の錬金術師レイモンドさんの受難



「くそったれ。まったく面白くない」


 ランナー王国宮廷魔術師の重鎮の一人、レイモンドは怒っていた。

 彼のライバルであるカヤックに仕事を奪われてしまったからである。


 カヤックが仕事を成功させたら、出世競争で大きく後れをとることになるだろう。

 そう思うだけでイライラがつのり、仕事も身につかない。


「こういうときはあそこに行くに限る」


 レイモンドは仕事を投げ出すと、とある場所へと向かう。


 それは彼がマンドラゴラを植えた場所だった。

 隠ぺい魔法で誰からも見えない場所ですくすくと育ったマンドラゴラ。

 見晴らしの良い場所に植えたので、ここにいるだけでもスッキリ爽快だ。


「うふふ、俺の愛しのマンドラゴラちゃん」


 それを使って、とびきり上等の毒を作る材料になると思うと胸がわくわくした。

 彼の作る毒は呪いと同様に一流のものであり、これまでに様々な事件で使われてきた。


 もっともマンドラゴラの栽培はそれぞれの国によって完全に違法とされていた。

 管理が非常に難しく、もしも成熟した場合には強モンスターとなってしまうからだ。


 しかし、このレイモンドという男にはそんなお説教は効かない。

 彼は根っからの性格破綻者なのであった。


 彼はワイへ王国とランナー王国の国境になっている森の奥深くに分け入る。

 鼻歌交じりに隠ぺい魔法をかけた土地に入っていくと、信じられないものを目にする。



「な、な、なんだとぉおおおおおお!?」


 彼が精魂込めて育てていたマンドラゴラが全てなくなっているのだ。

 地面が穴ぼこだらけになっており、誰かが無造作に引っこ抜いた形跡が見られる。


 だが、肝心のマンドラゴラがすべてなくなっていた。

 消えていた。

 バニッシュしていた、蒸発していた。

 成熟までにはまだまだ時間がかかるはずなのに、いったいどうして!?


「なぜだぁああぁああああ!?」 


 マンドラゴラを失ったレイモンドはその場に突っ伏し、涙する。

 崖の向こう側の山々に彼の悲痛な叫びがこだまするのであった。


 うだつが上がらない中年男性が心のよりどころである家庭菜園を荒らされて涙する。

 同情を禁じ得ない話に聞こえるが、レイモンドは悪人であり、マンドラゴラの栽培は違法である。

 アンジェリカとライカによるマンドラゴラの収奪が彼の悪事を未然に防ぐことになったのは言うまでもない。

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