18.ジャーク大臣の悲劇と野望:手下がまたしてもやられて大損害です。たけど、次はこいつがやってくれる(と信じてる)!

「なぁっ!? 失敗しただとぉっ!? グジャラート団の愚か者どもめがっ!」


 ここはランナー王国。

 文化と歴史に優れ、周辺国からも一目置かれる大国である。


 その大国の有力者の一人がジャーク大臣。

 彼の野望は隣国のワイへ王国を侵略し、我が物とすることである。


 しかし、彼は今日も大声をあげて怒り狂っていた。

 普段は丁寧な口調の彼であるが、怒りが爆発した時には乱暴な口調になるようだ。

 

 その理由は単純なことだった。


 またしても、ワイへ王国の破壊工作に失敗したのだ。


 一度目はモンスターを使った街道の襲撃の計画。

 これは突如現れた冒険者か何かによって、未然に防がれてしまった。

 

 そして、二度目はならず者たちを使った、冒険者ギルドの襲撃。

 計画が実現していれば、多数の冒険者を殺傷していたはずなのだが、結果はまさかのゼロ。

 誰一人怪我を負うことなく、ならず者たちはお縄になってしまったのだ。


「それが理由はわからないのです。盗賊の中でも凄腕を雇ったのですが……」


 錬金術師のレイモンドは額に汗を浮かべて、事の顛末を伝える。

 そう、金目に糸目をつけず、最高のならず者を集めたはずなのである。


「それがどうも、冒険者ギルドに入った瞬間に気絶したそうです……」


 しかし、結果は散々なものだった。

 ならず者たちは誰と交戦することなく、冒険者ギルドの扉を開けて人質をとった直後に倒れてしまったとのことだからだ。


 冒険者の誰一人に危害を加えるでもなく、ただただ、その場で失神したとのこと。

 多くの冒険者がその異様な様子を見ており、今では物笑いの種にもなっているそうだ。

 

 しかも、である。


「なにぃっ!? 魔法爆弾がなくなっただと!?」


「は、はい。逃げたものの言い分では、見せつけはしたが、いつの間にかナスになっていたと申しております」


「ナ、ナスだとぉおお……!??」


 必ず爆発させるように伝えていた爆弾がなくなってしまったというのだ。

 それだけでも一大事だというのに、野菜に変化したなどと世迷いごとを言う始末。

 大臣は予想外の出来事に目を白黒とさせる。


 魔法爆弾は取り扱い注意の非常に繊細なものである。

 少なくとも、失神して地面に倒れたのなら、その瞬間に爆弾がさく裂してもおかしくはないのだ。

 魔法爆弾を持ち逃げした可能性も疑ったが、確かに懐から取り出したと見張りのものは伝えている。


「じゃあ、どこに消えたというのだ!? ぐぬぬ……、愚かな盗賊どもがぁああああ!」

 

 聞けば聞くほど間抜けな仕事ぶりで、怒りに震える大臣。

 はっきり言って、大損害である。

 

「とはいえ、得体の知れない敵が冒険者ギルドにいる……ということです。誠に残念ではございますが」


 レイモンドは眉間にシワを寄せ、大臣を慰めるような顔でゆっくりと話す。

 

 実をいうと、彼は内心、ほくそ笑んでいた。

 彼は当初より盗賊団を使うのを良く思っていなかったのだ。

 「ざまぁみろ、下衆な盗賊どもめが」と胸がすくような気分を感じる。


 そして、盗賊がやられた以上、必然的に次の出番は自分なのだという確信があった。

 

「くっ……、冒険者の連中め……。しかし、レイモンドさん、あなたに策があると言うのですか?」


 大臣は蛇のような瞳で、レイモンドをにらみつける。


 そう、大臣は大いに苛立っている。

 多額の出費をしているのに、ことごとく失敗を続けているからである。

 カヤックに出したモンスターも、グジャラート団に支払った金銭もバカにならないのだ。


 それが全て無駄になっているわけであり、金にうるさい大臣には耐えがたいことだった。


「ふふふ、ご安心くださいませ、大臣様。私の得意分野、呪いによってワイへ王国を暗黒のるつぼに陥れて見せます」


 しかし、レイモンドは怖気づくことはない。

 彼の内側にはもうすでに次の策が用意されていたからである。


 そして、その計画こそが彼の最も得意とする錬金術を活用したものなのだ。



「の、呪いですって!?」


「えぇ、大臣様のあれを使わせていただきます!」


「そ、そこまでするのですか!? レイモンド、あなたは恐ろしい男ですよ……」


 その計画の一部始終を聞いた大臣は、あまりの残忍な内容に言葉を失う。

 敵に甚大すぎる被害をもたらすこと、間違い無しの作戦だからだ。


 しかも、それは冒険者どころか一般市民までも標的に入れた、最悪の作戦ともいえる。


「ふふふ、私におまかせください……」


 レイモンドの口元には邪悪な笑みが浮かべられていた。

 彼は今、信じられないほど悪辣な作戦に打って出ようとしていた。

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